駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第2部第8試合・OPBF東洋太平洋フライ級タイトルマッチ12回戦/○《王者》内藤大助[宮田](判定3−0)吉山博司[ヨシヤマ]《挑戦者・同級10位》●

メインイベントは、フライ級の東洋&日本二冠王者・内藤大助に、ヨシヤマジムの軽量級エース・吉山博司が挑むタイトルマッチ。
王者・内藤は29勝(20KO)2敗2分の戦績。現在WBA6位、WBC5位の上位世界ランカーでもある。98年にフライ級全日本新人王を獲得後、01年には当時坂田健史[協栄]の保持していた日本タイトルに挑戦するもドローで王座獲得ならず。翌02年には敵地に乗り込んでポンサクレックの保持するWBC世界王座に挑戦するも、記録モノの秒殺KO負けを喫して大きな挫折を味わう。それでも地道に再起ロードを歩み、04年には中野博[畑中]の保持していた日本タイトルに再挑戦。これを6R負傷判定ながら完勝で制すると、初防衛戦では日本記録となる最短タイムKO勝利を収めて強豪王者の地位を確かなものとする。05年の世界再挑戦失敗で生涯2度目の敗北を喫したものの、今年6月には小松則幸[エディ(=当時)]の保持していたOPBFタイトルとの統一王座戦を敢行。これに6RTKOで完勝して国内フライ級戦線の頂点を極めた。意外にも今回が西日本地区初見参。
対する挑戦者・吉山は15勝(7KO)4敗の戦績。最近では日本下位ランク相当の相手には無難に勝利を収められる地力が備わった印象があり、Sフライ級で7位の日本ランキングも納得である。
但しこの試合に関わっている東洋ランキングの方は、このタイトルマッチが内定した時点ではノーランク。試合直前のランキング会議で10位に滑り込んだものの、吉山は9月の前哨戦でLフライ級の韓国人OPBFランカーに完敗を喫しており、これは正当性が極めて疑わしいランクインと挑戦権付与と言わざるを得ない。以前から「タイトルマッチ内定後の新規ランクイン」が横行しているOPBF戦線だが、直前の試合に負けてランクが上がり、王座挑戦まで果たされるのでは無茶苦茶である。この12月から「実力と実績を反映させるため(提案者のジョー小泉氏談)」15位まで拡充されたOPBFランキングだが、このような無法が横行している限り、改革の意義も早晩有名無実と化すに違いない。
1R。いきなりの“内藤ム−ヴ”全開。試合開始早々にバッティングで受傷するも、トリッキーなフェイントから右ストレート、フック、左フックを自由自在のタイミングでヒットさせて悠々と数的優勢を確保。吉山の大振り気味の反撃は冷静に捌かれた。
2R。内藤の超変則なムーブと独特のタイミングから放たれる右が再三ヒット、有効打。吉山は焦って拳の前に頭をぶつけてしまうなど、自分のリズムを完全に狂わされている。内藤のバッティングで負った傷は悪化の一途だが、このタイミングでは試合のストップもままならぬ。
3R。内藤が左フックで先制攻撃を決めると、その後も攻守にわたって変幻自在の試合運びで完全に優勢。吉山は圧力かけつつ連打を放つも、これもスルリと躱されて変則的な右を決められてしまう。左ストレート1発有効打して一矢報いたが、形勢逆転には遠く及ばず。
4R。内藤が自分の距離を支配。死角を突く右連打や、クリンチに向かいながらの右ショートなど、まさにやりたい放題。吉山も左カウンターを1発決めて望みを繋ぐが、フック連打は不発に終わって攻め切れず。
5R。完全なる内藤のペース。自分の距離から全く読めないタイミングで右ストレート、フック、左フック。逆に吉山のパンチは完全に見切られてしまい、ジャブ、ストレートの射程外の距離に封じ込まれる。
6R。内藤の左フックがいきなりジャストミートしてノックダウン。吉山は何とか立ち上がるが、試合は完璧に内藤の支配下。右、左のトリッキーな強打が吸い込まれるように次々とヒットしてゆく。
7R。内藤のペースが続く。やはり右ストレートと左右フック中心の攻めがビシビシと決まり、吉山の強打は見切られてしまう。ラウンド終盤に内藤は右フック有効打でダメ押し。
8R。やはり内藤ペース。吉山の攻撃を空転させつつ、左右の有効打で優勢確保。ややクルージング気味の試合運びながらも要所をキッチリと押えるのは流石。
9R。内藤はフルラウンド勝負を意識し始めたか、マイペースかつ慎重な組み立て。吉山の攻撃を阻止する一方で、ラウンド終盤には吉山の隙を突いて右フック、ストレートで有効打。圧倒的優勢のままラウンド終了のゴングを聞くと、吉山に向かって「どうだ」とばかりに仁王立ち。
10R。内藤の思うがままに試合が進む。左アッパーに見せかけての右ストレート、サイドステップを使いながらビンタのように放つ左フック、かと思えば正調の左フックも決めて、次には右を放つタイミングから打ち込まれる変則の左。吉山は逆転を左カウンターに賭けるが、1発のみでは如何ともし難い。
11R。内藤が横殴りの左右フックで先制するが、このラウンドは吉山もボディ中心にパワー押しで攻めて抵抗する。だがラウンド終盤には内藤が左フックから右ストレートの連打を決めて再び突き放す。
12R。やや距離が詰まって、吉山のジャブ・ストレートが当たる距離に。内藤は流石にやり辛そうにしていたが、それでもクリンチ状態からのオーバーハンドフックや右アッパーのクリーンヒットで最後まで“クリーンヒット”要素の優勢を手放さなかった。
公式判定は、北村[副審]119-109、宮崎118-109[副審]、原田[主審]117-110の3−0で内藤がOPBF王座初防衛を果たした。駒木の採点は「A」「B」いずれも120-107で内藤優勢。ジャッジが各選手のホームタウンから派遣され、レフェリーは中立または異邦人が務めるのが通例のOPBF戦だが、今回は審判を務めた3者とも西日本所属のレフェリー。両者の大き過ぎる実力差もあって目を覆わんばかりの地元贔屓は見られなかったものの、それでも117-110のスコアには首を傾げざるを得ない。高砂の日本タイトルマッチには東日本と西部日本から助っ人レフェリーを呼んでおいて、どうしてこちらは“純・西日本”、しかも何かと曰く付きの面々がこの試合を裁いているのか理解に苦しむ。考えられるのは「IMP夜の部だと最終の新幹線に間に合わない」というパターンだが、折角の晴れ舞台、ケチくさい事言わずにちゃんと体裁を整えてやれよとお節介も言いたくなってしまった。
さて、試合内容は「内藤の内藤による内藤のための試合」と言うべきワンサイドゲーム。彼一流かつ独特の試合運びを12R徹底し、吉山に何もさせずに終わらせた。当日会場で観戦のマニア連に言わせると、これでも04年の日本王座奪取時と比べると低調なパフォーマンスだと言うから呆れる他無い。こんな面白い試合をしてくれる選手を独り占めしていた後楽園のボクシングファンに嫉妬を覚えると共に、始めて内藤が12R戦った現場を見られた喜びを噛み締めた一夜となった。
試合後、観客席からの「亀田とやってくれ!」との声には「いつでも! 向こうが逃げてるんでね」と即答。バッティングの傷も痛々しい顔を笑顔で染めながら、試合後もファンからの写真撮影やサインに応じていた。王者たるものこうでなくては。
一方の敗れた吉山は、自分の距離を完全に外されて何も出来ず痛烈な被弾ばかりを繰り返した。左カウンターで大逆転を予感させる場面は作ったが、その予感も空振りに。地力面での確固たる差を見せ付けられて完膚なきまでの敗北を喫した。