駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第7試合・日本ミドル級タイトルマッチ10回戦/○《王者》江口啓二[姫路木下](3R2分24秒KO)氏家福太郎[新日本木村]《挑戦者・同級1位》●

メインイベントは「チャンピオンカーニバル」ミドル級の部。昨秋に日本王座に就いた江口啓二が初防衛戦にして指名挑戦者を迎えた試練の一戦。試合前には西日本地区では珍しく、出場両者にそれぞれ2桁に達する数の激励賞が贈呈されるシーンも。この試合に賭ける両選手陣営、そして後援者の力の入り具合も判ろうというもの。
王者・江口は13勝(9KO)1敗の戦績。高校時代は相撲で全国級の活躍をし、当時は体重も115kgあったと言うが、ボクシングに転向して40kg以上の減量でミドル級体型に。プロデビューは23歳の年にあたる03年と遅めのデビューだが、そのプロ入り初年からいきなり新人王トーナメントで西軍代表に。全日本決勝は清田祐三[F赤羽]に敗れて最短コースでの日本ランク入りはならなかったが、その後は5戦連続3R以内KO勝利の快進撃を見せ、05年8月には元OPBF&日本王者・保住直孝に挑戦して判定勝ちする殊勲。その後はハードパンチを恐れられて試合枯れ気味の時期もあったが、06年12月に舞い込んだ日本タイトル挑戦のチャンスに時の王者・板垣俊彦[木更津GB]を判定で降し、荒木慶大[泉北]の王座返上以来、東日本が独占していたこの階級の日本王座を西日本地区に奪回した。なお、現在はOPBFでも2位にランクされている。
対する挑戦者・氏家は10勝(5KO)4敗1分の戦績。00年にデビューするも、新人時代の稼動はあまり積極的とは言えず、01年にエントリーした新人王戦も東日本決勝で敗退。B級昇格後は3連敗を喫するなど、ごくごく平凡な戦績に甘んじていた。しかし3連敗から10ヶ月のブランクを経て、タイ人相手とは言え1RKO勝ちで再起を果たした04年末以来、大変身。試合数も格段に増やし、日本ランカーら強豪を含む骨のある対戦相手に引分1つを挟んで6連勝。遂に日本ランキング1位、OPBFランキングでは4位まで、その地位を押し上げた。今回はデビュー7年目にして初めて掴んだ大チャンス。地理的には不利な条件となったが、日本最高峰の栄誉を目指して勇躍、敵地へ文字通りの殴り込みをかける。
1R。江口がアグレッシブに前、前へ出て、これを氏家が右ストレートで迎撃する構図。目立った戦果を挙げたのは江口で、威力抜群の左アッパーをカウンター気味にクリーンヒットして会場をどよめかせると、更に左のカウンター中心に有効打を決めて氏家を効かせる。氏家も左右フックも交えて必死に応戦するが、かえって江口とのパンチ力の差が浮き彫りになった印象も。
2R。氏家は、江口のやや粗い攻守の隙を突いての右ストレート狙い中心。江口は主体的にフック、ストレートで攻め立てるが、やや実利に逸りすぎて大振り気味。それでもボディ攻めも見せて、互角の形勢をキープしていたが、ラウンド終了直前、氏家の左フックがクリーンヒットして足を揃えて尻餅を突くダウン。ここはゴングに救われたが、青コーナー側の氏家応援団はヤンヤの大騒ぎ。
3R。このラウンドも氏家が右ストレートで先手、先手の攻め。江口の猛打を捌きつつカウンター気味に痛烈な一撃を決め、この試合2度目のノックダウン。原田レフェリーは江口側関係者・応援団の気持ちを代弁するように一瞬躊躇した後、ダウンのコール。しかしこれで目が覚めたか、江口は左中心の強打を次々と浴びせて大逆襲。アッサリと形勢を逆転して、最後は左カウンター一閃! バッタリと倒れた氏家は脳と脊髄を叱咤激励して立ち上がるも、カウントの途中でガクンと崩れてロープダウン状態に。そこから再度姿勢を立て直し、カウント9の時点でファイティングポーズの形まで作って意地を見せたが、これでは試合続行は無理。原田レフェリー、今度は殆ど躊躇わずに試合をストップさせ、TKOの裁定を下した。
短時間で内容十分のシーソーゲーム。試合終了直後には自然な形でスタンディングオベーションも起こった。こういう試合こそ、地上波のゴールデンタイムで流してもらいたいものなのだが……。
江口が2度のダウンを跳ね返す大逆転劇で初防衛に成功。攻守共に粗い所につけ入られて想定外の苦戦となったが、これぞミドル級、というような剛腕パンチで劣勢をひっくり返した。今後に向けての課題も残したが、カネの獲れるイ試合をしたチャンピオンには改めて拍手喝采を送りたい。
敗れた氏家も、短時間で指名挑戦者に相応しいパフォーマンスを示し、大健闘した。勝利を手元のすぐ側まで引き寄せたが、努力だけではどうにもならないナチュラルなパンチ力の差が運命を分けた。