駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第8試合・OPBF東洋太平洋Sバンタム級タイトルマッチ12回戦/○《王者》ウェート・サックムアングレーン[タイ国](判定3−0)坂本裕喜[進光]《挑戦者・同級10位》●

メインイベントはOPBFタイトルマッチ。東洋圏の誇る世界的強豪選手として日本でもお馴染みの王者・ウェートに、ランク入り間もない(というか、マッチメイクされてからランキングに捻じ込まれた)坂本が挑む、頭に“超”の付くチャレンジマッチ。東洋エリアでは余りにも強過ぎて挑戦者とファイトマネーに恵まれないウェート相手だからこそ実現したタイトルマッチだろう。
王者のウェートは自称戦績82勝(52KO)4敗で、WBC5位WBA14位の世界ランカー。本格化以後の敗戦は00年のWBCフェザー級タイトル戦と、01年にマニー・パッキャオに挑んだWBCバンタム級インター王座戦のみ。現在の王座は昨年6月に菅原雅兼[松田]から奪ったもので、同年10月には國見泰央[カシミ]を破って初防衛。その後は自国で調整戦を3つ挟んでタイトルマッチへ向けてコンディションを整えていた。
対する坂本は13勝(6KO)4敗3分の戦績。今年5月にOPBFランカーを地元判定気味の2-0判定ながら降し、貴重なチャンスを掴んだ。今回が初のタイトル挑戦で、勿論これまでで最強の相手を迎える事となる。
1R。ウェートは完全に様子見モードで手を出さず一定の距離で坂本を睨み、僅かに右のクロスを放った程度。その坂本は先手、先手で攻めておきたい所だが警戒心が強く散発的な手数をウェートのガードの上に集めるのみ。
2R。ウェートは圧力かけつつも手数が少ない。時折放つワン・ツーも坂本がしっかりガードする。坂本は下がりながらも手数でやや優勢。しかしヒットは不発気味で当たっても不完全な当たり方。
3R。坂本はディフェンシブな戦い方で、手数・ヒット数の小差優勢を狙う戦い方。しかしラウンド後半からウェートはボディブローを起点に力強いワン・ツーを放ち、ガードごと吹き飛ばすようなパワーを披露して攻勢をアピール。
4R。互いに守り固く耐久戦の気配。坂本は左ボディ有効打など散発的に攻撃見せるが、ウェートのパワフルな連打にロープへ押し込まれ、ガードの隙間から被弾する。
5R。坂本は守備を固めつつフックなどを放つが単発でしかも守勢。一方ウェートは上下に打ち分けての5〜6連打を隙有らば狙ってゆく。ガードの上への攻撃が主だが手数優勢で攻勢アピール。
6R。ウェートはここに来て漸く本腰を入れて戦おうか、という気配。密着してのボディブローを中心にショートブローでヒット連発。圧力かけていって攻勢点も確保する。坂本もショートフックをヒットさせて反撃態勢だが、単発気味。
7R。ウェートは圧力かけつつボディにしつこく攻撃。ラウンド終盤には顔面へのフックもヒットし、一方的な展開。坂本は時折メクラ打ち気味にショートフックを放つも数的劣勢。
8R。ウェートはラウンド序盤流すような感じだが、坂本はそこへ手を出す力が残っていない。中盤にはまたもウェートの圧力の掛かった手数攻め。坂本はカウンターのフックをスマッシュさせるが、逆に数倍の暴利をつけられてキッチリと重い連打で返済されてしまう。
9R。ウェートの執拗なボディ攻めに坂本逃げ腰。散発的にヒットが生まれるが、パンチの絶対数が不足。ウェートのプレッシャーが実に強い。
10R。坂本は意を決して打撃戦に出てフック連打を浴びせるが、ウェートが重いボディブローを放つとたちまち動きが止まって守勢に。このラウンドは坂本の有効打も目立ったが、ウェートが及ぼす試合展開の支配力が非常に強い。
11R。坂本はラウンド冒頭の数十秒は元気だが、ウェートの密着ボディ攻めを浴びると瞬く間にグロッキー。時折印象的なヒットをお返しするが、ウェートに圧倒されてロープに詰まる時間が長く、ジャッジ的には微妙。
12R。ウェートは最後まで徹底したボディ攻めで坂本の動きを止めると、ここに至って足を使ってジャブと細かいフックで遊ぶという残酷な遊戯を開始。無尽蔵のスタミナと格の差を見せ付けて悠々と最後のラウンド締め括る。坂本最後の反攻はウェートの最終ラウンドとは思えないボディワークに空転させられた。
公式判定は、マクダビッシュ[主審・NZ]117-111、宮崎[副審・日本]116-112、メッサワーン[副審・タイ]118-113の3−0でウェートの王座防衛。駒木の採点は「A」118-110「B」119-110でウェート優勢。
ボディに不完全ながらヒットを多数集め、“アグレッシブ”と“リング・ジェネラルシップ”の要素では圧倒したウェート磐石の勝利。坂本はウェートが様子見に徹した1Rの他は、カウンター気味の有効打で時折ジャッジ1〜2人の支持を集めたのみに終わった。
ウェートは概ね八分程度の力で点差以上の完勝。密着してのボディブローだけで勝負を決め、最終ラウンドには足を使って遊ぶ余裕も。恐らくTKOを奪おうと思えば中盤以降、どのラウンドでも自在にそれが出来ただろう。
坂本は得意のディフェンスで持久戦を挑んだが、強引にボディブローで効かされてなし崩しに体力を失ってしまった。肝心の攻撃は手数が少なく、挑戦者らしい戦いが出来たかと言えばそういうわけでもない。「たった1度のチャンスを……」と試合後に嘆いた坂本だが、文字通り後悔先に立たず。そのチャンスを活かすのならば、たとえ1Rで終わってもいいからKOを狙うべきだったのではないか。