駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

IMPホール昼夜興行

体育の日だから、という理由かどうかは判らないが、毎年この時期に開催されるIMP昼夜興行。今年も昼の部に大阪帝拳ジム、夜の部に正拳ジムの主催でダブルヘッダーでボクシング漬けの一日となった。
この日は出場選手全員が西日本地区のジムに所属、日本ランカーの試合まで東南アジア人抜き。この関係者の矜持が感じられるマッチメイクは評価されるべきだろう。このように、興行力のあるジムが率先して良い“土壌”を作る事は、ボクシング人気回復にも良い影響を与えるに違いない。
良い土壌は良い選手を育て、やがて良いファンを集める。次はいつになるか判らないが、一般層がこぞってボクシング会場に足を運ぶような時期が訪れた時、その人たちを満足させてリピーターに変えられるような状況を作っておく事は大変重要である。亀田三兄弟をダシにした“重商主義”が終焉を迎えつつある今*1こそ、キャパ1000弱の会場を持て余す今だからこそ“重農主義”的な努力を怠ってはならない。西日本ボクシング界のレゾンデートルを賭けた戦いは既に始まっている。


※駒木の手元の採点は「A」(10-9マスト)「B」(微差のRは10-10を積極的に採用)を併記します。「B」採点はラウンドマスト法の誤差を測るための試験的なものですので、(特に8回戦以上のスコアは)参考記録程度の認識でお願いします。公式ジャッジの基準は「A」と「B」の中間程度だとお考え下さい。

*1:本稿は07年10月21日に執筆

第1部「ドラマチックボクシング」(大阪帝拳ジム主催)概要&雑感

昼の部は、大阪帝拳ジムの主催興行。最近当地で世界&日本ランカー出場の良質なカードを多数組んでいる同ジムだが、今回も所属の日本ランカー・山口賢一出場の10回戦をメイン、そしてハラダジム所属の日本ライト級7位・高山剛志に期待のホープ・高瀬司をぶつけるチャレンジマッチをセミに持って来た。特に高瀬は、大阪帝拳所属のアマ・エリート勢がランキング一歩手前で停滞を強いられるジンクスの打破に期待がかかる。

第1部第1試合・Sバンタム級4回戦/○貴田哲也[大阪帝拳](判定3−0)大島正規[大鵬]●

両者戦績は貴田1勝(1KO)1敗、大島1勝(0KO)2敗4分。貴田はほぼ1年ぶりの試合。大島は新人戦で緒戦をドロー敗者扱いとなって以来の再起戦。
1R。貴田が圧力かけるところを、大島がアウトボクシング気味にジャブ、ワン・ツーでいなす展開。貴田が度々ガードごと吹き飛ばす勢いでヒット、有効打を決める。大島の手数はダッキング、パーリングで弾かれ、やや非力。ゴングとほぼ同時に貴田がノックダウンも、これはラウンド終了後という判定でノーカウント。
2R。貴田のアグレッシブな攻勢が続く。圧力伴うフック攻勢の前に後退を強いられる大島は懸命に手数を返すが、逆に強引なクロスカウンターを被せられて劣勢。頭の位置が変わらないのも気掛かり。
3R。両者疲れが見え隠れ。ラウンド前半は貴田の圧力が弱まった分だけ大島のスピードと手数優位が目立つ。左カウンターで有効打も。後半からは貴田が再び渋太く圧力をかけ、終了ゴング前には連打攻勢で見せ場も。
4R。泥仕合気味のクロスレンジ乱打戦。足を止めての手数合戦が続く中、パワーで勝る貴田がジリジリと差を広げてゆく。
公式判定は西山、大黒、坂本の三者いずれも40-36で貴田を支持。駒木の採点は「A」40-36、「B」40-37で貴田優勢。
貴田がスピードの劣勢を圧力とパワーでカバーして完勝。相手の手数を捌くダッキングや、クロスカウンターなどが今日は機能していた。ただし総合力ではまだ発展途上。
大島は足を使って主導権を獲りたかったが、パワーの差に呑み込まれた。相性の悪さが響いたが、手数振るえどパンチ力不足の方が目立ってしまう現状でもある。

第1部第2試合・Sフライ級契約ウェイト(51.5kg)4回戦/○池田寛[レンゴー](判定2−0)石井秀明[ウォズ]●

両者戦績は池田3勝(1KO)6敗、石井2勝(0KO)4敗2分。池田は7月に1年7ヶ月ぶりの再起を果たすが敗れた。石井は今期新人王戦にエントリーも1回戦敗退に終わった。
1R。ファイター同士だが、圧力で勝る池田の優勢。ジャブ、ワン・ツー中心に手数を出して終始ロープやコーナーに詰め、ストレートでヒットを連発。石井はフック、アッパー中心に迎撃も、ガードを破る決定打に恵まれない。
2R。このラウンドも池田の攻勢。石井はジャブ連打やホールド気味のクリンチで捌こうと懸命だが、池田の攻勢とジャブ、ワン・ツー、フックばかりが目立つ。守備力の差も大きい。
3R。池田の手数、圧力攻勢が続く。威力には乏しいが、数的優位は広がるばかり。石井はアッパーや大振りストレート、フックを当てるも単発。池田はボディフックやショートアッパーなども繰り出して優勢を磐石とする。
4R。ショート〜クロスレンジで打撃戦。攻守の技術で勝る池田が手数とヒット数で大差。石井も終了ゴング前に漸く強打を浴びせたが、全体的に見ると池田の守備を崩しきれず、形勢挽回は果たせぬまま終わった。
公式判定は大黒40-36、坂本40-37、宮崎38-38の2−0で池田。駒木の採点は「A」「B」いずれも40-36池田優勢。
池田は圧力と手数で石井を圧倒。1発ごとの威力には欠けるが、終始攻めまくって完勝。このパワーが通用する相手を求めるならば、フライ〜Sフライ級が適しているだろう。これで6回戦だが、しばらくは相手を選ばねば厳しそう。
今日の石井は欠点ばかり目立つ内容で完敗。ファイター型がパワーで負けた時の為す術無さを露呈した形。まだまだ4回戦でキャリアを積まねばならなさそうだ。

第1部第3試合・Sバンタム級4回戦/●山中浩之[大阪帝拳](判定0−3)冨田聖登[ウォズ]○

両者戦績は山中2勝(1KO)無敗、冨田3勝(1KO)3敗1分。山中は今年5月、7月とデビュー以来短期間で連勝中。冨田は新人王戦にエントリー、西日本準決勝で今期覇者の加藤心和[金沢]に敗れた。今回は再起戦となる。
1R。冨田が開始ゴング直後からフック中心の強打攻勢で強引に主導権を奪取。ショート〜クロスレンジの打撃戦で優勢に立つ。山中もフック、アッパー中心に手数を返すが圧され気味の場面が目立つ。
2R。冨田はこのラウンドも強引に迫る。ボディ中心に手数を浴びせ、ラウンド後半には山中を根負けさせる。その山中は、前半こそ左右のカウンターでクリーンヒット浴びせて互角以上の展開に持ち込むも、徐々に受身に回って失速した。
3R。このラウンドも冨田の攻勢。ボディにしつこく手数を浴びせ続け、隙あらば顔面にも強振を見舞う。山中はラウンド中盤に一旦巻き返しかけたが、ラウンド通じて見れば手数劣勢は否めず如何ともし難い。
4R。冨田が密着距離をキープしてここも主導権。先手でしつこく手数を浴びせ、決定打には欠けるが確かな優位を築く。山中は打ち終わり狙いもリズムを狂わされて全く決まらない。相手の土俵に乗っかったまま試合が終わってしまった。
公式判定は西山40-36、坂本40-37、宮崎39-37の3−0で冨田。駒木の採点は「A」40-36「B」40-37で冨田優勢。
冨田が試合開始から主導権をキープして流れをコントロール泥仕合気味にはなったが、してやったりの完勝。但しこれでB級昇格。今後上を目指すには正攻法でも勝ち切れるだけの技術の裏付けも欲しい。
山中は骨のある相手にぶつけられ、とりあえずカベに当たった格好。今日は実力云々以前に自分のボクシングを全くさせてもらえなかった。今日の負けをきっかけに、試合をコントロールする駆け引きを学ぶ事も意識してもらいたい。素質そのものは4回戦では上位クラスだ。

第1部第4試合・バンタム級4回戦/△大前健太[クラトキ](判定0−1)山川浩平[Gツダ]△

大前は1勝(0KO)1敗1分でサウスポー、山川はこれがデビュー戦。大前は今年5月に初勝利を挙げている。
1R。両者アグレッシブに手数出し、中間距離で打ち合いが続く。大前はディフェンスワークにキレがあり、山川の攻勢を捌きつつ左ストレート、右フックで度々明確なヒットを奪う。山川はデビュー戦の割には頑張っているが、という所。
2R。ラウンド前半は大前が守備重視の試合運びで主導権を確保しつつワン・ツー、フックと手数を浴びせて先制。しかし後半に入って大振りが目立ち始め、その隙を突いた山川の右カウンターが度々決まって微妙な形勢に。
3R。大前は攻防分離傾向の上に熱くなりがち。山川の右ストレートを度々浴びて後手に回る。左ストレートで反撃はしてみるが、早くも試合慣れした山川は攻守共に手堅く、気持ちも強い。
4R。このラウンドも山川の右ストレートが次々と有効打に。大前の攻めは気持ちばかりが先走って空転気味。手数は互角だが、決定機を作れずにこのラウンドも微妙。
公式判定は西山39-38(山川支持)、大黒38-38、洲鎌38-38でマジョリティ・ドロー。駒木の採点は「A」39-37「B」39-38山川優勢。
山川はデビュー戦にしては攻守共に一本筋の通った印象のある選手。突出した才能はまだ感じないが、ルーキーらしからぬ気持ちの強さが印象的だった。
大前は守備に進歩有り。ストレートやフックの狙い撃ちも良かった。。だが、攻めに入ると左ガードが緩くなり、カウンターを次々と浴びせられてしまった。後半戦では劣勢打開を焦り過ぎて主導権も見失った。

第1部第5試合・フェザー級6回戦/○山本直[守口東郷](判定3−0)田中宏幸[千里馬神戸]●

両者戦績は山本4勝(3KO)5敗1分、田中3勝(1KO)3敗2分。山本は6月に05年度西日本バンタム級新人王の中村公彦[大星森垣]に引き分けて以来の試合。田中は8月に4回戦で3勝目を挙げ、ドロー2つを加味してB級昇格の資格を得た。今回が初の6回戦。
1R。両者精度の低い大振りが目立ち、有効打に乏しい展開。田中は守備手堅くアグレッシブに反撃して僅かに見栄えの良さも窺えるが、悪い意味で互角の内容。
2R。このラウンドも大味な打撃戦に終始。山本がラウンド序盤から圧力強めて攻勢に出、散発的にフックなどをヒットさせて優勢。田中も手数は出ているが……
3R。6回戦にしては大味な内容が続く。田中が一旦圧力を強めてリードを奪いかけたが、すぐさま山本がヒット連発させて逆襲。その後も一進一退の内容が続いて形勢は微妙。
4R。精度の低い打撃戦が続く。共にジャブ中心、接近してはボディへアッパー、フックと手数を繰り出すが、明確なヒットに繋がらない。ダルな雰囲気が漂う中、田中がヒット数で小差リード。
5R。掴みどころの無い冗長な展開が続く。このラウンドもジャブとボディブローで手数は出るが、明確なヒットは殆ど無し。ラウンド終盤、山本が攻勢に出る場面を作るが大差無し。
6R。強振合戦からスタートするが、気合カラ回り。田中は開始1分でスタミナ切れして動きが落ち、その分山本が手数とヒット数でリード。泥仕合気味になった終盤戦も押しきって何とかポイント確保か。
公式判定は坂本59-57、大黒58-56、宮崎58-56の3−0で山本。駒木の採点は「A」58-56「B」59-57で山本優勢。
両者、技術の裏付けに乏しく4回戦のような内容。精度の低い強振ばかりが目立った。
勝った山本は5、6Rに小さいながら見せ場を作った分だけポイントを稼いで競り勝ち。田中は守備面の手堅さは相変わらずだが、攻撃面の粗さも相変わらず。現状では6回戦で戦っても展望は厳しい。

第1部第6試合・ライト級10回戦/○高瀬司[大阪帝拳](判定3−0)高山剛志[ハラダ]●

大阪帝拳アマエリート軍団の1人・高瀬は4勝(3KO)無敗。高校時代にはインターハイでベスト8など50勝以上を挙げて06年9月にデビュー。戦意の低いタイ人相手に連勝した後の3戦目、巴山宏和[正拳]との6回戦で接戦を制し、4戦目は安達寿彦[岐阜ヨコゼキ]相手に初の8回戦となったが、全く寄せ付けず2RKO勝ち。今回は早くも日本ランカー挑戦のチャンスを掴んだ。
対する日本ライト級7位の高山は14勝(4KO)5敗。97年にヨネクラジムからデビュー。98年まで3戦1勝2敗で一時引退状態となるも、02年に復帰。翌03年にハラダジムに移籍し、西日本新人王戦で決勝進出(吉澤佑規[ウォズ]に敗れる)、再起後も6〜8回戦で3連勝など本格化の兆しを見せる。その後しばらくはA級で勝ったり負けたりを繰り返したが、05年夏に前年度全日本新人王で日本ランカーの磯道鉄平[ウォズ・引退]と接戦を繰り広げた辺りから上昇気配となり、そこから現在ノーランカーやタイ人相手ながら5連勝中。日本ランク入りも果たして徐々にステップアップしている。
1R。高瀬が序盤、精度高いジャブとボディブローで先手打つが、高山はインサイドワーク巧みに主導権を奪うと左アッパー中心に有効打、ヒットを浴びせて印象的な場面をメイクして形勢急接近。
2R。高山はいつもに比べて動きがやや鈍い印象。左アッパー、右ストレートを有効打、ヒットさせるが、高瀬のジャブを被弾してリズムが狂ってしまう。高瀬はローブローが気になるが、上下の打ち分けを意識した攻めを展開し、終了ゴング前には左フックと右ストレートをクリーンヒットさせた。
3R。高瀬はこのラウンドもジャブ、ストレート中心に精度の高い攻撃でヒットを量産。高山は出鼻を挫かれる形で苦戦したが、ラウンド後半から左アッパー、右ストレートでヒット連発して互角。
4R。精度高い両者のレベル高い打撃戦。高瀬がパンチ力の差で先手を打つ展開だが、高山は技術を感じさせるアッパー、ワン・ツー連打のコンビネーションでインパクトを残す。
5R。高瀬がこのラウンドもジャブとボディブロー中心に手数とヒット数を稼ぐ。高山もジャブ中心に反撃するが、今日はやはり動きが鈍い。足を止めた所で狙い撃ちされて被弾、というパターンが多い。
6R。動き少なくカウンターを狙う高山だが、高瀬が先手で放つジャブを被弾するばかりでなかなか反撃に映れない。主導権を失い、ラウンド終盤に打ち合いを挑んだが逆に左フックをクリーンヒットされて返り討ち。
7R。高山がカウンター合戦を仕掛けるギャンブルに出たところ、これが功を奏して連打を次々浴びせ優勢に立つ。高瀬も右ストレートをクリーンヒットさせるが高山の左フックを連続被弾してしまった。この辺りは高山も意地を見せる。
8R。高山はこのラウンドもカウンター合戦に勝機を見出そうとするが、高瀬はジャブの牽制でそれを阻止して相手の土俵に乗るのを拒否。アウトボクシング気味の慎重な試合運びでポイントをまんまとせしめた。
9R。高瀬の左がペースを握る。高山は容易に踏み込めず手数が出せない。完全逃げ切り体制に移行してポイント確保を狙う高瀬に対し、高山は右ストレート1発のみの抵抗に終わる。
10R。高山は動きが更に落ちて苦しい。目の腫れも酷くなって劣勢ムードが顕著に。高瀬は自在のペースでジャブを打ち続けてポイント確保に躍起。高山は最終盤に猛攻を仕掛けたが、ここでも決定打に欠けてしまう。空振りの多さも目立ち、ジャッジ的には逆効果かも。
公式判定は北村99-93、大黒98-93、宮崎97-93で高瀬がランキング奪取に成功。駒木の採点は「A」96-94「B」98-94で高瀬優勢。
高瀬が波乱を起こす勝利でランキング奪取に成功。持ち前の精度の高いジャブを起点にして相手のリズムを崩し、最後はアウトボックス気味にポイントアウトに徹して勝ち切った。体格の大きさを利して、相手が多用するショルダーアタックを完封できたのも大きかった。
高山は今日は序盤からスピード感のない動きで足も使わず、明らかに精彩を欠いていた。連打や打ち合いの中ではキャリアと技術の差を見せ付けたが、自分の距離を確保できずに苦戦を強いられた。ローリスクの戦術を必要以上に好む気の弱さも悪い方向に出てしまったか。苦労して手に入れた日本ランクも手放しで、再びフリダシに戻ってしまった。

第1部第7試合・バンタム級10回戦/○山口賢一[大阪帝拳](判定3−0)内山淳[倉敷守安]●

山口は11勝(3KO)1敗2分で現在日本バンタム級8位。02年にデビュー。緒戦をドローとした後3連勝して、翌03年度の新人王戦に勇躍参戦するが2回戦で敗退。再起までに1年3ヵ月のブランクを作ったが、その再起戦に引き分けた後は、ここまで7連勝中。06年6月には日本タイトル挑戦歴も豊富なベテラン熟山竜一[JM加古川・引退]を破って日本ランキングにも登載されている。同階級にジムの先輩・池原信遂がいる関係上、なかなかマッチメイクに恵まれないが、ここでキャリアを積んで来るべきチャンスに備えたいところだろう。
内山は8勝(4KO)4敗1分の戦績。03年にデビュー、04年度の新人王戦にエントリーするが西日本決勝で小阿洋一[Gツダ]に敗れて準Vに終わる。その後は岡山・香川といったローカル興行や大阪・中部遠征で年2〜3戦をこなしている。A級昇格後は勝率が5割を切っているが、今年4月には06年度西日本新人王の橋詰知明[井岡]相手にドローへ持ち込む健闘を見せている。今回は7月の福井遠征(8R判定負け)以来のリング。
1R。アグレッシブタイプ同士の打撃戦。内山が圧力で勝り、手数・ヒット数、主導権争いでも優勢。山口は時折鋭くアッパー、フックを返すが、ラッシングが持ち味の彼にしては珍しく後退する場面が目立つ。
2R。このラウンドも両者アグレッシブに出て打撃戦。内山の右ストレート、左右ボディがインパクトの有るシーンを作る。山口も連打でランカーの意地を見せるが、内山の圧力と固めたガードを崩せない。
3R。山口はラウンド序盤こそ圧力かけて先手で連打放つが、内山は頭を低くして打たれない位置をキープしながら右ショート、左右ボディをヒットさせ、最後は逆に圧力をかけて押していった。
4R。圧力合戦で不利を悟った山口は、やや距離を開けて鋭い連打で攻め立てるが、内山は意に介せずといった風に圧力・手数攻勢。ラウンド終盤、山口は再び中間距離から連打を放って優位に立つ。
5R。胸突き八丁という言葉の似合う強打・連打合戦。山口は引き気味、カウンター気味に先制を狙うが、内山も同数のパンチを放ち、更に圧力をかけてゆく。互角の形勢だが“アグレッシブ”要素の分だけ内山優勢と見ていいラウンド。
6R。山口は横の足を使ってボクサー型の試合運びを試してみるが、すぐに足を止めての打ち合いに応じてしまって中途半端な印象。内山はガードを固め、粘り強く手数を返し、攻勢点とヒット数で優位。
7R。山口、今度は真向勝負を選択するが、内山の圧力、ガード、手数、そしてインサイドワークまでが少しずつ上を行く。山口はラウンド終盤またも引き気味に戦うが、逆に守勢が明らかになってしまう。
8R。山口は前後の足を使いつつ、漸くリズムを掴み、打ち合いで右フックをカウンターで決めて起死回生のノックダウン。その後、右アッパーをクリーンヒットさせてTKO寸前の場面を作るが、内山はここから粘って手数を出してやがてゾンビのように甦る。最後は山口が攻め疲れで失速してしまった。
9R。山口は迎撃中心のスタイル。アッパーをちらつかせて内山を足止めしながら、先手でフック、アッパーを決めてゆく。しかし内山も粘り強く、右フックのクリーンヒットで山口を効かせて互角以上に。
10R。内山は圧力衰えず、先手、先手で攻勢。ヒット数でも差をつける。劣勢になった山口は逆転の糸口すら見出せず苦戦。圧力を受けて自分のリズムを崩したまま試合を終えた。
公式判定は北村98-94、大黒96-94、坂本96-95の3−0で山口の勝利だが……。山口は8Rにダウンを奪い大差優勢を築いた以外は守勢に回った時間帯が長く、この採点結果、特に4点差をつけた北村副審のスコアには疑義を呈したい。なお、駒木の採点は「A」97-92「B」98-94で内山が優勢。「B」採点でイーブンをつけた微差のラウンドを全て「10-9山口」に振っても95-94、内山が1点上回る。
山口は8Rにダウンを奪いTKO寸前の場面を作ったが、終始圧力で負けて守勢気味の苦しい試合展開。確かに手数は出ていたが、ヒット数では明確に上回れず、正直な所、ジャッジが彼のどの部分を評価して過半数のラウンドで支持したのかがよく分からない。試合後、敗れた内山の手を挙げて対戦相手の大健闘を称えたのは本心の表れではなかろうか。
内山は終始攻勢点を稼ぎ、主導権も支配。手数・ヒット数でも互角のラウンドが多く、金星かと思われたが……。頭を低くガードを固めて突っ込むスタイルが「乱暴な突進」と見做されたのかも知れないが、相手が同型のファイターだっただけに、容易には頷けない。1年半前、明石で児島芳生[明石]と戦った時より体力面で大いに成長しており、その努力に見合った結果を手に入れて欲しかったのだが……。

第1部総括

全試合判定の長丁場となったが、セミとメインの内容はフルラウンドでも観客を容易に飽きさせないもので、筆者も興行後半は「これでノーテレビなのが惜しい!」とエキサイトした程であった。それだけに、最後の最後で採点に水を差されたのが残念でならない。
本興行の主役は勿論、内山。そして試合後に彼の手を挙げて大いにその健闘を称えた山口のスポーツマンシップにも拍手を送りたい。

第2部「ドラマチックボクシング・プレゼンツ・拳王への道」(正拳・大阪帝拳共催)

夜の部は正拳ジムの若手育成興行「拳王への道」。若手選手層の厚さでは西日本でもトップクラスの正拳ジムだが、その地盤を支えているのがこの「拳王――」シリーズであるのは間違いない。晩成型のグリーンボーイが徐々に成長を遂げ、B級・C級まで辿り着く過程を追いかけていく……というマニア心を満たしてくれるのも嬉しい。
ただ、最近少々気になるのがこの興行のマッチメイク方針である。勝敗の読めない実力拮抗のカードを、実力相応の相手とやらせて選手を上手く育成したい……というプロモーター側の意向は理解出来るのだが、「このクラスではまだ少々荷が重いか」という選手に、同じように「このクラスでは……」という選手を安易にぶつけるケースが、毎回1〜2試合見受けられる。その結果、充実しているとは言い難い内容で拮抗したフルラウンド試合となり、興行全体のクオリティを目減りさせているようにも思えるのだ。能力以上に見栄えのある試合になりそうな噛み合う選手を探す、ライセンス上の昇格を果たしても時期尚早と感じたらジム側の判断で“原級留置”させ、元のクラスで上位級の選手をぶつける……など、出来る事はいくつかあるはずだ。高望みと言われればそれまでだが、どのジムよりも若手選手の試合と興行のクオリティを大事にする正拳ジムにだからこそ啓上したい一筆である。

第2部第1試合・Sバンタム級契約ウェイト(54.5kg)4回戦/△兼本誠大[正拳](判定1―1)野元健太郎[奈良六島]△

両者戦績は未勝利1敗。兼本は5/27、野元は7/12にデビュー戦に出場し、それぞれ敗れている。
1R。両者アグレッシブも大振りで雑なパンチが目立つ。野元が圧力をかける中、兼本が手数を浴びせて数的優勢……という微妙な展開。ラウンド終盤、野元が強打をガードの上から構わず浴びせて小さな見せ場。
2R。このラウンドもアグレッシブな攻防戦。中間距離からワン・ツー、フック連打を振りまわす。このラウンドは野元が圧力と手数をミックスさせる攻勢で圧し気味。兼本も激しく抵抗するがパンチが当たらない。
3R。野元がジャブ起点に主導権支配し、圧力もかけてゆく。左ボディ→右ストレートで差を広げるが、兼本も右アッパー2発から反転攻勢。ボディにヒットを連発して形勢挽回。
4R。消耗した中、アッパー、フック中心の乱打戦。空振り多く気持ちだけで戦ってるような内容。兼本が先制打で野元からマウスピースを吐かせるが、野元もラウンド後半には攻勢に出て一進一退の展開。
公式判定は大黒39-38(兼本支持)、西山39-38(野元支持)、北村38-38の三者三様ドロー。駒木の採点は「A」38-38「B」39-39イーブン。
同型・同戦力同士の2人による互角の内容。この結果は妥当だろう。しかし両者大振り、精度の粗さが目立ち、今後へ向けて課題が多く見つかったのではないか。共に攻勢が顕著で、今でも相手次第では1勝出来そうだが。

第2部第2試合・Sフェザー級契約ウェイト(58.5kg)4回戦/○森田雅之[正拳](2R0分55秒KO)寺前明彦[陽光アダチ]●

森田はこの日がデビュー戦。寺前は未勝利で4敗。最近は試合枯れ気味で1年前の9月以来の再起戦となる。その前回の試合では、わき腹にヘディングを受けて立ち上がれず、そのまま10カウントを聞くという実に珍しい負け方をしている。
1R。寺前はリング中央の森田の周囲をステップしながらジャブ、ワン・ツーを浴びせてリード。森田はガードを固めて専守防衛。攻めに転じても緩慢な動きで精度に欠け、デビュー戦ならではの硬さが窺える。
2R。インターバル中に意を決しか、森田はアグレッシブに出て打ち合いへ出た。寺前はボディを打たれると異様に効いた素振りを見せ、最後はフラフラになってダウン。立ち上がったが足元が覚束なく10カウント数えられた。
森田は1Rこそ全くボクシングにならず苦しい立ち上がりも、相手の打たれ弱さに助けられて10カウントのKO勝ち。実力査定は次回に回したい。
寺前はガードが低く、その割には打たれた際の脆さが酷い。動きそのものは5戦5敗が信じられないほどだが、これほどまでに痛みに対する耐性が無いのでは、プロのリングではどうしようもない。

第2部第3試合・Sバンタム級4回戦/○東昭蔵[正拳](判定3−0)奥健太郎[奈良六島]●

両者戦績は東2勝(0KO)3敗、奥2勝(1KO)3敗2分。東は7月の敗戦以来の再起戦、奥は6月に新人王予選敗退からの再起を勝利で飾ったばかり。
1R。両者アグレッシブなタイプだけに、いきなり近距離での乱打戦に。奥がコーナーに詰めて先制するが、東もボディ中心に手数・ヒットを稼ぐ。但し、2人とも今少し攻撃精度が欲しい。
2R。このラウンドも互角の乱打戦が続く。東はボディ中心にヒット数で小差リード。奥は手数攻勢で反撃して互角に渡り合うが、終了ゴング前にカウンターをクリーンヒットさせてからの追い討ちで、プッシング気味ながらダウンを奪う。
3R。ノンストップの乱打戦。両者動きに無駄、雑さ目立つが、アグレッシブさは感じさせてくれる。このラウンドも明確な見せ場は少ないが、奥がまとめてヒットを稼ぐ場面があり、これがどう評価されるか。
4R。やや膠着気味の乱打戦。空振りが多い内容だが、奥が先手で攻めて東をクリンチに逃げさせる。だがラウンド終盤には東のボディ連打で奥も苦しくなった。
公式判定は宮崎39-36、大黒39-37、北村38-37で東。駒木の採点は「A」39-36「B」39-38で東優勢。
同タイプの2選手による乱打戦。両者動き粗く、パフォーマンスは有り体に言って平凡。勝負処でクリーンヒットを奪えた勝負運が明暗を分けた。中でも東は、4Rボディに的を絞って効かせる等、咄嗟の判断で一枚上だったか。

第2部第4試合・Sバンタム級6回戦/△安本祐太[尼崎亀谷](2R1分25秒負傷ドロー)島田惇輝[明石]△

両者戦績は、安本5勝(3KO)5敗1分、島田4勝(1KO)2敗1分。安本は新人王戦でベスト4に進出したが、今期覇者の名越光紀[新日本大阪]に惜敗。島田も新人王戦に参戦も予選敗退。7月に再起戦を勝利してB級昇格を果たした。
1R。ジャブ中心の差し合いから互いの出方を窺う、6回戦らしい攻防戦。島田がキレある動きで右アッパー、ボディ、左フックなどを決めてリード。安本も得意の右を決めるが、こちらはヒット数に乏しいか。
2R。島田が序盤から右アッパー、ストレートをクリーンヒットさせて打撃戦を有利に進めたが、激しいバッティングで安本が左目付近と額を、島田が右目尻を負傷。中でも安本の額の傷が重く、1回目のドクターチェックでストップとなり、負傷ドローの裁定。一発で止めたからには相応の負傷だったのだろうが、優勢だった島田には少々気の毒。
アクシデントによる負傷ドロー決着。島田は精度難、守備の甘さといった欠点が解消され、得意の右ストレート、アッパーが活きて来た。これなら6回戦でも通用する。
安本は右に頼り切りの試合運びが6回戦クラスでは通用し辛くなっているようだ。引分は拾ったが、今日は負けに等しい内容。

第2部第5試合・フライ級6回戦/○金城吉廣[正拳](判定3−0)鈴木遼[尼崎]●

両者戦績は金城5勝(2KO)7敗2分、鈴木4勝(0KO)3敗2分。金城は4月、7月と利幸トーレス[大鵬]相手に連戦したが無念の2連敗。今回はターゲットを2月に勝った相手に定めて再起戦に臨む。鈴木は2月に金城に敗れて以来の試合。昨年10月に引き分けた山口淳一[森岡]は今や日本ランカー。出世したライバルに追いつくためにも負けられない一戦だ。
1R。両者ややぎこちなさも窺える中、ジャブ、ストレート、密着しての連打を打ち合う。ヒット数で鈴木が小差リードするが決定打を欠く。6回戦の試合としては見応えに欠ける内容だが……
2R。膠着が多く、噛み合わない内容に。互いに距離が合わない所からジャブやアッパー中心に手数を出し、出会い頭気味のロングヒットを交換する展開。鈴木は密着して圧力攻勢からの連打で攻勢を主張するが、どこまで?
3R。膠着しては離れてパンチを交錯させる変則的なヒット&アウェイの展開。離れ際に金城がボディ、鈴木は単発の右ストレート。ラウンド終盤に鈴木は右ストレート有効打、ワン・ツーもヒットさせてアピール。金城は1Rにバッティングで切った左目付近の傷から夥しい出血。
4R。このラウンドもやや膠着気味も金城の右ストレートが先手で決まる。鈴木は距離が合わず空転気味だがが、ロープ際に詰めて強引に連打を見舞う。終了ゴング前には連打で挽回したが……
5R。序盤に金城が左ボディをクリーンヒットさせ、鈴木は失速。クリンチが多くなり、連打も後が続かなくなる。金城はここで追撃したかったが、密着されてなかなか決定機を作れない。
6R。膠着気味の展開。鈴木は体を浴びせつつ、強引に右ストレートや連打で粘る。だが金城も不完全なヒットが目立つが強打を打ち込んで際どく迫る。鈴木の消耗した様子が印象を損ねそうだが……
公式判定は宮崎59-55、洲鎌59-56、坂本58-57の3−0で金城。駒木の採点は「A」58-56金城優勢「B」58-58イーブン。
6回戦にしては動き、パンチに精度を欠き、膠着も多い今一つの内容に終始してしまった。両選手には次回以降に奮起を促したい。
金城は序盤の負傷にもめげず、要所で強打浴びせて際どくポイントを稼いだ。鈴木も粘り強く戦い、前半は互角以上の場面も作った。判定結果発表の際にも不満を露わにしたが、気持ちも判る内容だった。だが、試合中バテました効きましたと判断されるような仕草をする場面が多く、被弾以上に印象を悪くしたのではなかろうか。ポーカーフェイスや演技も実力の内である。

第2部第6試合・バンタム級6回戦/○橋口峻[正拳](判定3−0)堀江純平[大阪帝拳]●

7/28に行われた同一カードのダイレクト・リマッチ。前回はほぼ互角の内容ながら橋口が判定を制している。
両者戦績は橋口5勝(2KO)5敗1分のサウスポー、堀江5勝(2KO)7敗1分。橋口はここ5戦で4勝1敗と好調をキープ。この試合に勝てばA級昇格である。対照的に堀江は、最近5戦で1勝4敗、しかも3連敗中である。最近の敗戦はいずれも微妙な内容と微妙な判定結果に泣かされたもので、戦歴以上の地力の持ち主だが……
1R。中間〜遠距離での攻防。橋口が先手で手数を出し主導権確保。堀江は圧力をかけ、捨てパンチから右ストレート有効打に繋げるが、後が続かず。橋口はラウンド終盤にもアグレッシブにアッパーなどの追加弾で手数勝ち。
2R。ラウンド前半は橋口がジャブとストレートで主導権を引き寄せリードするが、堀江も後半から踏み込み鋭くストレート、アッパー中心にヒットを連発し反転攻勢。
3R。堀江がショートレンジを確保してアッパー中心にヒット連発し優勢。橋口は体格差利して長いリーチ活かせる距離に突き放したいが、単発のボディばかりでやや苦しい。終了ゴング前には堀江は連打でコーナーに追い込んで見せ場を作る。
4R。密着距離の打撃戦。橋口がガードの上からショートボディを連発して攻勢アピール。堀江はやや手数が少ないが、アッパー、ボディに的確なヒットを浴びせる。
5R。クロスレンジの打撃戦。橋口は単発強打のボディもガードの上を叩くばかりで明確なヒットに乏しい。堀江はここも手数不足だが、ジャブ、アッパーなどで的確にヒットを重ねて“クリーンヒット”要素で優位に立つ。
6R。橋口は力づくで堀江の動きを抑え込みつつ、ガードの上へ強打を打ち込んで攻勢点を狙う。堀江は時折手数をまとめてヒットを奪うが、このラウンドは完全に手数不足。
公式採点は洲鎌59-56、坂本58-56、大黒58-56の3−0で橋口。駒木の採点は「A」57-57「B」58-58イーブン。
橋口が体格差を利して試合をコントロール。手数とガードの上への強打でジャッジにアピールした。攻撃精度に欠ける中、パワーでもぎ取った勝利。同一選手相手に連勝で次は8回戦だが、今後の活躍が叶うかは未知数。
堀江はまたも微妙な内容と判定。パンチの精度では確実に上回るが、様子見と受けに回る時間が長すぎて手数不足に陥った。今日は手数の少なさが特に目に付き、これでは西日本地区のジャッジを説得するのは難しい。これで4連敗、そろそろ本質的な内容以外にジャッジに点数を貰うための手立てを考えなければならないのではないか。ヒントは彼が敗れた対戦相手が如何にしてポイントをスティールしていったか。敗戦を勝利の父として巻き返しを図って欲しい。

第2部第7試合・フェザー級契約ウェイト(56.0kg)8回戦/○西正隼[正拳](判定3−0)松村勝[ウォズ]●

セミファイナルはこの興行唯一の8回戦。
西は7勝(4KO)6敗2分の戦績。02年にデビューするが、新人時代は勝ったり負けたり、04年の新人王戦でも2回戦敗退に終わっている。6回戦に上がっても連敗スタートと冴えなかったが、06年から6回戦で連勝、前回7月には8回戦で初勝利を挙げた。
松村は8勝(3KO)4敗でサウスポー。03年にデビュー、同年3連勝で04年の新人王戦に挑むも初戦敗退。再起戦でB級に昇格、6回戦を3勝1敗でクリアすると、06年6月にはタイ国遠征に出て世界ランカーのナパーポンに挑んだ(5RTKO負け)。その後、再起戦に敗れるも、今年4月には上原裕介[大鵬]相手に幸運な負傷判定ながらA級初勝利をマークしている。
1R。ラウンド前半は両者様子見に費やしたが、やがて松村が圧力をかけて右ボディで先制する。だが西もワン・ツー決めて挽回し、更には左フックのクリーンヒットでワンパンチ・ノックダウン。更に畳み掛けて2度目のダウンを奪ったが、ゴングの一瞬後という判断で、こちらはノーカウント。
2R。両者短期決戦を意識したような打撃戦に。松村も右フックで見せ場作るが、西は左フック、右ストレートでクリーンヒットを連発。ラウンド終盤にはやや膠着した展開となるが、終了ゴング前、今度は松村が左フックをクリーンヒットさせて西をグラつかせた。
3R。松村はガード固めつつ一発狙い。だが西はお構い無しとばかりにガード上へ手数を浴びせ、間隙を突く形でヒット、有効打の山。ラウンド終盤には松村も手数を返すが、ヒット数とダメージ量の差が如何にも大きい。
4R。打撃戦が続く。西が先手でワン・ツー連打、左ボディとアグレッシブに攻め立てる。松村の反撃は回転力で及ばず、ショートフックで一瞬怯ませもするが、決定的なチャンスに持っていけない。
5R。松村はガードを固めて圧力をかけつつのフック攻勢。西はこれに対してワン・ツーを細かく刻んで手数で大差。松村は挫けず抵抗して右フックをクリーンヒットさせるが、西を足止めする事は出来ない。
6R。このラウンドも圧力かけてチャンスを窺う松村に対し、西は手数、手数で攻めて主導権を支配。しかし松村はこのラウンドでも右フックをクリーンヒットさせてチャンスメイク。手数の割にヒット数の少ない西との比較で形勢互角とする。
7R。このラウンドも打撃戦。西が先手で手数攻め。松村はカウンターと打ち終わり狙い。西が右ストレートを出会い頭でクリーンヒットしてリード。松村も力強く抵抗するが、西のガードを破れない。
8R。ショートレンジ打撃戦。巻き込み気味のフックが多く粗い印象も残るが、気合の入った熱戦で会場を沸かせる。共に決定打の無いまま、西の手数リードだけが明確になって試合終了。
1Rに松村がダウン1回。
公式判定は北村79-72、坂本79-74、大黒77-74の3−0で西。駒木の採点は「A」78-73「B」80-73で西優勢。
西は以前に比べて回転力を増して来た印象。1Rでダウンを奪いKO寸前の状況を作りながら、その後のラウンドでクリーンヒットを浴びてヒヤリとする場面もあるなど詰めの甘さも目立ったが、ポイント争いでは手数の多さで圧倒した形。
松村はいつも通り圧力かけて前進、前進。しかし数的劣勢を覆すような機会を作れず、ズルズルと判定負け。8回戦での見通しはまだ明るくなりそうにない。

第2部第8試合・ミドル級6回戦/△福森智史[正拳](判定0−1)丸野琢哉[守口東郷]△

6回戦ながらメインイベントに据えられたのは、前年度新人王戦ミドル級西軍代表・福森の再起第2戦。
両者戦績は福森6勝(4KO)1敗1分、丸野6勝(3KO)5敗。福森は7/28に04年度ミドル級西日本新人王の羅刹寛考[京都拳闘会]を痛烈なKOで仕留めて、A級昇格に王手をかけた。丸野は4月に敗れて以来の再起戦。昨年10月の細川貴之[六島]戦に続いての“新人王狩り”に挑む。こちらもあと1勝でA級だ。
1R。丸野がアグレッシブに上下へジャブ、ワン・ツー、ボディアッパー中心に手数攻めを展開し、ヒットも稼ぐ。福森は静かに様子見気味の立ち上がり。ジャブ中心に牽制し、ラウンド終盤になって漸く左ボディなどを見せた。
2R。ショートレンジ打撃戦。福森は左ジャブ起点に右ストレート、左ボディ、フックなどでヒット連発。丸野も手数を上下に散らすが、悪癖のガードを下げる所が気になる。
3R。打撃戦が続く。丸野は頭を振りつつアグレッシブに手数、ヒットを重ねる。福森もジャブ、左アッパー、ボディ、右ストレートと放つが、丸野との相性が悪いかやや攻めあぐみ。逆に終了ゴング直前には丸野が気合のこもった猛攻を見せた。
4R。福森は右ストレート、左ボディで先制するが、丸野は左アッパー、右フックで福森を大いに効かせる程の猛ラッシュ。福森もジャブ、ストレートで反撃するが丸野は退かず強い抵抗を見せた。
5R。福森はガード下がった丸野にジャブ、ストレートを多数浴びせて先制。しかし丸野も左アッパー、ワン・ツーで粘りこみ、更に左ストレートをクリーンヒットさせてノックダウン寸前の場面。福森はここからすぐに立ち直り、ラウンド通じての数的優勢はキープしたが、ジャッジ的には微妙か。
6R。ジャブ、ワン・ツー、ボディ中心の打撃戦。福森が守備力の差でヒット数で大差をつけるが、丸野も粘り強い抵抗を最後まで見せる。福森はラウンド終盤にストレートから右フック、アッパーの猛ラッシュでKOまで窺うが、丸野は必死に耐え切って判定勝負に持ち込んだ。
公式判定は宮崎58-56(丸野支持)、坂本58-58、大黒57-57のマジョリティ・ドロー。駒木の採点は「A」58-56「B」58-57丸野優勢。
丸野の粘り強い戦い振りが光った好ファイト。緩いガードが災いして猛打を浴びるシーンも1度や2度ではなかったが、その都度踏ん張っては反転攻勢に出て大健闘。これで守備が充実すればとは思うが、ディフェンス難も含めて彼のアイデンティティになっているのような気もする。
福森は手堅くワン・ツーでヒットを固めたが、決定打が出ずじまい。逆にクリーンヒットを浴びて効かされるシーンも有って大苦戦を強いられた。

第2部総括

セミが1Rで決着しそうな所がワンサイドの判定決着となり、やや会場の雰囲気が緩んだところでメインが中量級らしい迫力の熱戦でビシッと締めてくれた。特に下馬評不利だった丸野の大奮闘が出色。負けはまず無い内容で、ここまで頑張ったら勝ち星までプレゼントしてあげたかったが……
他、選手個人にスポットを当てるなら、B級に上がって一気に欠点が解消した島田、回転力を強化し、着実に進歩しつつある西を特筆しておく。