駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第7試合・日本バンタム級タイトルマッチ10回戦/●《王者》三谷将之[高砂](判定0−3)大場浩平[大一スペースK]《挑戦者・同級WBC12位》○

王者・三谷は21勝(10KO)2敗。WBA13位、WBC16位の世界ランクを保持している。02年デビュー。新人王戦は不出場だが、手足のスピード豊かなファイトは4回戦当時から西日本では評価が高く、それに応えるようにデビュー以来10連勝をマーク。しかしその間、慢性的な負傷に悩まされ、対戦相手にも恵まれない日々が続く。04年に初の関東遠征で初黒星を喫するなど、名目上の成績・地位が実質的なキャリアより先行している傾向も。
しかし手術による長期休養から明けた06年からはハードなマッチメイクに路線変更。休み明け緒戦でいきなり当時世界ランカーのハイメ・オルティスに挑戦し、微妙な判定ながらこれに勝利すると、2試合の調整戦を挟んだ後に空位の日本バンタム級王座決定戦で健文トーレス[大鵬]との世界ランカー対決を制して日本王座を戴冠した。
初防衛戦は互いに手の内を知り尽くした川端賢樹[姫路木下]と難しい試合を強いられたが、メキシコ合宿を挟んでの2度目の防衛戦では寺畠章太[角海老宝石]に2RKOで圧勝して評価を一気に高める。8月にはロリー松下[カシミ]の保持するOPBFタイトルに挑戦し、健闘空しく12RTKO負けとなりプロ2敗目。しかし日本タイトルは保持したまま、昨年11月に元日本Sフライ王者・菊井徹平[花形]を破って3度目の防衛に成功。今回は4度目の防衛戦にして3回目の指名試合となる。
挑戦者・大場は20勝(10KO)無敗1分。現在WBC12位で、ランク上では王者よりも格上に居る。02年デビュー。同年の2戦を連続KO勝利した後、翌03年に新人王戦にエントリー。4連勝で全日本新人王タイトルを獲得し、日本ランクに登載される。04年から05年にかけ6連続KO勝利を含む7連勝をマークし、06年2月にはマルコム・ツニャカオが保持していたOPBFバンタム級タイトルに挑戦したが、分の悪いドローで挑戦失敗に終わる。しかし2ヵ月後には再起し、地元での対外国人戦と後楽園遠征を繰り返しつつ、07年10月まで再び7連勝。満を持して指名挑戦者として日本タイトルに挑む。
1R。ジャブを中心にした激しい主導権と距離の奪い合い。三谷が先制するが、大場も中盤から小気味良い連打で数で小差リードか。終盤まで一進一退の攻防。
2R。三谷が中間距離からマイペースでジャブ、ボディブローで主導権を窺う。大場もスピードを活かして散発的にヒットを打ち逃げしてジャッジに印象付ける。
3R。地味ながらも激しい距離の奪い合い。大場がスピード活かして三谷の間を外し、主導権を引き寄せる。打ち合いでも自分だけ当てる場面が目立った。
4R。三谷がアグレッシブに前へ出て先手で左中心に手数。大場も躍動感溢れる動きで三谷に決定打を許さず反撃も。しかしラウンド終盤になって三谷が攻勢。“アグレッシブ”要素優位で僅かに先んじたか。
5R。出入り激しく、激しい打ち合いも頻発。共に右ストレートを1発ずつ有効打。大場は一瞬モロに効いた素振りを見せたが、すぐさま反撃して劣勢を意識させない。だが三谷も手数出して一歩も引かず、僅差の攻防。
6R。三谷が左フックを有効打して先制。だが大場も怯まず抵抗し、逆に手数で優勢に立つ。三谷もラウンド終盤に密着しながら手を出していったが、大場のスピードが見栄えする。
7R。三谷はこのラウンドも前、前へ。やや軽いが3連打を決めて印象的な先制打を放ち、距離を詰めては手数攻め。しかし大場も足を上手く使って主導権は容易に手放さず、密着戦ではアッパーでヒットを稼いで小差〜微差ながら優位を確保。三谷もボディ中心にヒット集めて食い下がるが。
8R。やや大場の動きが鈍って、三谷にイニシアティブ。左ボディで明確なヒット。それでも大場もジャブでリズムを整えて右アッパー3発ヒットで挽回。終盤には足を使って主導権もアピールし、互角近辺の形勢に持ち込む。
9R。ショートレンジ打撃戦。大場が足使って三谷の攻撃をいなしつつ、左フックで有効打。三谷も手数は出るが、ガードを破れず苦しいが、それでも左上下ダブルや右ショートをヒットさせて意地見せる。
10R。クロスレンジ打撃戦。大場が圧力かけつつアグレッシブアピールも、見たには踏ん張って手数まとめて挽回。ラウンド終盤も三谷は上手く立ち回って微差ながら優勢を確保か。
公式判定は村瀬97-94、坂本97-94 堺谷97-95の3−0で大場の王座奪取。三谷は4度目の防衛に失敗。駒木の採点は「A」95-95「B」97-97「C」97.5-97.5で完全にイーブン。
余談だが、筆者周辺及びネット界隈での戦評を散見すると、大場のスピード・主導権支配を支持した大差勝ちか、筆者のように三谷の攻勢点・ダメージブローにも一定の評価を与えてドロー近辺の採点とするか、観戦者の主観はかなり極端に分かれていた*1。公式判定は大半のラウンドで採点が割れたが、三者一致した3つのラウンドは全て10-9大場。「両者健闘したが、三谷の勝ちは無い」という内容を端的に表現した最終集計のスコアはまさに絶妙と言うほか無い。
大場がスピード優位を活かした立ち回りで試合の流れを掴み、小差判定勝ちで念願のベルト奪取に成功した。どちらも明確な優勢を築けない大接戦のラウンドが続いたが、見栄えする動きでジャッジの支持を細かくまとめていった。
三谷はボディ中心に手数を出し、中盤では右ストレートを効かせる場面も有ったが、スピード劣勢のためにジャブや距離を取ってのコンビネーションを使えず、ロリー松下戦と同じ轍を踏んでしまったようだ。それでも採点要素上では攻勢点や手数で大場を凌ぐ場面もあり、三谷本人の「最悪でもドロー防衛だと思った」という談話もあながち的外れではない。しかし今日は敵地。独特の雰囲気の中で、相手は中日本の至宝的存在。この状況下でポイントをもぎ取るだけの説得力が、彼の試合振りの中に見出せなかったという事なのだろう。

*1:ボクシングマガジン」08年4月号にも同様の記述あり