駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第4試合・Sフライ級契約ウェイト(51.5kg)10回戦/●奈須勇樹[Gツダ](判定0−3)翁長吾央[沖縄WR]○

セミファイナルは、西日本と西部日本の軽量級ホープ同士の対決。ファン注目の好カードだ。
奈須は13勝(10KO)1敗の戦績で、日本フライ級9位。デビュー以来、キラーショットの右ストレートを武器にKO勝利を量産し、05年には無敗のまま全日本フライ級新人王のタイトルを獲得。しかしA級昇格後は試合運びの未熟さが目立ち始め、右ストレートでも一撃必殺とはいかなくなって苦戦の連続。昨年10月には強豪フィリピン人OPBFランカーに完敗を喫して、無敗のレコードに傷をつけてしまった。今回は陥落危険水域の日本ランクをチップにして、世界ランキングを狙いに行く大ギャンブルマッチとなる。
対する翁長は9勝(7KO)無敗。アマチュアで実績を残し、B級デビュー。積極的に東京遠征を行い、後楽園ホールでも幾度と無く試合を行っている。06年8月には地元沖縄でLフライ級の世界ランカー・ネリス・エスピノサを負傷判定ながら降して世界ランクを獲得し、現在はWBAのLフライ級14位。但し、彼のナチュラルウェイトはフライ級からSフライ級であり、エスピノサとの試合もフライ級リミットを少し超えた体重での契約ウェイトだったという事も把握しておかなければならないだろう。
1R。両者中間距離、利き腕の違うジャブを対面でお互いに拳をぶつけ合いながらストレートを狙う、静かながらも緊張感のある展開。距離やタイミングが噛み合わずクリンチが多く早くも膠着気味で互角の形勢だが、翁長が圧力でやや有利。
2R。先のラウンドと同じ展開。膠着気味の展開の中で主導権争いが繰り広げられるが、全く互角。明確なストレートのヒットが互いに欲しい。
3R。噛み合わない展開が続く。ラウンド序盤に翁長が左右連打をまとめてヒットを奪うと、奈須もラウンド後半になって右ストレートを有効打。このラウンドも互角に近く、手数と主導権は翁長、1発の威力は奈須で微妙。
4R。共に距離を詰めあってクリンチ連発。翁長がラウンド前半に左フック2発、終了直前には左ストレートを追加。奈須は自分のボクシングをする事が出来ず、必殺の右ストレートも不発。
5R。奈須が積極的に距離を詰めて仕掛けてゆくが、翁長はこれをクリンチで捕獲し更には左を細かく浴びせる。共に明確なヒット無く、やはりほぼ互角の展開。ただし主導権支配は翁長がやや有利か。
6R。決め手の無いもどかしい展開が続く。翁長がインサイドワーク駆使して手数と軽いヒットで小差ながらリード。奈須はクリンチに潰されて手数らしい手数も出せずに苦戦。
7R。奈須がややアグレッシブに手数を出してゆくが、単発では決め切れない。翁長もクリンチに逃げる回数が増えていて、良い攻めの形が作れないでいる。
8R。奈須のアタックをホールディングで翁長が絡め取るイヤらしい流れ。翁長は左で軽くヒットも奪うが、奈須は“アグレッシブ”の観点でアピールするファイトで、これも微差〜小差の範疇か。
9R。奈須が距離の支配を意識しつつ、右ストレートに手数を打ち込みアグレッシブさをアピール。翁長も左で迎撃を狙うが、やや主体性に欠けた動きに終始。
10R。翁長は前へ前へと突っ込み、守っては強引なクリンチが目立つ。奈須はイラ立ちながら左を放つが、翁長もドサクサ紛れに左を放って互角か。
公式採点は福地98-94、葛城98-94、島川98-95の3−0で翁長。駒木の採点は「A」97-93「B」98-97で翁長。
噛み合わない難解な10ラウンズに終始。翁長がクリンチ中心のクレバーなインサイドワークを駆使して、ほぼ全てのラウンドで奈須を封殺し“塩漬け”にした試合。奈須は終始先手で仕掛けてアグレッシブさをアピールしたが、まともに手数が成立しないぐらいクリンチで動きを殺されて、明確に優勢なラウンドを1つ2つしか作れず。得意の右ストレートも8回戦以上では一発で仕留め切れず、そろそろ“新兵器”となる新たなキラー・ショットの開発や技術全体の向上が望まれる。但し、翁長の試合振りも見方によっては「苦し紛れ・その場しのぎ」と受け取られても仕方の無い時がままあり、両者の能力と試合内容は公式のスコアよりも競っていたと言って良いのではないか。
なお、奈須はこの敗戦後に発表された3月期ランキングではランキング圏外へ脱落している。