駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第8試合・ライト級契約ウェイト(60.0kg)10回戦/○吉澤佑規[ウォズ](8R1分52秒負傷判定3−0)金井晶聡[姫路木下]●

吉澤の戦績は14勝(6KO)1敗。03年のSフェザー級日本新人王で、現在はOPBF同級5位、日本10位。京都のボクシング関係者が素質と実力の高さを口を揃えて絶賛する逸材との評判で、最近では日本人選手との対戦を断られ、止む無く東南アジア人選手との調整戦を重ねている……との話も伝え聞く。今回の試合は知名度の高い日本ランカーが相手とあって、大いに名前を売りたいところだろう。
対する金井は17勝(16KO)2敗の戦績で、こちらは02年のフェザー級日本新人王で、現在日本同級8位のランカー。デビュー以来14連続KO勝ちで名を売り、当時榎洋之[角海老宝石]が保持していた日本王座に挑戦するもTKO負け。その後は大苦戦と敗戦を繰り返す長期低迷に陥っている。全日本新人王直後の大事な時期を東南アジア人相手の連続KO記録稼ぎに空費した影響か、このランクの選手にしてはディフェンス面の技術・実戦勘のレベルが低いのが欠点。今回のマッチメイクは、ノーランカー選手に大苦戦した直後に決定した実質格上挑戦という事で、関係者・マニアの間では驚きをもって受け止められた。ハイリスクを背負ってでも再浮上のきっかけを掴みたいという事なのだろう。
1R。両者距離を開けてジャブ中心の攻防。吉澤が金井のガードの穴を突いてヒット数で小差優勢を築くが、金井も連打とロープ際へ詰めてのワン・ツーで攻勢点をアピールする。吉澤の巧さが光るが、金井のアグレッシブさも目立って採点基準上は微差〜互角の範疇か。
2R。このラウンドも序盤から金井の攻勢が目立つ。金井には失礼ながら「攻撃力が意外にも通用している」という印象。左フック有効打で先制し、その後も連打を自分のタイミングで決める。吉澤も左ジャブと連打で細かくヒットを重ね、左アッパーのクリーンヒットで一時は形勢をひっくり返すが、金井も右アッパーをクリーンヒットさせて再逆転。
3R。金井がマイペースの攻守。足使いつつの攻めで吉澤を度々コーナーに詰めて攻勢。連打で有効打を浴びせるシーンも。吉澤もジャブ中心にヒットを稼ぐが、この日の金井はボディワークとガードも手堅く、なかなか明確なダメージを与えられない。
4R。両者軽快な足捌きと速いハンドスピードを前面に、目まぐるしく攻守交替しながらまとまったコンビネーションを浴びせあう。共に守備面も冴えており、明確なヒットは殆ど無し。吉澤の攻勢と細かいヒットがやや印象的も微差の範囲で、東日本基準なら10-10まであるかな、という内容。
5R。ショートレンジの乱打戦。混戦となると本来の守備力の差が露わとなり、吉澤のヒット数優勢が明らかに。金井も手数衰えずロープに詰めて連打を放つも、明確なヒットに恵まれず劣勢挽回ならず。日本ランカー同士の試合に相応しいレベルの高い内容だ。
6R。ラウンド序盤、吉澤はジャブ中心で様子見するが、これは金井にマイペースの連打攻めを放つ余地を与えてしまい劣勢に。だがラウンド後半には態勢を立て直し、逆にアグレッシブな連打攻勢に出てヒット数で一気に逆転。
7R。ラウンド序盤、金井は攻勢に出て、右ストレートをクリーンヒットするなどしてリードを奪うが、中盤以降は吉澤の時間。小気味良い連打でヒットを重ね、更にはショートアッパー連打で見せ場を作り、完全に逆転する。
8R。劣勢挽回を期した金井が攻撃面のギアチェンジ。ロープに詰めての連打で一気に攻め込んで攻勢をアピール。吉澤はガードで被弾を抑え、ジャブ中心に反撃するが、金井は「決死の覚悟」という言葉の似合う猛攻で再び攻勢。その後は互いに有効打を量産する壮絶な打撃戦となり、これはほぼ互角の印象。試合はにわかに白熱したが、ここでこのラウンドにバッティングで生じた金井の傷についてドクターのチェックが入ると、なんと一発で試合終了勧告が出てしまう。やや早いタイミングだが、例によって腫れあがった金井の顔は実に痛々しく映っており、医者なら止めたくなる状態だったのだろう。金井応援団のドスの効いた「試合続けさせろ」という野次で会場が騒然となる中、決着は8Rまでの負傷判定へ持ち込まれた。
公式判定は宮崎78-74、北村78-74、藤田78-75の3−0で吉澤。駒木の採点は「A」77-75吉澤優勢「B」77-77イーブン。「B」判定は採点者本人も少々意外な結果で、イーブン多用の方針が金井有利に働いた結果だと思って頂ければ。個人的な印象では「吉澤が小差以上優勢」という感じ。
吉澤が試合前半では想定外の苦戦に持ち込まれたものの、そこからは着実に10-9優勢のラウンドを重ねて確実にポイントアウト。ただ、下馬評段階ではKOでの圧勝も予想されたカードだっただけに、敗戦を覚悟する場面こそ無かったとはいえ少々不満の残る内容か。「実力者に対戦を拒否され、名目上の地位が伸び悩む実力派日本ランカー」という彼の業界内の高い評価からすれば、そして日本タイトル以上を狙う選手としては、今日のような金井クラスの相手にはもっとスッキリ勝っておきたかった所だろう。それでも序盤戦で目論んだジャブ中心のカウンター狙いが不利と見るや、果敢に打撃戦に打って出て優勢に持ち込んだアグレッシブさなど、テクニシャンらしからぬ好戦的な一面も持っているのは評価できる。現在の総合力は日本ランク中位相当といったところか。
金井は持ち前の攻撃力の高さで序盤戦を互角以上に健闘、懸念の守備面でもボディワーク、ブロッキングに進境の跡を窺わせたが、試合後半は再び被弾癖を覗かせてポイントを失い、これが直接の敗因となった。一時は全国区にまで名を売った姫路の若きエースもこれでランキング陥落の危機に。今後の動向が気になるところだが、今日の試合前半で見せた守備の冴えを試合全体を通じて発揮できるようなら、王座獲得はともかくとして、ランキング表に再び名を連ねるぐらいは難しい話ではないはずだ。