駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第6試合・WBC世界フライ級タイトルマッチ12回戦/○《王者》ポンサクレック・クラティンデーンジム(5R1分42秒TKO)小松則幸《挑戦者・同級10位》●

王者のポンサクレックは54勝(30KO)2敗というキャリアで現在WBC王座を10度防衛中。バンタム級ウィラポンと並ぶ東南アジアが誇る軽量級の“絶対王者”だ。96年10月以来45連勝中、しかも衰えるどころか近年充実著しいというから恐ろしい。また、これまで4人の日本人挑戦者を退けて来た日本人キラーとしても知られる。
一方の小松は19勝(8KO)1敗5分の戦績。デビュー以来のキャリアは無敗ながら地味だったものの、02年9月に東洋太平洋王座を奪取。それからは昨秋に余りにも微妙な判定でトラッシュ中沼のリベンジを許すまで5度の防衛に成功していた。その中沼と戦った3度目の防衛戦が地元判定との謗りを受けてファンの間では不当に評価を貶められている感があるが、アグレッシブなファイトスタイルを基盤とする戦闘力と精度の高いパンチは、日本・東洋クラスでは上位にランクされて然るべき実力者であろう。
1R。小松は中間距離で足を止めて、果敢にも激しい打ち合いを挑む。ワン・ツー主体のアグレッシブな攻めを見せるも、ポンサクレックはそれ以上にアグレッシブ。小松のインサイドブローの軌道の内側を潜るほどのコンパクトなパンチながら、体重が乗ってナックルの返ったコンビネーションブローは強烈無比の一言。圧巻はワン・ツー・ダブルから右アッパーのダブルの超高速コンボ。フライ級世界最高峰の頂が素人目にもハッキリと捉えられた一瞬だった。
2R。小松はこのラウンドも果敢に攻める。フック主体の攻めは荒っぽかったが、それがフェイントになって右ストレートがクリーンヒット。しかし小松にとって、この試合のハイライトは残念ながらここまでだった。中盤以降はポンサクレックの多彩な攻めが小松を次々と襲い、クリーンヒット数、手数共に圧倒的な差がつく。終盤には左フックでフラッシュ気味ながらダウンも奪った。なお、小松はこのラウンドで左目尻を深く切る負傷。有効なヒッティングによる傷という判定で、早くも追い込まれた格好に。
3R。王者の猛攻・堅守ばかりが目立つ。左右のフックと右ショートアッパーが次々と小松の顔面に突き刺さってゆく。小松の左眼の傷を狙った攻撃を意識的に集めている様子で、獅子はいつでも獲物に対して全力で立ち向かうという逸話を想起させられた。
4R。ポンサクレックの一方的な展開。左右のショートから左ストレート、右アッパーのコンビネーションは余りにも強烈。近距離の殴り合いでも小松は一矢報いる事さえ難しい。
5R。ポンサクレックは早くも仕留めに掛かったようで、ラウンド開始早々右フックを立て続けに2発クリーンヒットさせて1度目のダウンを奪う。小松は最後の抵抗を見せるも、王者は更にギアを上げて猛烈なラッシュを浴びせて2度目のダウン。小松はそれでも立ち上がったが、ここでドクターのチェック。2Rから再三キズのチェックを行いながらも小松の戦意の高さに試合続行を許容していたドクターだが、遂にここでレフェリーの真意を汲むように試合終了を勧告。ここで無念のTKO決着となった。
とにかく今日はポンサクレックの調子が良過ぎたの一言。また、小松の果敢なファイトスタイルがポンサクレックのそれと上手く噛み合い過ぎたのも一方的な展開となった一因だろう。一つ一つのスキルの格差は小さくても、それが全てのファクターに跨ってしまえば、総合的には恐ろしいほどの大差となってしまうものだ。最初から善戦健闘惜敗を目指して戦っているかのような昨今の日本人挑戦者に比べれば、今日の小松のファイトは如何にもプロスポーツマンらしい清々しい戦い振りだった。今度はこのメンタルの力にフィジカルの力を上積みさせて、是非とも捲土重来を期して欲しい。