駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

全日本新人王戦直前展望

全試合赤コーナー(名列左側)が東軍、青コーナー(名列右側)が西軍の代表。

Lフライ級決勝6回戦/☆宮下優[ドリーム](65-35宮下優勢)大橋卓矢[駿河]★

両選手ともデビュー以来7連勝、しかもこのクラスにして高KO率(宮下5KO、大橋4KO)と、軽量級ながら判定決着の気配が全くしない、いきなり注目のカード。
優勢なのは、やはり東軍MVPで、前評判NO.1の呼び声高い宮下か。抜群の距離感から鋭い踏み込みでキレのあるストレートを放つサウスポーとなると、新人王戦クラスでは稀有な才能だろう。ただ、東日本決勝は幾分相手に恵まれた感もあり、余りに買い被りすぎるのはどうか。
対する大橋は、西軍代表戦同様にショートレンジでの手数攻めに活路を見出したい。ディフェンス巧者・山脇正輝のガードを突き破ったパワーで強引に主導権を握るケースを考えると、波乱の目も残されている。課題は打ち終わりのディフェンスで、猛攻の後に一息ついた所にキラーショットの左ストレートを叩き込まれると、無敗の逸材もひとたまりも無くキャンバスに崩れ落ちよう。

フライ級決勝6回戦/★斎藤茂郎[ランド](30-70奈須優勢)奈須勇樹[Gツダ]☆

東のエースに続いては、西軍の軽量級エース・奈須が登場。曲者・斎藤を相手に、泣く子も昏倒する右ストレートを炸裂できるかどうか、これまた注目の一戦。
西軍代表戦の凡戦で株を下げた奈須だが、もともと好・不調の差が激しい選手だけに、今回の内容もコンディション次第という事になりそう。距離感と照準のピントが合えば、西日本決勝のような秒殺KOも十分考えられる。対サウスポーの戦略が課題も、サウスポー対策のセオリーとなる右ストレートがキラーショットなだけに、決定力の増強でやり難さを相殺してしまいそう。奈須は普通にボクシングをしても地力は全日本新人王級で、東軍代表・斎藤の力量がこれまでの対戦相手と大差無い以上、「最悪でも少差判定勝ち」という想定が妥当なところだろう。
ただ、斎藤はカウンターの当て勘が異様に良く、これが何とも不気味。奈須がキラーショットを放つ刹那、斎藤の左“誘導ミサイル”が解放されると、たちまちリング上は“山本KID×マイク・ザンビディス”のようなKOシーンが再現され、奈須は目を剥いたままマットに沈没するだろう。波乱含みの一戦だ。

Sフライ級決勝6回戦/★杉田純一郎[ヨネクラ](30-70井階優勢)井階甲基[森岡]☆

今期話題性随一の双子新人王の兄・杉田純一郎が登場。しかし対するは強敵、攻守のバランスの取れたテクニシャンで西日本の“裏番長”的ポジションに位置する井階。果たして全日本兄弟制覇のバトンを弟に託せるかどうか。
杉田は攻めては伸びのあるストレート、守っては軽快なダッキングが目に付くも、全体的に決定力が乏しく器用貧乏な印象もあった。対する井階は確固たるディフェンス力に支えられ、確実にヒット数で相手を上回るタイプの好選手。ラッシュの時の決定力も強靭で、こちらは良い意味で穴の無い選手だ。
杉田は自分の距離を保って試合を進めたいが、自分から追い足を使って距離を奪うタイプではないのが問題。東日本決勝では、ヒット&アウェイで攻められた時には対応に苦慮していたが、井階は終始そういうファイトをする選手なので、相性の上でも苦戦を強いられそうだ。残念ながら“双子全日本新人王”の野望は、ここで早くも頓挫する公算が高い。

バンタム級決勝6回戦/☆冨山浩之助[船橋ドラゴン](55-45冨山優勢)中村公彦[大星モリガキ]★

“黄金のバンタム”なとど言われる伝統の階級だが、今年の新人王戦は全国的に極めて低調。出場選手には悪いが、黄金ならぬ“金メッキのバンタム”というような水準での争いとなってしまった。
冨山は8戦8勝の戦績ながら、ハンドスピード、パンチの精度、ボディバランス、ガードなどは4回戦クラスで平凡。しかしステップインしてのストレートなど、見せ場を作る能力も見受けられる。泥仕合に持ち込んで、いつの間にか少差優勢を勝ち取るタイプなのだろう。一方の中村は、西軍代表戦では疑問符の残る判定結果での際どい内容。手数、手数のアグレッシブさと粘り強さを演出するスタミナは非凡だが、逆に言うとスタミナ任せに粗いパンチを振り回すだけとも。ジャッジが手数と強打のどちらを重視するかで勝敗が大きく変わってしまうタイプでもある。
試合は恐らく1Rからバッティング、クリンチ上等の泥仕合となり、それが延々と6R繰り広げられることだろう。総合力的には大差ないが、冨山の方がジャッジへアピールする術に長けた分僅かに優勢か。

バンタム級決勝6回戦/★杉田祐次郎[ヨネクラ](40-60中岸優勢)中岸風太[カシミ]☆

杉田兄弟の弟・祐次郎に、対するは(不本意にも)リング外でも話題を集める、中日本のホープ・中岸。一般マスコミ的には最も気になる一戦か。Sフライ級で杉田純一郎が勝っていた場合は更に注目度がアップする事だろう。
西軍代表戦では、技能豊かな戦い振りで“西日本のタイソン”高野を完封し、一皮剥けた感のある中岸。卓越したハンドスピードを主武器に、アグレッシブに攻めても良し、軽快なステップワークと老獪なクリンチワークを駆使したディフェンシブなスタイルに転じても良しと、非常に高いセンスが光る。ただ、中日本トーナメントでは、過剰にラフファイトに転じた時に大振りが目立ち、ガードが甘くなる場面も見受けられた。この悪い癖が顔を出した際には“交通事故”的な敗戦も十分有り得る。
一方の杉田も、東日本決勝ではボディワーク中心のディフェンスや、相手の打ち終わりに合わせて度々見せた鋭いフック、ボディブローなど非凡なセンスが窺えた。総合力的には西日本王者の高野と互角か少し上ぐらいではないだろうか。相手が中岸でも一方的に圧される事は考え辛いが、スピードに差があるため、どうしても主導権争いでは不利になりそうだ。杉田が優勢を築くとすれば、それは要所で有効打を奪って試合展開のイニシアティブを築くとか、打撃戦に出た時に中岸の守備の穴を突くとか、それなりの条件をクリア出来た場合に限られる事だろう。

フェザー級決勝6回戦/★川村貢治[横浜光](40-60伊藤優勢)伊藤康隆[東海]☆

東西“影の実力派”2人が揃った、ナニゲにレベルの高い通好みのカード。大相撲だったら“東西会*1”から懸賞が出そうな一番だ。
西軍代表戦ではテクニシャン・佐藤通也に苦しめられた伊藤だが、潜在能力は相当なもの。恵まれた身体能力を背景に、スウェーバック一辺倒のディフェンスながら、ジャブを起点にタイミング良く放たれる右ストレートが強力で、中日本と西部日本の地区対抗戦では僅か2分でKO勝ちを収めている。
一方の川村は、ロングレンジから異様に伸びる左ジャブ・フック、右ストレートが出色。相手のパンチが届かない所から強打を浴びせる様は、“和製サキオ・ビカ”といったところか。
試合では、伊藤が川村の強打をスウェーして不発に終わらせ、相性の良さを発揮して優勢に試合を進めそう。本来は決手もある選手だけに、攻めに掛かるとワンサイドになる可能性も。ただ、必ずしもテクニックに富んだ選手ではないので、「被弾は避けられるが防戦一方で手数負け」というケースも有り得る。また、川村のパンチが伊藤の守備能力を超えるものであれば逆に川村のワンサイドになるだろう。どちらにせよ、勝負の趨勢は1R早々に明らかになる。試合終了のゴングが鳴った後には白黒ハッキリした試合結果がアナウンスされることだろう。

フェザー級6回戦/★真栄城寿志[角海老宝石](20-80武本優勢)武本康樹[千里馬神戸]☆

話題面では“東高西低”の新人王戦だが、この試合は元世界ランカーの兄を持つ西軍MVP・武本康樹の“全国デビュー”に周囲の視線が集まる一戦。真栄城は名誉ある悪役を演じたいが……。
武本は、西日本決勝では中島、西軍代表戦では安達という、一撃必殺級のキラーショットを持つ危険な相手を、卓抜したディフェンス力で完封して来た。攻撃面でも、臨機応変にジャブ起点からの正攻法と兄・在樹譲りの強烈な右ストレートから入る戦法を使い分け、巧みに自分のペースに引き込んでいく良い意味の強引さが持ち味。その場その場の判断力や相手の弱点を見抜く眼も鋭い。デビュー当時は荒削りな所ばかり目立ったが、今やグリーンボーイの域を大きく飛び越えた存在である。
一方の真栄城は大股で強引なラッシングから不器用ながら渋太く強打を振るう厄介なスタイル。地味にガード、パーリも巧く、意外と被弾も少ないのが味。さしもの武本も序盤は戸惑わされる事は間違いないだろう。しかし、その隙に付け入るだけの技術があるかというと甚だ疑問で、結局は武本の目が慣れて来た3R以降、一方的な展開に持ち込まれて完敗を喫する可能性が極めて高い。勝機を見出すとすれば、とにかく序盤が命。この試合は2ラウンド制だ、ぐらいの意気込みでスタートからKOを貪欲に狙うべきだろう。



※ここより時間不足のため(17日早朝出立なのです)、簡単な文章にとどめます。時間が作れれば、日曜朝にでも東京のマンガ喫茶で更新します。

ライト級6回戦/☆荒川仁人[八王子中屋](70-30荒川優勢)小出大貴[緑]★

サウスポーのテクニシャン・荒川の理詰めの動きは今期出色。小出は中日本決勝から3連続で下馬評不利の中、際どい勝負を制してきたが、嵐のような右ジャブ攻めの前に沈黙を強いられそう。活路を見出すとすれば懐に潜り込んで、荒川の下がり気味のガードを咎められた時だが……

Sライト級6回戦/★池田俊輔[角海老宝石勝又](30-70大崎優勢)大崎丈二[ウォズ]☆

右フックのパワーに頼って東日本トーナメントでKOの山を築いて来た池田だが、天性の危機管理能力を持つ大崎の優勢は不動。西日本2回戦の越崎戦で見せたように、猛攻を紙一重で凌ぎつつ多彩なパンチで確実に少差優勢を勝ち取るボクシングで中差〜大差判定勝ちを収める公算大。池田が勝つとすれば、やはり右フックだが……

ウェルター級6回戦/−渡辺信宣[協栄](優劣不明)細川貴之[六島]−

不戦勝で勝ち上がった渡辺の試合振りが全く分からないので、展望は差し控える。細川は抜群のディフェンスセンスが光り、本来なら格上の存在だが、サウスポーを極端に苦手にしている過去の実績を考えると苦戦は免れない。西軍代表戦のような体たらくでは、今回は危ないが……

ミドル級6回戦/★古川明裕[ワールド日立](30-70田島優勢)田島秀哲[天熊丸木]☆

デビュー以来5連続KO勝利の古川だが、技術もヘッタクレもない右の威力頼みの選手。東日本決勝も対戦相手に恵まれた感が強かった。これなら技術で圧倒する田島が優勢間違いないところだが、古川の右はラッキーパンチ1発で勝敗をひっくり返してしまう“ルールブレイカー”。ガードの甘い田島はゆめゆめ油断しないことだ。

*1:ボクシングで言えばリングサイドクラブ的な超熱心な愛好者の集まり