駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

ボクマガ最新号のランダエタ×亀田戦採点「徹底検証」記事について

全然「徹底」も「検証」もしてないじゃないですか、という印象。専門誌が1ヶ月待たせてテレビのワイドショーやスポーツ新聞の先発記事をなぞったような内容というのは如何なものでしょうか。しかも、いつの間にか全体的に亀田擁護の論調になってて「一般の人も採点基準を勉強して採点しながら観ましょう」みたいな話まで。じゃあアレですか、3点差でランダエタ勝ちにした増田茂さんや、地元判定を加味して1点差ランダエタ勝ちにした矢尾板貞雄さんは採点基準を知らない一般の人なんですか。へー。僕は98%ぐらい一般人の立場で年間300試合以上生観戦して採点してますが、何度ビデオで振り返ってみても亀田勝ちの採点は出来ませんけどね。
ジャイアント馬場の名言「決起軍は、全然決起しとらんから解散させました」みたいに全然専門誌しとらんから……とか言うと、ワーボクの休刊のあった今月はシャレになりませんが。*1
いやでも、専門誌なんだから、「徹底検証」というならもっと深く踏み込んで欲しかったですよ。採点基準にしても「クリーンヒット(ダメージ量)>アグレッシブ(手数と攻撃を伴う前進)>ディフェンス>ジェネラルシップ(主導権)」というのが公式基準ですが、それが明らかに現状と異なっているという事に誰も言及していない。今ではディフェンスの軽視、アグレッシブとジェネラルシップの重視が目立つという“現実”に目を背けっぱなしです。(トム・カズマレック氏の『あなたもジャッジだ』を読むと、既にWBCでもディフェンスよりジェネラルシップが重要視されている事が明記されています。この本を訳したジョー小泉氏がテレビ中継でそれを説明しないのがいつも気に掛かっているのですが)
またWBAはこの4基準を比較的平等に観るという暗黙の了解があって、ガード上のジャブもごく軽度のヒットに準じて扱われる傾向があり、手数の圧倒が有効打の小差優勢を凌駕するケースも多い(例えばパーラ×坂田など)のに、今回に限って亀田の“クリーンヒット”要素の微差〜小差優勢がやたら重要視されている事を誰もおかしいと言わない。それどころか「有効打は手数に勝るので亀田の勝ちが妥当」という人までいる。敗れた坂田や中沼に世界を獲るには細かいジャブへの対策が必須、とか言ってたんじゃないのですかね貴方たちは。
このジャブ重視は世界に限ったことではなく、ごく身近な所でも見られます。僕は、クリーンヒット数とダメージ量で明らかに上回った選手が、ガードの上への細かい手数攻めに終始した選手にほぼフルマークで大敗した試合というのを最近でも実際に見ています。そういう経験も踏まえて、僕が世界戦のジャッジの傾向に合わせてランダエタ×亀田戦の採点に望んだ結果が117-111ランダエタだったわけですがね。
そういや、最後の記者・評論家の採点一覧表、編集部外の人で亀田勝ちにつけた人は、亀田御用新聞・デイリーと日刊の担当記者だけでした。ある意味判りやすい地元採点ですね、というのは暴言でしょうか。僕が見る限り、あの試合で亀田を勝ちにする採点をするためには、中立的な見方ではなく「亀田の強打と優勢を確認しながら見る」という姿勢でないと極めて難しいような気がしています。これは採点者が一番陥り易い“穽”なので、僕もそうならないように常に戒めているのですが、なかなか難しいものがあります。ただ、そういう採点をしてしまったと思ったら、自分の採点結果を他人に押し通そうとしちゃダメですね。「ちょっと歪んだ見方になってしまったかも知れませんが、私はこうなりました」ぐらいにしておかないと。そうでないと周りから「わー、この人何も判ってないわー」と思われかねません。実際、僕もそう思われている時もあるでしょうし。

修正したついでに追記

『あなたもジャッジだ』には他に、“振り子採点”(瞬間最大風速でなくラウンド3分間の総合的な内容で優劣を判断する)とか、“クリーンヒット”の要素は当てたパンチの「質×量」で判断するとか、相手に明確なダメージが表れない「パワーパンチ」のクリーンヒットよりも、相手に明確なダメージが表れた「一見手打ちの軽いパンチ」のクリーンヒットの方を、より高く評価するとか、パンチによる出血は採点に加味しないとか載ってますが、ランダエタ×亀田戦について語る識者の方たちがそれをどこまで把握してるのか怪しいと思う時が少なくないのですよ。一般紙・スポーツ紙記者では抜群の見識を誇る毎日新聞の来住記者も6Rの採点で過ちを犯していますし。まぁWBAとWBCで若干方針は違うんでしょうが、来住氏がそれを知っていたとは思い辛いです。
結局、「採点基準をしっかり周知徹底していれば」と言ってる人が大して採点基準に詳しくない、というオチだったりするのでは。というかもう、地元判定とか疑惑の判定とかじゃなくて誤審でエエやん、と思うのですが。
あと、金平協栄ジム会長のコメントで心底吃驚したのがこれ↓

採点基準はあるんです。第一に有効な攻撃を伴った前進、第二にクリーンヒット、第三にリング・ジェネラルシップ。それを1ラウンドごとにつけていく。

うわぁこの人採点基準を勘違いしたまま超大手ジムの会長してたんだ、と目を疑いました。いくら“アグレッシブ”要素が重視されても“クリーンヒット”に優越する事は無いでしょう。いつからボクシングは腕を振り回しながら前進してるだけで勝てる競技になったんでしょうか。

*1:ワーボクは出版社をKKベストセラーズに変えて「ボクシングワールド」誌として来月より再出発予定だとか。まぁ今の版元はドル箱の「週刊ゴング」も部数急落で会社自体ヤバいらしいですから仕方ないかと