駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

WBC世界フライ級タイトルマッチ12回戦/○《王者》内藤大助[宮田](10R0分57秒KO)清水智信[金子]《挑戦者・同級13位》●

王者・内藤は32勝(20KO)2敗3分の戦績。96年にデビュー。97年度の新人王戦はベスト8で引分敗者扱いとなるも、98年度には1回戦から3連続1RKOを含む5連勝で東日本を制覇し、全日本決勝でも福山登[大阪帝拳・引退]を60秒殺で仕留めて新人王タイトルと日本ランクを獲得する。その後約2年・9戦に渡ってチャンスを待ち続け、01年7月に坂田健史[協栄]が保持していた日本フライ級王座に挑戦。しかし、これは惜しくもドローで獲得失敗。翌02年には、ポンサクレック・ウォンジョンカム[タイ国]に招かれて遠征で世界初挑戦を果たすも34秒で左カウンターに失神させられて無残な初敗北を喫し、どん底を味わう事となる。だがそこから時間をかけて再起を図り、04年には中野博[畑中・引退]から日本王座を奪取、初防衛戦では1R24秒の日本王座戦史上最短KO記録を樹立する。更に1度の日本王座防衛を重ねて臨んだ05年10月に、後楽園ホールで再びポンサクレックに挑戦するが7R負傷判定で涙を呑む。それでも翌年に日本王座4度目の防衛戦で大苦戦ながら再起を果たすと、小松則幸[エディ→Gツダ]の保持していたOPBFフライ級タイトルを吸収統一した。同年秋にOPBF王座初防衛した後に両王座を返上。07年7月に三度ポンサクレックに挑戦し、小差ながら明確な判定勝ちで念願の世界王座戴冠を達成した。同年10月の初防衛戦で亀田大毅[協栄(当時)]との“国民の期待”を背負う一戦で勝利し、08年3月にはポンサクレックとのラバーマッチで際どくドロー防衛を果たして今回が3度目の防衛戦となる。
挑戦者・清水は13勝(5KO)2敗。アマチュアで高校、大学と活躍し、国体成年の部・全日本選手権で準優勝の実績を挙げた。04年にB級プロデビュー、2戦目でタイ人に1RTKO負けする躓きもあったが、その後は久高寛之や吉田拳畤[笹崎]など相手に9連勝して日本1位まで浮上。07年4月には当時のWBC王者ポンサクレックからの招聘を受けて敵地タイで世界挑戦するが、これは7RTKO負けに終わる。3ヵ月後の7月に早くも再起し、その3戦目となる08年4月には日本王者だった吉田拳畤とタイトルマッチで再び相見えて判定勝ち。ベルトを手にし、2度目の世界挑戦のチャンスを掴んだ。

1R。両者アグレッシブに前へ出てフック合戦。しかり距離が噛み合わずバッティングが多い。カウンターの取り合いで僅かに勝った内藤が、ラウンド後半やや攻勢か。
2R。内藤の圧力攻めに対し、清水はカウンターで迎え撃つ。共にヒット奪いほぼ互角の内容だが、連打の数が多いのは内藤。
3R。清水はクリンチとカウンターに徹し、左でヒット数小差リード。内藤はアグレッシブに前へ出続けて手数と勝ちに行く姿勢をアピールする。
4R。清水はスピードで内藤のアタックを捌きながらの左。クリンチも使って内藤の攻勢を無効化する。フェイントを多用する内藤だが、研究対象になる弱味か、今日は空振りがやたらに多い。
※4Rまでの公式採点は39-37(清水優勢)、38-38、38-38。駒木の採点は38-38イーブン
5R。このラウンドもスピード有利を活かして清水が前半戦を支配。内藤は後半に入ってからカウンター合戦でややリード。内藤の攻勢を受け止める清水のクリンチをどう評価するかがカギ。
6R。内藤の攻勢、清水のスピードで捌く主導権支配が均衡。ロースコアの展開の中で主導権の奪い合い。どちらにポイントを割り振っても不思議無いラウンドが続く。
7R。内藤の攻勢が目立つ。清水のクリンチは苦し紛れにも映るが、主導権支配をアピール。打ち合いで内藤のフックが先手で当たってヒット数で確実にリードしたが、終了ゴング寸前に清水が鮮やかなカウンター。
8R。内藤の攻勢、右の有効打も決め小差リードか。清水も渋太くスピードとクリンチで捌くが……
※8Rまでの公式採点は77-75、77-76(以上、清水優勢)、76-76。駒木の採点は77-75内藤優勢。
9R。内藤は相変わらずアグレッシブだが、8Rまでの中間採点で出来た「清水優勢」の共通認識は、この空振りのやや目立つ攻勢を消極的に評価。清水は捌き中心の試合運びの中で貴重なカウンターをヒット。内藤は攻勢点とクリーンヒットを組み合わせたいが……
10R。内藤は怯まずアタックを続行。不用意に応じた清水に右のフェイントから左フックをクリーンヒットさせて起死回生のノックダウン。再開後、内藤は強引にロープへ詰めて強振連発。最後は左右連打2セットで再び清水を倒す。清水はカウント8で立ち上がったがファイティングポーズが不完全で10カウントを数えられた。
内藤は試合序盤からスピードの不利を攻勢と技術でリカバーできず、大苦戦。空振りが目立つ攻勢は“アグレッシブ”要素を満たしたと受け取られず、採点面でも敗戦ペースの厳しい流れに立たされた。しかし最後は降って沸いたようなワンチャンスをKOに繋げて逆転勝利を飾った。コンディションの不良も垣間見えたが、それよりも技術でフォロー出来ない部分の肉体の衰えと、相性の悪さが苦戦の主たる原因ではないかとも思えた。今後も打ち合いを好まないスピードタイプのアウトボクサーやカウンターパンチャーには苦戦を強いられそうだ。
清水は会場に詰め掛けた大応援団の後押しを受けて、完全に勝ちに徹した“塩漬け”の戦術。9Rまでで判定勝ちをほぼ確実にしたが好事魔多し。これまでのレベルでは敗戦に繋がらなかった一瞬の隙を突かれて築き上げた優勢を一瞬にして手放してしまった。終わってみれば、最大の敗因は攻撃力と耐久力の差という、プロボクシングで最も勝敗に繋がり易い要素。「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けあり」という格言の通り、敗者の側には必ず明確な敗因が存在するものである。


空振り気味の内藤の強打攻勢が“アグレッシブ”要素を満たしたと値するかどうかが採点上最大の争点となる試合。筆者は若干の攻勢点を認めて内藤を微差優位と見たが、公式ジャッジの見解は、内藤の攻勢点を認めず、清水の“リング・ジェネラルシップ(採点要素の2割)”が内藤の“勝ちに行く姿勢(採点要素の1割)”を凌いだという判断。
その後もやや微妙な内容だった9Rが3者とも清水の「10-9」となっているところを見ると、「ジャッジの動向が中間結果と会場の反応に左右されがち」というオープンスコアリングシステムの特徴が出始めており、8Rまでの戦況のまま12Rまで縺れれば、3〜5点の中差で清水の勝ちになっていたのではないか。まさに値千金のKOパンチであった。