駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第8試合・ウェルター級契約ウェイト(64.4kg?)10回戦/●西川和孝[中外](8R2分33秒負傷判定0−3)畑大輔[進光]○

西川は15勝(5KO)5敗1分で現在日本ウェルター級6位。01年のSライト級西日本新人王でもある。今年3月に牛若丸あきべぇ[協栄]に敗れており、ランカーとして連敗は許されない立場。
畑は8勝(1KO)3敗2分の戦績。普段はライト級前後で試合をしており、これはランキングを求めての臨時的な転級か。同様の試みとしては、かつて山本大五郎[金沢]が2階級上のSウェルター級で日本ランキングを獲得した事がある。畑は昨年11月、Sフェザー級ランカーの山崎晃[六島]にTKO負けしており、日本ランキングは2度目の挑戦。
1R。西川が静かに圧力をかける→畑が牽制のジャブ→西川打ち終わり狙いの強振→畑が落ち着いて捌いて不発……の繰り返し。悪い意味で互角と言うべきラウンド。
2R。畑が徹底したポイントアウト狙いのアウトボックス戦術。ジャブを単発で打ってはステップとクリンチで西川の突進を捌いてゆく“作業”を繰り返す。西川は圧力かけて本来の階級差を見せ付けたいが、スピード面で逆に階級の差を見せ付けられている。
3R。畑はラウンド序盤にジャブを立て続けに浴びせたが、中盤以降は3分間逃げ切る事しか考えていない消極的な動きばかり。西川は強引に体ごと強打を浴びせていって、ヒットは奪えぬも“アグレッシブ”の要素でアピール。ジャッジ的には微妙なラウンドか。
4R。畑はこのラウンドもジャブで西川の手数乏しい突進を捌く事に専念。ガードの上へのパンチが大半だが、手数では圧倒的。だがラウンド終了直前、西川のショートブローが有効打となり、またも採点の難しい事態に。
5R。畑の消極的なアウトボックスが続くが、これに対しての西川の無策振りの方が目立つ体たらく。これが日本ランカーと有望A級選手の試合とは思えないし、思いたくない酷い内容。
6R。畑が左で明確なヒットを1発奪うと、あとはこのリードを守る事に専念する超消極的なファイト。西川の愚直な突進をステップワークとクリンチで捌いてボクシングをさせない。後手後手に回らされた西川は何とか流れを変えたいが、何十回も同じ失敗を繰り返している。
7R。畑が左のジャブ、アッパー、ワン・ツーで不完全ながらヒット。西川は攻められると律儀にガードで対応してしまい、自分の攻めの形を全く作れない。無数の空振りの中に2発程度のヒットはあったが、判定的にはどこまで?
8R。西川は漸くアグレッシブさを増して前進するが、今度は距離が詰まり過ぎて拳の前に頭が当たってしまう荒っぽい展開に。それでも西川が手数を増やし、攻勢の糸口を掴んだが、畑のバッティングによる負傷が悪化したという事で試合中止、負傷判定に。
公式判定は北村79-74、宮崎77-75、大黒77-76の3−0で畑が日本ランキング奪取に成功。駒木の採点は「A」79-73「B」79-76で畑。畑の僅少な有効打を交えたジェネラルシップと、西川の手数少なく無効化寸前のアグレッシブのどちらを採るか、ジャッジの主観で大きく割れる可能性のある内容だった。畑の地元という事を考えると畑の大差勝利も考えられたが、2人のジャッジは僅差の採点で“逆・地元判定”気味のスコアに。公式ジャッジも畑サイドの試合姿勢に相当ネガティブな印象を抱いていたのだろう。
西川の所属、中外ジムの会長は試合中から露骨なポイントアウト狙いの畑陣営に怒り心頭で、判定結果を聞くや「5点差ってどういうことや!」と、なんと本部席の試合役員へ襲いかかろうとするご乱心。慌てて西川とセコンドが止めに入って事なきを得たが、非常に悲しい光景であった。一番辛いはずの敗戦選手本人に何をさせているか分かっているのかと言いたい。地方の小規模ジムにとって出世頭の日本ランクはかけがえのない宝だとは承知しているが、こんなのはプロボクシングで客前でお見せするようなモノではない。
一方、勝った畑は、浮かれる身内を制するようにして敗者のように落ち込んだ様子で控え室へ。「客席無視のアウトボックス紛いで記録上の勝ちを掠め取ろうとするボクサーと、日本ランカーの任に堪えない拙い試合運びで自滅したファイターによる、合作超ダルファイト」と称すべきこの大凡戦、ただ一つの救いが、この試合で生じた負の部分の大きさを悟り、その全てを背負って苦しむ覚悟を決めた勝者・畑の姿であった。今日強く自覚した己のプロボクサーとしての矜持を今後も失う事無く、次は自信を持って自分の勝利を誇れるよう、精進・鍛錬に励んで欲しいと思う。