駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第5試合・OPBF東洋太平洋ウェルター級タイトルマッチ12回戦/○《王者》丸元大成[Gツダ](9R1分33秒TKO)竹中義則[尼崎亀谷]《挑戦者・同級12位》●

メインイベントは、昨秋に劇的勝利で低迷から一躍OPBF王者に上り詰めた丸元の初防衛戦。
王者・丸元は19勝(8KO)7敗1分の戦績で、WBCでは29位に登載されている。99年5月にデビューで間もなくプロ丸8年のキャリア。01年、2度目の挑戦となった新人王トーナメントでウェルター級西軍代表まで進出するも全日本決勝で音田隆夫[真闘トクホン]にKO負けを喫する。その後も彼のキャリアは6連勝→ビー・タイト敗退&OPBF挑戦失敗→3連勝→東南アジアランカーに連敗→OPBF王座獲得と、浮き沈みと紆余曲折に満ち溢れたものとなった。三十路を過ぎ、プロ生活も佳境に入った07年は、今度こそ“沈み”を味わう事無くOPBF王座の防衛を重ね、遠く先に見える頂点に一歩でも近付く事が目標となる。
挑戦者・竹中は22勝(20KO)6敗1分の戦績。現在日本ウェルター級3位、OPBF同級12位のランキング保持者。92年デビューの大ベテランで、新人王戦でライト級西軍代表となったのは94年の事。その後は日本タイトルに4度挑戦するも、いずれも及ばず、昨年の大曲輝斉[ヨネクラ]戦に敗れた際には一度引退を宣言した。しかし、今回のタイトルマッチが決定してから宣言を撤回し、恐らくは最後のチャンスとなる5度目の王座挑戦へ向けて入念な調整を進めて来た。
1R。いきなりショートレンジの打撃戦模様。ラウンド序盤は少々乱雑なフック中心のコンビネーションを互いに捌き合う展開。中盤からは丸元がジャブを次々とヒットさせて徐々に主導権を手繰り寄せる。竹中もジャブを返して抵抗し、小差ではあるが……
2R。丸元のジャブが当たって完全に主導権。更にショートやフック連打で手数・ヒット数を稼ぐ。竹中はやや反応鈍く劣勢。ラウンド終了直前に踏み込んで連打を放つも、これも決め手とならず。
3R。丸元がジャブを先手で決めて主導権確保。ラウンド終盤にはワン・ツー・スリーを決め手山場を作る。竹中は打ち終わり狙いの反撃を見せ、ワン・ツー、フック、ボディブローなどを披露するが、丸元はガード、ダッキング、ステップワークでこれらを際どく捌く。
4R。丸元ペースが淡々と続く。ジャブ中心に、またもワン・ツー・スリーを決め、コツコツとヒット数を増やしてポイントを稼ぐ。竹中もボディやショートアッパーで攻め込み、手数も出すがヒットに繋がらない。
5R。竹中が手数を増してボディ中心に攻勢強めるが、丸元は手堅いディフェンスでヒットを許さない。逆に丸元はジャブや軽いショートアッパーでヒットを稼ぎ、小差優勢のラウンドをまた1つ積み重ねる。
6R。丸元はこのラウンドもジャブを自分距離から淡々と放ってスピードと精度の歴然たる差を見せ付ける。強引な右ストレート、ショートフック、左右アッパーなどで明確なヒットを加算して優勢。竹中も手数は返しているが……
7R。このラウンドも丸元ペース。ジャブ起点に自在の攻め。竹中が圧力をかけるとショートアッパー、フックで迎撃し、終盤までは完封ペース。しかし好事魔多し、ラスト30秒を切って、右ストレートのカウンター合戦で竹中が渾身の一撃をクリーンヒット! 丸元はたまらずダウンを喫して、このラウンドで2点を失う。
8R。ダウン奪うもダメージの蓄積大きく動きの鈍い竹中は、決死の覚悟で突撃を敢行。しかし丸元はガード固めつつ、ショートアッパー連打を突き上げて無数のクリーンヒット、有効打を決める。竹中の傷(バッティングで生じたと判定)は大きく開き、汗に混じって血飛沫も飛ぶ壮絶な展開となって来た。竹中も最後まで戦意衰えず、強い勢いの攻めで丸元をスリップダウンさせるほどだが、形勢は既に劣勢を通り越して敗勢。
9R。竹中はやはり決死のラッシング。丸元はこれを慎重にジャブ、アッパー中心の迎撃で捌く。竹中は、まるで世界戦でTKO負け寸前の辰吉丈一郎を彷彿とさせるように、満身創痍の体に神秘的な何かを宿らせて戦ったが、丸元の「レフェリー、これで早いとこ止めてくれ」という叫びが聞こえるような、豪快な高速かつ強烈な3連コンボが全てクリーンヒットした所で遂にレフェリーストップ。観客席の応援団からは「止めるな」の激しい野次も飛び、竹中本人も悔しさを隠し切れない態度で自コーナーに戻されたが、このタイミングのストップは極めて妥当だろう。細かいジャブが無数に竹中の脳を揺らしていただけに、これ以上の試合続行はリング禍に繋がった可能性もあった。竹中陣営の無念さは心から理解出来るが、今回は原田レフェリーの好判断だったとしか言いようが無い。
初防衛に成功した丸元は、現時点でのスピードと攻撃の精度の差を前面に押し出して、慎重な組み立てながらも徐々にダメージを蓄積させての完勝。ダウンを奪われた時には本人ならずとも「またか!」と背筋が凍りついたが、今日はそれを除けば文句無し。
まさしく“玉砕”で5度目の挑戦にも失敗した竹中だが、復帰即挑戦の影響もあったか、相手の攻撃に対する反応が鈍くなっていた。あれだけジャブを貰い続けては、たとえ勝ち目のある試合であってもどうしようもない。試合後、竹中は改めて引退を表明。彼自身の翻意や、周辺を取り巻く事態の急変が無い限り、今度こそ彼のグローブは二度と外されない所で吊るされる事になりそうだ。