駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第6試合・WBC世界ミニマム級タイトルマッチ12回戦/●《王者》イサック・ブストス(判定0−3)高山勝成《挑戦者・同級13位》○

昨年末のタイトルマッチ(http://d.hatena.ne.jp/komagi/20041221#p4)におけるイーグル京和の負傷棄権によって、本来は縁の無かったはずの王座に就いたイサック・ブストス。これに日本王座獲得失敗以来2度目のタイトルマッチとなる2桁ランカーの高山が挑む…という、いかにもアレでナニなタイトルマッチ。世界2位の選手が同じ日のOPBF戦に出場しているのに、世界13位の選手が世界タイトルに挑戦しているとは、何と凄まじい逆転現象か。まったく、素人さんに理由を質問されても適切な答えが思い浮かばんぞ。
本来なら肩書きの前に“暫定”が付いて然るべき王者・ブストスは24勝(13KO)6敗3分の戦績。ただ、ここ6年半は無敗というのだから、戴冠の理由が100%幸運だけというわけではないのだろう。
一方の高山は14勝(7KO)1敗の戦績。唯一の敗戦は日本Lフライ級タイトルマッチでのもので、ミニマム級に転向後は現在まで無敗。ただし、昨年8月にはフィリピン国内王者&OPBFランカーのエルマー・ゲホンに大苦戦(ジャッジ1人が明らかに地元判定で2-0勝利)を強いられるなど、実績面では世界挑戦には疑問符が付くところではあった。
1R。高山がアグレッシブにワン・ツー主体でプレッシャーをかけてゆく。ブストスが怯んだのを見てコーナーに詰めてラッシュを見せたが、クリーンヒットは皆無で手数を稼いだだけに終わる。しかしブストスの攻めは大振り気味で不発気味。こちらは手数すら乏しいという具合。
2R。高山はこのラウンドも先手を切って猛攻を仕掛ける。一気呵成に攻め込んでまたもラッシュを仕掛けるが、今度も有効打らしい有効打は希少。むしろカウンターで合わせた右フックの方が有効に働いていたか。ブストスは相変わらずスピードに乏しいが、このラウンドは強烈なボディブローを打ち込んでいた。
3R。高山、このラウンドも手数は膨大でアグレッシブさをアピールするが、ブストスのボディワークに阻まれて有効打らしい有効打が生まれない。逆に不完全な当たりながらフックを浴びせられる場面もあった。
4R。高山の猛攻。ブストスは懸命に守りを固めるが、捌ききれずに右フックなどで有効打を喰う。そのブストスの攻めは大振り気味で命中率が悪い。ワン・ツーが不完全ながらヒットしてはいたが……。
5R。ブストスが、高山の攻撃を捌いては右アッパーを突き刺してゆく。高山はさすがに打ち疲れか、このラウンドは手数が減っていた。終盤、ブストスは3連打を追加してこのラウンドを奪い取った。
6R。高山の手数が戻ったが、ブストスは落ち着いて対処。右アッパーをヒットさせ、終盤の打ち合いでもやや優勢。ただ、高山の手数優位は明白で、ヒット数で上回るブストスと比較してのジャッジはかなり微妙。
7R。ブストスが高山の攻めを見切るシーンが目立つ。このラウンドも高山は手数では優勢だが、ブストスの右中心の強打を度々浴びて、ヒット数では見劣った。
8R。高山がブストスの攻めをステップワーク巧みにかわして手数を重ねる。ヒット数は少数互角の様相だが、こうなると手数で勝る高山が若干有利か。
9R。ブストスの右が有効。高山は相変わらずの手数だが、このラウンドは上手く捌かれた。ただ、ブストスの大振りは世界王者としては目を覆うばかりの酷さであり、カウンターを被弾する場面もあった。
10R。両者とも手数豊富で互角の展開。相変わらず高山はロープ際に詰めてゆくが、逆にブストスの反撃を立て続けに浴びせられてしまう。しかし終盤には細かくヒットを集めてゆき、ジャッジ的には際どいところまで持ち込んだ。
11R。高山が足を使って見事なヒット&アウェイ。ブストスの強打をスカしておいて、手数、手数。ヒット数は稼げないが主導権は離さない。終盤ラウンドに来て、このスピードとスタミナは立派。
12R。足を使って逃げ切りを狙う高山をしつこく追い掛け回すブストス。執念深い攻めで後半にフック2発をヒットさせて印象深いシーンもあった。このラウンドも手数か強打かで判断が難しいだろう。
公式判定は117-111、117-112、115-113の3−0で高山。判定結果そのものに異存は無いが、5、6点差のジャッジは余りにも手数(それも有効打となっていないパンチの数)を重視しているような気もする。
駒木の採点は115-113ブストス優勢だが、これは高山大応援団の声援に惑わされないように気遣った余り、逆に見方が偏ってしまったかな…という感じ。試合翌日のサンスポに掲載された評論家の矢尾板貞雄氏の採点「116-114高山優勢」が最も的確な数字ではなかろうかと思う。
ともあれ勝てば官軍、世界チャンピオン・高山勝成の誕生である。誰が何と言おうとこの事実は覆せないし、一世一代の大勝負でベストパフォーマンスを見せたこと自体は高く評価されるべきだろう。ただ、ここに至る経緯を考えると、ありとあらゆる全ての条件が味方してのラッキーな戴冠という見方は避けられないところで、“正規王者”イーグル京和に勝つまでは色眼鏡で見られるのは致し方無い話ではある。これが「格上ランカーに挑んだ世界前哨戦」的な試合だったら手放しで褒められるのだが……。
この試合は日本人選手の世界戴冠試合でありながら、今月のボクシング専門誌2誌の表紙と巻頭カラーはモラレス×パキャオ戦であった。この中途半端な扱いが、今回の試合の本質的な性格を物語っていると言ってしまうのは暴言だろうか。
一方、「安全パイ相手のファイトマネー稼ぎ」だったはずの初防衛に失敗したブストス。なるほど、強打の威力やクリーンヒットを避ける身のこなしは世界ランカーに相応しいものではあったが、王者として君臨するには余りにもスピードと攻撃の正確性が不足していた。本来なら、世界タイトルには一枚力が足りずに無冠で終わる選手なのだろう。何だか世界に挑戦しては失敗を繰り返すタイプの日本人選手の姿と重なって見えた。