駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第2部第8試合・フェザー級10回戦/△セーンヒラン・シンワンチャー[タイ国](判定1−1)武本在樹[千里馬神戸]△

セーンヒランは21勝(15KO)1敗。WBC世界Sバンタム級10位のランクを保持している。ムエタイの世界で一時代を築いた後、03年に国際式転向。同年7月の3戦目でABCOバンタム級王座を獲得し、ジェス・マーカや来日前のロリー松下らを相手に防衛3度。04年9月には同団体のSバンタム級暫定王座を獲得して2階級制覇を達成。06年3月まで9回連続防衛を果たした。06年9月に国際式20連勝をマークするが、眼疾で1年のブランクを余儀なくされる。休み明けで07年9月にナパーポンとのWBC世界王座挑戦者決定戦に直行したが、10RKO負けで初黒星。11月に再起戦に勝利し、今回初来日となった。
武本は22勝(12KO)7敗1分の戦績。97年にデビュー、4回戦は難なくクリアするも、6回戦で連敗、A級昇格後もノンタイトル10回戦で連敗を喫するなど、01年までは勝率5割強の平凡な成績に甘んじる。しかし02年からは連勝街道を驀進。04年4月には当時世界ランカーのサオヒン・シリタイコンドー[タイ国]を微妙な判定ながら破ってランキングを奪取するなど急上昇。しかし05年4月には榎洋之[角海老宝石]が保持していた日本タイトル挑戦で、試合中に眼窩底骨折を負うアクシデントもあって判定負けで快進撃はストップ。その後は日本ランクをキープしながらタイ人相手中心の慎重な調整を続けていたが、06年11月に当時ノーランカーの児島芳生[明石]に負傷判定負けする痛恨の取りこぼし。それでも07年3月にWBAラテン王者のファン・ヘラルド・カブレラ負傷判定勝ちして世界ランクに復帰。同年8月にはクリス・ジョンの保持するWBA世界フェザー級王座に挑戦した(9RTKO負け)。一時は引退をほのめかしていたが11月に復帰。今回は再起2戦目で三度世界ランカーに挑戦する。
1R。ミドル〜ロングレンジの攻防。武本が先手でジャブ、ワン・ツー中心の正攻法。セーンヒランは様子見か手数少なく、捌きに専念している印象。時折手数を返すがヒットは奪えず。
2R。ロングレンジでのワン・ツー合戦。共に堅実なガードで被弾を防いでいるが、その間隙を縫ってセーンヒランがヒット数で小差リード。だが武本は右ストレートをガードの隙間に捻じ込んでセーンヒランのバランスを崩し、グローブをマットに着けさせてノックダウン。ダメージは少ないが貴重な2点のアドバンテージ。
3R。このラウンドも重厚なワン・ツー合戦だが、セーンヒランは左フック、右アッパーで有効打を重ねるなどバリエーションも見せる。武本はスピードを活かしたヒット&アウェイを見せるが、ヒット数とダメージ量共に見劣り。
4R。セーンヒランは左ジャブを的確に当ててリズムを作り、武本のワン・ツー・ボディを概ね捌きつつ、時折右ストレートなどビッグパンチを浴びせてゆく。武本の時折入るボディブローがどこまで評価されるか。
5R。セーンヒランは完全に武本のパンチを見切って鉄壁のガード。その上で左ジャブ中心にヒットを重ねてはストレート、フックで有効打。武本は手数こそあるが、そこから先に繋がらない。
6R。セーンヒランは徐々に強打を狙い撃ち始めた。右ストレート、左の上下フックで武本にダメージを与えてゆく。武本の反撃はことごとくガードの上で手詰まりの状況。
7R。このラウンドもセーンヒランが右ストレートで先制。その後も右ストレート中心に有効打を連発し、KO狙いの意図が露わ。武本は反撃もままならず完全に劣勢。
8R。セーンヒランは圧力伴う攻勢に出る。武本は退がりつつ時折ワン・ツーボディなど連打を固めるが、明確なヒットが無く、セーンヒランの左をコツコツと浴びてしまう。これまでほど差は無いが……
9R。このラウンドに入って、武本が出入り激しく動いて連打をまとめ、主導権と手数でリード。しかしセーンヒランも重いワン・ツーで攻勢点とダメージ量で上回る。採点要素上は微妙な内容か。
10R。このラウンドも武本は手数を意識的に増やしジャブ中心の組み立て。セーンヒランは時折強めのジャブを当てて、強打もヒットさせたが、武本の気迫溢れる攻勢に押され気味か。
公式判定は宮崎96-93(武本優勢)、野田96-93(セーンヒラン優勢)、浦谷96-96の三者三様ドロー。駒木の採点は「A」95-94「B」96-95でセーンヒラン優勢。浦谷副審の10-10を3回使ったイーブンという採点が物語るように、採点基準上は、点差はともかく三者三様も納得の接戦。ただ、2Rの10-8武本という採点が実勢を表しているとは言い難いだけに、「武本に分の悪い内容」という見方からは逃れられないだろう。
武本が2Rにフラッシュダウンで2点を稼ぐも、中盤には強打を浴びて劣勢。終盤にギリギリの所から手数攻めでポイント狙いに切り替え、何とかドローまで追い上げた。地力面・内容では見劣り、6月にも予定されている再戦の見通しも明るくは無いが、最後の最後でこれまで表に余り出て来なかった勝利への執念を出せたのは大きな収穫。
セーンヒランは基本に忠実なハードパンチャー。強打中心のヒットで大いに見せ場を作ったが、詰めを誤って星を落とした印象。ただ、ドローの判定結果を聞いて狂喜乱舞したところを見ると、今の目的は遠くなったチャンピオンベルトや名誉・名声よりも、世界ランクをエサに手っ取り早くまとまったカネを釣り上げる事なのかな、という疑念も沸く。