駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第8試合・ライト級契約ウェイト(59.8kg)10回戦/○中川知則[進光](判定3−0)ムアンファーレック・ギャット・ヴィチアン●

メインは昨夏の手痛い敗戦で日本ランクから転落した中川の再起戦。
その中川は13勝(4KO)5敗4分の戦績。04年5月には本望信人[角海老宝石]が保持していた日本Sフェザー級タイトルに挑戦するも判定0−3で完敗。その後はSライト級に転級して、日本下位ランクと圏外をエレベーターのように行き来している。
ムアンファーレックは確認出来る戦績では12勝(8KO)6敗。現在タイ国Sフェザー級王者でOPBF同級6位。昨年にはランディ・スイコの保持していたOPBF王座に挑戦するなどの経歴がある。来日成績1勝4敗と、本国と日本では別人になるタイプの選手だが、大之伸くま、杉田竜平など日本王者〜世界下位ランカー級の選手とフルラウンド戦えるだけの地力は兼ね備えている。
1R。中川は元ランカーにしてはパワー、ハンドスピードに欠ける印象。ジャブ中心に右ストレート、フックをヒットさせてはいるが決め手に欠ける。ムアンファーレックは素の地力を隠すために完全な“噛ませモード”。
2R。中川はジャブ中心も、タイ王者の消極的な態度に付き合ってしまい手数が伸びない。逆にムアンファーレックは中川の攻めを捌きつつもカウンターでボディストレートを有効打とし、形勢を互角にしてしまう。
3R。中川は手数を絞りながらジャブ、ストレートでヒットを稼ぐが、全体的に文字通りのパンチ力不足。ムアンファーレックは中川に合わせて明らかに手加減しており、早くも大凡戦ムードが漂う。こんな状況下で中川のセコンドからは「ポイント稼いで行こう」という信じ難い言葉が度々発せられる。
4R。ノーガードで挑発するムアンファーレックの顔面に中川は軽くジャブを当ててゆくが、他の攻撃は不発。ムアンファーレックは劣勢を挽回しないよう気遣うような弱々しい攻撃でお茶を濁すだけ。いよいよ完全に大凡戦となって来た。
5R。中川、このラウンドは無抵抗のムアンファーレックを相手にジャブの他に右アッパー、ストレートでヒット稼ぐが、KOを予感させるどころか、一度ムアンファーレックが本気を出すとたちまちロープに詰められてしまう。
6R。ムアンファーレックが全く手を出す気配無いまま、挑発しながら圧力(?)をかけると、中川は過剰に警戒してジリジリと後退。まるで“あした順子・ひろし”の漫才を見ているような間抜けなシーンに、当のムアンファーレックが戦いながら失笑する始末。ラウンド中盤以降は、中川がノーガードで突き出されたタイ王者の顔面にジャブをコツコツ当てていくが、どうしようもない茶番。
7R。中川、勝手に逃げ回るうちにスタミナ切れを発症。なんともはや。ムアンファーレックは完全にナメ切った態度で、軽く顔面を打たせておいては、時折距離を詰めて有効打を奪ってゆく。
8R。逃げ回るばかりの中川の姿はまさに醜態。申し訳程度のジャブをヒットさせると、あとはタイ王者の影に怯えて足を使ってロープ際をグルグルとサイドステップで周回するばかり。それでもラウンド終盤にはムアンファーレックが中川をコーナーに追い込んで形勢を一気に互角以上に揺り戻してしまう。
9R。全く戦意の無いタイ王者、それに怯える元日本ランカーという俄に信じられない光景が延々とリング上で展開されている。中川はノーガードで突き出されたムアンファーレックの顔面にジャブとストレートをヒットさせるが、ムアンファーレックがラスト10秒の拍子木が鳴った途端に本気を出すと、2分50秒で築いたリードをあっという間に殆ど持っていかれてしまう。
10R。完全に余裕綽々のムアンファーレック、明らかに息を切らしながら必死の中川へ適当に打たせてあげつつ、時折「実は俺の方が強いのさ」とアピールするようにヒットを返す。見た目劣勢の方が試合を完璧にコントロールしているという凄まじい茶番が展開されて試合終了。
公式判定は97-93、97-93、96-94の3−0で中川。駒木の採点は96-94で中川。公式判定は概ね公平で、流石の西日本レフェリー陣もこの試合にはウンザリしていたのかも知れない。それにしてもムアンファーレック、少差負け試合をよくぞこれだけ上手にメイクするものである。
体調不良かはたまたピークを過ぎたのか、とても元ランカーとは思えない体たらくの中川が、1階級下、しかも完全な“噛ませモード”に入ったタイ国王者に大苦戦を強いられた。相手の挑発に便乗する形で当てさせてもらったパンチで手数・ヒット数の少差優勢を確保すると、あとは足を使って逃げ回るという戦い振りに終始。まったくもってプロ格闘家として最低の態度であり、これは赤ッ恥以外の何物でもない。こんな醜態にも関わらず彼の支援者は暖かく祝福してくれていたが、これに甘えているようでは将来は無いと断言しておく。
ムアンファーレックには「お疲れ様」の一言に尽きる。試合終了直後、知り合いの観戦者に苦笑いを浮かべながら「いやー、わざと負けるのもしんどいわー」みたいなニュアンスの言葉を吐いていた彼の姿が、この試合の全てを象徴していたと言えるだろう。