駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第2部第7試合・Sライト級10回戦/○ポンペット・ムアンスリン[タイ国](6R0分52秒TKO)松本憲亮[ヨシヤマ]●

セミファイナルは、3月にSウェルター級ランカー・桑名竜一とのランキング争奪戦に敗れた松本憲亮の再起戦。元東洋太平洋Sライト級10位、ここまでの戦績は13勝(12KO)2敗2分と派手な経歴を持つが、対戦相手は二線級の相手やタイ人選手が中心であり、よく言えば「大事に育てられているなぁ…」という印象のキャリア。今回は2階級下のタイ人選手を相手に気持ち良く再起を飾るべく、ダンサーを侍らして派手な入場シーンを見せつけたのだが……。
対するポンペットは、9勝(6KO)13敗という戦績で、現在はタイのSフェザー級5位とのこと。来日はこれが4回目になるが、昨年3月の初来日の際には、後のSライト級日本ランカー・石垣栄を2RKOに仕留める“真の実力”を披露している。その後の来日2戦では、2〜4階級上の選手相手に恐らく“噛ませモード”で短時間KOを喫しているが、タイ人だからと言って油断してはならない相手ではある。
1R。松本は、タイ人選手を相手にした時はいつもそうだが、完全な様子見ムード。被弾を避けるのに神経を集中させ、相手の動きを見切る事に専念する。ところが、ポンペットが“噛ませモード”特有のテレフォン気味のワン・ツーを繰り出すと、これが固めたはずの松本のガードの隙間を突いて、軽くではあるがヒットしてしまう。松本のコンディションの悪さと、ポンペットの隠そうとも隠し切れない実力が浮き彫りになったラウンド。
2R。松本はこのラウンドになって手数をやや増やすが、ポンペットのガードは意外と堅固。松本の攻撃はジャブ数発とボディブローが1発ヒットしたが、逆にポンペットの散発的なワン・ツーを上下に浴びてしまい、印象度としてはむしろ見劣りした。
3R。松本はジャブ中心に左ボディも絡めて攻撃の糸口を掴もうとするものの、単発気味で決定的な場面に繋がらない。ポンペットは松本のコンディションに合わせたか、消極的に。しかし豪快かつ投げやり気味に放った右フックがクリーンヒットしてしまい、ヒヤリとさせられる場面もあった。
4R。前ラウンドの反省を踏まえてか(笑)、ポンペットは更に消極的なファイトスタイルになり、松本にボディ打ちを促す場面すらあった。そこまでされては名折れと、松本も手数を増やして上下にヒットを集めたが、やはり決定的な場面は作れない。
5R。完全に“噛ませモード”に入ったポンペットだが、隠そうとしても隠し切れない才能が邪魔をして、なかなか倒れ所を見出せないといったところか。松本は松本で、消極的な相手に合わせ過ぎ。
6R。ゴング直後、ポンペットの右フックがラッキーパンチ気味にクリーンヒット。急所にKO級の強打を叩き込まれた松本はたまらずコーナーへ後退。ここに至って勝ちに行く大義名分(=ここで行かなければ本当に八百長になってしまう場面)が出来たポンペット、猛然とグロッキーの松本に駆け寄って、豪快な右フックを次々と打ち込んでゆく。松本は全く抵抗できない状態で、初めは「止めるに止められない」と躊躇していた野田レフェリーも、本当に松本が危険な状態に陥ってしまっては止めざるを得ない。シンと静まり返った会場に、思わず自コーナーのトップロープまで駆け上がったポンペットの歓喜の声が響き渡った。
松本、痛恨の再起失敗。確かに相手も単なる噛ませ犬ではなかったが、それにしても彼自身のコンディションが悪すぎた。試合以上に入場シーンのパフォーマンスに気を遣っていたように、少なからず油断もあったのだろう。ともかくもこれで、再度の日本ランク挑戦はおろか現役生活そのものの危機を迎える事になってしまった。再々起戦も恐らくはタイ人が相手になるのだろうが、今度こそは入念な調整を施してリングに上がってもらいたいものだ。
一方、一躍“日本人キラー”的存在にのし上がったポンペット、戦績を勘案すれば国際式のボクシングは副業的に行っている選手なのだろうが、マジメにボクシングをするようになれば、素質的にはOPBF王座も狙えるモノも持っているのではなかろうか。ひょっとするとこれを機に日の当たる場所に出て来るようになるのかも知れない。名前だけは覚えておこう。