駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第1部第6試合・日本バンタム級王座決定戦10回戦/●《WBCバンタム級世界13位》健文・エスプロシボ・トーレス[大鵬](判定0−2)三谷将之[高砂]《WBC同級14位》○

両者戦績は健文が8勝(6KO)1敗、三谷は17勝(9KO)1敗。共に地元判定気味の世界ランカー戦でランキングを“強奪”し、その後の調整戦でも揃って今ひとつの内容と、臨戦過程とベルトを賭ける妥当性には大きな不安を抱えての王座決定戦となってしまった。この試合は“西ブロック”の王座決定戦出場者決定戦として実施し、東日本の日本ランカー同士でも同様の決定戦を行うべきではなかったか……というのが、試合前の時点での正直な感想だった。
1R。三谷は鋭いジャブと軽快なステップワークでのディフェンス、健文は重いジャブとガード中心の守りと、両者硬軟対照的なファイトスタイルでの対峙。互角の手数合戦からスタートし、スピードで勝る三谷が主導権争いをやや有利に進め、終盤の強打合戦でも左フックで打ち勝つと、ひるんだ健文に連打を浴びせて明確な優勢を勝ち取る。
2R。三谷のアグレッシブで鋭いジャブからの連打が健文のガード能力を突き破る。パワー型ではない三谷だが、スピードとパンチの相乗効果で強烈な前進力が生じ、健文にプレッシャーを与える。ヒット数でも大差をつけて優勢に。健文もラウンド終盤に足を止めての強打合戦を仕掛けてゆくが、三谷はハンドスピード豊かなパンチでこの場面も踏みとどまる。
3R。健文は三谷のステップワークを封じるべく捨て身の打撃戦を仕掛けたが、三谷はガードも手堅く主導権を決して手放さない。結局このラウンドも手数、ヒット数で三谷が小差優勢。殴り合いでも打ち勝つシーンが目立ち、三谷の好印象ばかりがアピールされてゆく。
4R。アグレッシブな打撃戦。三谷が前、前へ踏み込みながら放つワン・ツー・スリーに健文は気圧されて弱気な顔を覗かせる。それでも健文は反撃に出て勝気な面も見せるが、三谷は逆にロープ際に詰めて左ボディを連発し返り討ち。三谷優勢のラウンドが続く。
5R。手足のスピードで勝る三谷の一方的展開。やや膠着気味の展開から左の上下ダブル、ワン・ツー、ワン・ツー・スリーでヒット、有効打連発。健文も右ストレートで反撃するも完全に劣勢。
6R。三谷が手数と主導権での優勢を主張する展開が続く。健文も終盤にアッパー連打で明確な有効打を奪うが、三谷はそこからラッシュに出て形勢は再逆転。
7R。互いに接近しての激しい打撃戦。健文が右ストレート中心に有効打でリード奪うが、三谷もラウンド終盤に圧力をかけてコーナーに詰め、手数を浴びせていってほぼ互角まで挽回。
8R。ラウンド序盤、三谷がワン・ツーとフック連打で有効打連発し優勢に立つが、健文もカウンター合戦を制して粘り強く抵抗。1発打たれては2発、3発とお返しする戦いぶりで互角以上まで形勢を押し戻す。
9R。クリンチ交えつつの乱打戦。全ての打ち合いがカウンター合戦となる速射砲の応酬。健文の強打か、三谷の攻勢と左の鋭いヒットか、どちらをジャッジが採るか微妙。このラウンドも小差。
10R。健文がKO狙いで「死に物狂い」という言葉が似合う猛烈なラッシュだが、これはやや乱暴。ある程度のヒットは奪うも気持ちがやや空回り。三谷はボディブローから左カウンター、更にワン・ツーと強打攻めして小差以上の優勢を築いて見事に試合を締め括った。
公式判定は宮崎97-93、野田97-93、北村96-96の2−0で三谷。駒木の採点は「A]97-93「B」99-93で三谷優勢。明確に獲ったラウンド数からすると三谷が点差以上の完勝。というかイーブンの採点はかなり不可解。
三谷が豊かな手足のスピードをフルに活用して、健文のパワーとアグレッシブさを粉砕した。非力さが目立っていた選手だが、今日は前、前へ攻める気持ちが強く、スピードが突破力に転化された形。今日のパフォーマンスが今後も見られるようなら将来も楽しみになって来る。ステップワークとガードを中心とするディフェンスも日本ランカー級の相手ならば手堅く機能するようで、総合的には平均的な日本王者級の能力水準に達していると言えるだろう。次戦は元Sフライ級日本王者・川端賢樹との“播磨ダービー”が濃厚で、来春にはチャンピオンカーニバルもあるので2連続の指名試合という事になる。気が抜けない防衛戦が続くが、今後へ向けての経験を積むためにも安易なベルト返上はしないでもらいたいと願う。
来日後初黒星を喫した健文、今日はキャリア不足がモロに響いた感じで、強打を被弾した時の弱気な表情はランダエタ×亀田戦の亀田を想起させた。今となっては後悔先に立たずだが、このような大勝負を前にもう少しノンタイトル戦で強豪相手に修羅場を潜っておくべきだったのだろう。また、現時点で三谷と比較すれば攻守両面において“武器・防具”のバリエーションに大差があったのも大きな敗因だった。ジャンケンで言えばグーだけでグー、チョキ、パーと戦っているようなもので、これでは事故のようなKO以外では勝ち目は薄い。この敗戦で世界ランク15位以内から陥落、日本ランカーとしての再出発となるが、何しろまだ18歳。心さえ腐らなければ捲土重来の機会はいくらでも残されている。