駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

WBC世界フライ級タイトルマッチ12回戦/○《王者》内藤大助[宮田](判定3−0)亀田大毅[協栄]《挑戦者・同級14位》●

王者・内藤は31勝(20KO)2敗2分の戦績。96年にデビュー。1戦1勝の身でエントリーした97年度の新人王戦は、ベスト8で引分敗者扱いとなるも、翌98年度には1回戦から3連続1RKOを含む5連勝で東日本を制覇し、全日本決勝では福山登[大阪帝拳・引退]を60秒殺に仕留める会心の勝利を収める。
その後は日本ランキングを守りつつ約2年・9戦に渡ってチャンスを待ち続け、01年7月に坂田健史[協栄]が保持していた日本フライ級王座に挑戦するが、惜しくもドローで獲得失敗に終わる。翌02年には、ポンサクレック・ウォンジョンカム[タイ国]に招かれて遠征で世界初挑戦を果たすも34秒で左カウンターに失神させられて無残な初敗北を喫し、どん底を味わう事となる。
だがそこから時間をかけて再起を図り、04年には中野博[畑中・引退]から日本王座を奪取、初防衛戦では1R24秒の日本王座戦史上最短KO記録を樹立する。更に1度の日本王座防衛を重ねて臨んだ2度目の世界戦は05年10月。相手は同じくポンサクレックながら、今度は後楽園ホールでの地元開催。王座奪取の機運は高まりつつあったが、この時も7R負傷判定に敗れてしまう。
それでも翌年に日本王座4度目の防衛戦で大苦戦ながら再起を果たすと、小松則幸[エディ→Gツダ]の保持していたOPBFフライ級タイトルを吸収統一し、秋には初の大阪遠征で吉山博司[ヨシヤマ]に圧勝する。そして名実共に日本最強を証明した後は両王座を返上して07年7月に三度ポンサクレックに挑戦し、小差ながら明確な判定勝ちで念願の世界王座戴冠を達成した。
今回は初防衛戦。話題性を抜きにすれば、「新王者が安全パイの格下を相手に、無難な初防衛に挑む」という図式だが、業界内外の人々の思惑がそれを許さない。試合後の彼は英雄となるか、それとも道化に身を落とすか。まさに「国民の期待」を巻き込んだ大一番となった。


挑戦者・亀田大毅は10勝(7KO)無敗で、現在WBCフライ級14位。かつてはWBAランキングも保持していたが、WBC挑戦が内定したために圏外に弾き出されている。
亀田三兄弟」の次男として少年時代から注目され、アマチュアで全日本実業団選手権優勝などの実績を挙げて04年にB級デビュー。以来10連勝を重ねているが、兄・興毅がそうして来たように、デビュー後は戦意と実力に問題のある東南アジア人“スタントマン”、もしくは名目上地位や実績と現状の地力が乖離している選手との対戦に終始している。
国内・地域タイトル経験も無く、フライ級ウェイトでフライ級選手と戦うのも今回が初めてというキャリアの浅さと薄さは、業界内で度々厳しく指摘されて来た。今回の挑戦も時期尚早、またはミスマッチであるとの批難もあるが、その逆風を自らの手で順風に換える事は果たして叶うのだろうか?


1R。亀田は頭を低く下げ、ガードを固めて突進する“亀田スタイル”をやはり選択して来た。これに対し、内藤は小刻みに足を使いつつ、ジャブ、アッパー、フックで手数を振るって数的には大差優勢。ボディブロー、左フックでヒットも重ねた。亀田は手数が出ず、単発でジャブ、ストレートを3発ヒットさせたのみ。
2R。亀田はこのRもガード固めて突進するが、内藤は熟練のクリンチワークで亀田の攻勢点を帳消しし、逆に主導権支配でジャッジにアピール。アッパー、フック中心に上下へ手数を散らす事も忘れない。亀田の手数は容易に数えられるほどで、ボディへの無茶な強振ばかりが目立つ。
3R。内藤は亀田のガードを突き破らんとボディフック、右ストレートと打ち込んでヒットを量産する。亀田はクリンチで捌かれて主導権を完全に見失っている状態。「おかしいな」とばかりに首を傾げるシーンが目立つ。ドサクサ紛れのヒットを重ね、内藤の古傷をヒッティングで切り裂く“戦果”は挙げたが……
4R。内藤は傷を負った事でやや後ろへ引き気味。そこへ亀田の圧力が強まり、ラウンド前半は亀田が手数でもリード。しかし後半、内藤も精度の高いストレートで亀田を足止めさせ、手数でも挽回。互角前後まで形勢を揺り戻した。
※4R終了時点での公式採点は40-36、39-37、39-37で三者いずれも内藤を支持。駒木の採点は39-37内藤優勢。内藤優勢がアナウンスされるや、公式発表6000人の観客席からは大歓声が。この日、有明コロシアムにしてはやや寂しい入りだったようだが、テレビで見る限りでは客層の“内藤ファン率”は相当高いように感じられた。
5R。再び内藤がインサイドワークを前面に出して主導権支配しつつ、右ショートフック中心の手数とガード、クリンチで亀田の攻め手を封殺。終了ゴング前にはフック連打をヒットさせて見せ場も作った。
6R。亀田はやや打ち気に逸って攻め込もうとするが、内藤はスウェー、ダッキング、クリンチとあらゆるディフェンスワークを総動員してこれを捌き、逆にジャブを細かく打ちながらフック、アッパーを強弱つけて放ち、手数・ヒット数で圧倒する。
7R。内藤は独特のムーヴを本格的に展開。フェイントを使いながら左右フック中心に先手で手数、ヒットを奪う。しかし亀田もヘディング気味に強引な突進を繰り返しながら、内藤の打ち終わりを狙って見栄えのするヒットを重ね、ジャッジ的には微妙な形勢のラウンドに。
8R。亀田はアグレッシブにヘディングを伴う乱暴な前進。内藤がこれに押され戸惑ったところへ連打をまとめる。だが内藤も主導権を決して手放さず、フック3連発を有効打して見せ場を作り、そのほかにも飛び込みながらのボディブローで“打ち逃げ”にも成功する。
※8R終了時点の公式採点は、79-73、79-73、78-74で三者いずれも内藤を支持。駒木の採点は79-73内藤優勢。この時点で内藤は8-10のラウンドを2つ作っても、判定に持ち込めば0−1で防衛となる圧倒的優位に立った。
9R。判定勝利の目が無くなった亀田陣営は、内藤が3Rにヒッティングで負傷した右瞼の傷にロック・オン。バッティングやサミングまで駆使して傷を悪化させようとあの手この手を尽くす。クリンチからレスリング行為によるスリップダウンが頻発し、レフェリーが試合を止めて警告を発する荒れた展開になるが、亀田はお構い無しでヘディング、ホールディング、引き摺り倒してのサミングとなりふり構わぬラフプレー。これに苛立った内藤が「ブレイク」の合図後に亀田の後頭部を拳で小突いてしまい、一発で減点1のペナルティ。反則行為そのものは悪質ではなかったが、主審が警告を発した直後のあからさまな反則だったゆえ、これは致し方なし。この時点では亀田のイリーガル寸前の試合運びが一応の効果を挙げていた。ボクシング競技としての形勢はノーモーションの右ストレートで有効打を稼いだ亀田と、手数と細かいヒットを豊富に浴びせた内藤とでほぼ互角だが、公式の採点は三者一致9−9。副審3氏は亀田のラフプレーをネガティブな要素として判断したようだ。
10R。亀田はボクシングの試合としては無為無策の突進とワンパターンの強振のオンパレード。内藤は随所でパンチを打ち逃げする形で手数とヒット数で圧倒。決して守勢に立っているように思わせないクリンチワークが実に巧み。
11R。内藤が主導権を完全に掌握。クリンチを有効活用しながらジャブ、ストレート、ショートフック、スイングと自在に攻めてパンチとヒットの数で圧倒。ただし得意のフェイントは、亀田がこれに引っかかるだけの技量と余裕が無く、何とも無様な要因で不発に終わっている。亀田は文字通り亀となってもがくばかり。
12R。相変わらず膠着気味の展開の中で内藤がボクシング技術の差を見せ付ける。亀田の大振りを紙一重で躱しては、回転力・命中率のアドバンテージを利してヒット数の差を積み重ねてゆく。己の技量と戦術レパートリーの致命的不足により為す術を見出せない亀田は、発作的に試合を壊す悪質なレスリング行為に走ってしまう。業を煮やした主審が減点1を宣告すると、その裁定をあざ笑うかのように、その直後、プロレス技のエクスプロイダーの要領で内藤を担ぎ上げて乱暴に前へ投げ落とす暴挙に出て、今度は故意で悪質な反則に対して課される減点2のペナルティ。未熟な挑戦者の自滅に苦笑を禁じえない内藤は、その後も採点要素の各ファクターで確実に優位を築き、内藤大助のボクシングをさりげなく披露して、そのまま勝利確定のゴングの音を聞いた。
最終公式判定はモレッティ[米国]117-107、ローレンス[蘭領キュラソー]117-107、ブルナー[豪州]116-108の3−0で内藤。初防衛に成功すると共に、プロのリングで亀田兄弟に勝利した初の日本人という“栄誉”を手に入れた。WBCの採点基準に則って行った駒木の採点は118-107で内藤優勢。


内藤の大差判定勝利。敢えて言うなら、全国のボクシングファンがここ数年味わって来た、恥辱と屈辱にまみれた日々から解放された記念すべき瞬間の到来である。
だが下馬評との対比で言えば、これでも苦戦の部類に入るのではないか。重圧がかかる世界初防衛戦と対亀田というマッチメイクの影響、そして負傷療養によるスパーリング不足などネガティブな要素により、本来なら決められるはずのKO狙いのピントが、今日は微妙にずれてしまっていたように見えた。また、相手にパンチよりもガードとヘディング(そして試合後半にはレスリング行為にサミング)に重点を置き、“KOで負けない試合”を最優先する本末転倒な試合運びで来られては、そしてフェイントに引っかかる技量すら持ち合わせていない相手と戦わされては、歴戦のベテラン王者をもってしても完全攻略は至難の業であったということなのだろう。勿論3Rのヒッティングによる負傷の影響も大きかったはずである。
年齢的なものか、日本王座戴冠時をピークとするスピードやキレは若干の衰えを感じさせるが、現状はそれを技術と経験で補完出来ている段階にある。但し、彼が世界王者たる能力を発揮出来る時間はそう長く残されてはいないはずだ。次の相手が誰になるかは未定だが、出来るだけ早い内にポンサクレックとのリターンマッチを済ませておくというのも一つの手ではあるだろう。国内開催権やオプションの買取資金に困窮する事は今後無いはずである。何しろかれは今、日本で一番有名な“強い”プロボクサーなのだから。


さて、敗れた亀田大毅だが、もうこれは「世界挑戦に足る実力を持ち得なかった」の一言で足りてしまう。試合序盤にほぼ唯一の武器である圧力をクリンチで封殺されると頻繁に首を傾げて己の実力を過信していた様を満天下に晒し、中盤に少し打ち合いに出ると簡単にあしらわれて技術不足の有様を存分に露呈し、終盤にボクシングで状況を打開する術が自分には無いと悟るや、機能不全を起こした大脳新皮質は発作的に試合そのものを破壊しようと企てた。12Rに減点3を課せられた悪質なレスリング行為は、彼の心・技・体を明快に体現したシーンであると言えるだろう。
敢えて評価すべき点を探すなら、亀田家の得意芸であるガードであろうか。これほどの大敗にも拘らず、彼の顔面の腫れは軽微であった。しかし、リング外ではあれほど威勢良く“攻め”の姿勢を貫いていた彼の最大の長所が、実は“守り”であったという事実。まったくもって痛烈な皮肉であると言うほかは無い。

追記(10/13)

試合当日から翌日にかけて、亀田大毅側のセコンドに就いた実父のトレーナー(ライセンス上はセコンド)史郎氏と実兄の亀田興毅が試合中のインターバルで急所打ちとヒジ打ちを指示する助言を行っていた事が表面化。TBSやJBCなどにも抗議が殺到しており、この事態を重く見たJBCと東日本協会は協栄ジムと亀田親子の処分を本格的に検討する旨の談話を発表した。報道によると現在検討されているのは、金平協栄ジム会長に戒告または厳重注意、史郎氏に3ヵ月から半年のライセンス停止処分、興毅・大毅の両選手にも何らかの処分が下る模様だ。


以下、筆者の個人的見解を述べる。
今回の処分事由は「試合中の悪質な反則行為」および「悪質な反則行為を積極的に促す助言」である。具体的に言えば「反則行為」とは内藤の右瞼の傷を悪化させての負傷TKO勝ちを狙ったサミングやバッティング、そして度重なるレスリング行為の事で、「助言」とは試合終盤のインターバルで史郎氏が「股間を殴れ」、興毅が「ヒジでいいから右目を攻撃しろ」という旨の発言をした事である。
まず「反則行為」に関してだが、程度の差こそあれ、負傷TKOを狙ってルールの範囲を逸脱して傷を攻撃するという“裏技”は日常茶飯事的に行われている。“被害者”の内藤や、同じ立場に身を置く可能性のある関係者にしてみれば堪ったものではないが、誤解を恐れず言えば「ボクシングという競技内の出来事」という見方も出来る。だがそれらの行為が「ナックルパートのみでベルトラインの上を攻撃する」というボクシングの本質から外れている事は確かであり、ましてや正当な攻撃よりも反則行為を優先させるような試合振りをし、なおかつ反則行為が余りにも露骨であった今回のケースが厳しい批難を受けるのは当然の事であろう。ましてや局部を殴れという史郎氏の指示は論外である。負傷TKOというルール上定められた結果を求めて行われる行為と、故意の反則打で相手を痛めつけ、戦闘不能に追い込む行為は似て非なるものであるはずだ。これは12Rのレスリング行為も同様である。
とはいえ、試合中の反則に対するペナルティは、その試合中に減点又は失格という形で課されて完結するのが基本であり、これに加えてライセンス停止の追加処分が下されるケースは極めて稀である。これは裁判の判決でいう所の「社会的制裁」を試合中に受けているという事と、選手の試合間隔は3ヵ月以上開く事が多く、短期間のライセンス停止処分を課しても実効性が薄いという事情もあるのだろう。
だからといって今回、大毅に長期間または無期限のサスペンデッドを課した場合、以前と今後における悪質な反則行為に対してのペナルティとの整合性に苦慮する羽目に陥るのは必定である。悪質な反則行為は最近の日本タイトルマッチでも複数見受けられる。反則行為でも特に危険な「ダウン後の加撃」を行った選手の例は枚挙に暇が無い。そして、それらの反則を行った選手らには追加処分の検討すら行われていない。また今後、別の選手が今回のような反則行為を行った場合、同じように断固たる処置が取れるのか。もっと言えば、最大手ジムの人気・有力選手がエキサイトして暴挙に及んだ場合でも、今回同様の措置が採れるのかどうか、という話である。
要は、これまでは「亀田だから」で許された事が、今後は「亀田だから」で許されなくなる、というのでは本質的な解決になっていない、という事だ。罰は罪の内容を判断して課されるものであって、罪を犯した人物で判断されるものではない。それは罪を課す、課さないどちらの行為に対しても同様である。
ともかくも、今回の件でJBC・安河内体制の見識が問われるのは間違いないだろう。

ただし、今回の件を抜きにして亀田史郎氏への処分は遅きに失したという他は無い。過去にも乱闘騒ぎに加担し、レフェリーを暴力で威嚇し暴言を吐くという蛮行を行っている同氏だが、これまでは業界内の亀田家に対する“期待感”、“負い目”、“しがらみ”と表現すべき事情によってライセンス停止処分が課されていなかった。だが、彼がボクシング関係者とは名ばかりの「不逞の輩」であるのは数々の行状から既に明白で、早い段階でボクシング界の表舞台から排除するべきであったのである。JBCの処分は数ヶ月の資格停止に留まる可能性が高いが、諸悪の根源は今回の問題にあるのではなく、彼の人間性にあるのだから、業界追放以外に適切な処分はありえない。協栄ジムが自主的に彼を“解雇”し、ライセンスを直ちに失効させるのが理想なのだが。

追々記(10/16)

10/15に東日本ボクシング協会JBCで会合が開かれ、今回の“不祥事”に関して亀田親子ら関係者の処分が発表された。

また、これに関連して翌16日、出張先のロシアから帰国した金平桂一郎会長が会見を開き、これらの処分を全て受け容れる事、亀田家とは自宅併設ジムの閉鎖も含めて今後の契約内容について協議する事、ジム独自の処分も検討する事、関係各所への謝罪行脚を出来れば亀田親子を連れて行いたい……という旨の談話を発表した。


以下、筆者がマスコミ報道から得た情報等を総合した上で、独自の見解及び解説を述べる。
発表された処分のうち、金平会長のオーナーライセンス停止処分は、併せて所持しているプロモーターライセンスが有効である以上は実質的な効力は無く、形式的なものと言って良いだろう。東日本協会の理事会では両ライセンスの停止処分を求める声も上がったそうだが、そうしたところで処分に実効性を持たせられるのか、という声も上がり喧々囂々の有様となったようだ。
亀田家の処分の内、興毅・大毅の両選手の処分内容は文字通りの理解で構わないだろう。これにより大毅は08年10月14日までJBC管轄下の国内興行では公式試合に出場出来ず*1、また、試合会場でA級ライセンスボクサーとしての待遇を受けられなくなる*2。興毅は実質上「お咎め無し」だが、亀田家は3ヵ月間の自主謹慎に入る旨発表しているし、当面の間、試合出場を自粛せざるを得ない状況下にあり、それなりの“社会的制裁”を受ける見込みである。
史郎氏のセコンドライセンス停止処分は、公式試合で協栄ジム所属選手(=興毅、大毅ら)のセコンドに就く事が禁じられる、という意味に留まらない。JBCルール第2条記載の「国籍のいかんを問わず、JBCの交付するライセンスを所持しない者の、日本国内におけるJBC管轄下の一切のボクシング行為を禁止する」という条項に準じて、国内でプロボクシングに関わるあらゆる業務に携わる事が禁じられる。よって、JBCのボクサーライセンスを所持している興毅・大毅を指導する事も不可能となるわけだ。現実的な話として、一部のジムではトレーナーライセンスどころかセコンドライセンスも持たないまま選手・練習生を指導する“みなしトレーナー”が存在するが、今回JBCは、そういうルール上の抜け道を利用する事も許さないという意も込めて明確に禁止行為を特定した形である。


以下は筆者の個人的な感想となるが、まず今回の処分については「まぁ妥当かな」と思う一方で、「『亀田家』というフィルターを取り払ったら、大毅の1年サスペンデッドは重いかなぁ」という印象もある。世界戦での蛮行という要素を加味しても、他のボクサーなら審判に対する暴言や乱闘行為でもせいぜい3ヵ月、試合中の悪質な反則行為では戒告処分すら稀という事を考えると、極端に重くしたものだという思いを禁じえない。
そもそも今回の“不祥事”は、これまで処分・指導すべき場面で、ことごとく「まぁ亀田だから」でそれを怠って来た報いが回って来たようなものだ。これまで「こいつら金持ってるから」と特別に高額のツケでの飲食を許しておいて、いざ資金繰りがヤバくなってきたと知った途端にサラ金並の利息をつけて全額一括請求し、「当店は明朗会計で御座います」とぬけぬけと言い出すような話が、本来なら罷り通る筈が無いのだが。
亀田家の極端に過保護なマッチメイク方針に早い段階から然るべき圧力をかけ、マスコミの過剰な礼賛報道に自粛を促し、彼らに地に足を着けた活動をするよう指導をしていれば、そもそも今回のような出来事は起こらなかったのだ。亀田興毅がタイトル奪取目前の日本・東洋ランカーとして業界内の注目を浴び、無鉄砲な突貫ファイター・亀田大毅が後楽園のカルト・ヒーロ−として、前座戦線で野太い男性ファンの歓声を受けるような、そんな“現実”があったかも知れないのだ。果たしてその状況が彼らにとって幸せなのかどうかは判らないが、少なくともこのような悲劇的な結果は招く事は無かった。


最後に、今年5月の“大阪場所”観戦記の一節を再掲してこの項の締めくくりとする。


筆者は最近「亀田ブームとは何だったのか?」と考える事がある。今のところ思い浮かぶ最も適当な答えは「悲劇」である。昔からのファンにとっても、選手・関係者にとっても、当事者の亀田3兄弟にとっても、そしてボクシングそのものにとっても。

*1:海外のコミッションでライセンスを取得すれば国外で試合出場も可能だが、その場合はライセンス無期限停止か剥奪処分が課される事は必至

*2:まぁ亀田がライセンス入場で試合を客席から観ることはまず無いだろうが