駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

WBA世界フライ級タイトルマッチ12回戦/○《王者》坂田健史[協栄](判定3−0)久高寛之[仲里ATSUMI]《挑戦者・同級3位》●

王者・坂田は32勝(15KO)4敗1分。98年デビュー、翌99年度のフライ級全日本新人王を獲得すると、01年にはプロデビュー以来15連勝で日本フライ級王座を戴冠する。初防衛戦では次の試合に登場の内藤大助とドロー防衛の死闘を繰り広げた。02年、4度目の防衛戦でトラッシュ中沼に敗れて王座から陥落するも、翌年のリターンマッチで王座を奪回、更に2度の防衛を重ねて世界挑戦のために返上した。世界王座には04年と05年にロレンソ・パーラ、06年にはロベルト・バスケス暫定王座)の計3度挑戦し、いずれも互角かそれ以上の内容で大健闘しながら微妙な判定に泣いた。特に試合序盤にアゴを砕かれながらも奮戦した04年のパーラ戦はボクシングファンの間で語り草となっている。そして07年3月、3度目のパーラとの対戦では、減量失敗で前日に王座を剥奪された“前・王者”を3Rでギブアップさせて念願の王座戴冠を果たす。その後、暫定王者バスケスとの統一戦を制し、指名挑戦者デンカオセーン・カオビチットをドローで退け、今年3月には山口真吾[渡嘉敷]に判定勝ちして都合3度の防衛に成功している。


対する久高は16勝(5KO)6敗1分の戦績。02年に17歳でデビューするが、いきなりの連敗スタート。しかし03年には1つの引分を挟んで4連勝する快進撃を見せ、04年の新人王戦では、途中で骨折のアクシデントに見舞われながらも勝ち上がって遂に全日本制覇。日本ランカーとして迎えた05年には清水智信[金子]に敵地で敗れるも、バート・バタワン[比国]を撃破して一躍世界ランクを獲得して飛躍を見せる。06年は苦戦も挟みながら4連勝をマークし、07年4月にはトップコンテンダーとして吉田拳畤[笹崎]との日本フライ級暫定王座決定戦に出場したが、思わぬ苦戦の末に完敗を喫し、大きな頓挫を経験する。その後は5月、8月とタイ、フィリピンに遠征して地の利無く連敗し停滞を強いられたが、12月にかつて強豪OPBF王者としても名を馳せた世界ランカー、フセインフセインを判定で降して再浮上を果たした。なお、この試合がグリーンツダジムからの移籍緒戦となる。新興の仲里ATUSMIジムは、これが地域・国内タイトル含めて初のタイトルマッチである。


1R。坂田は圧力かけて連打。これを久高はステップワークとガードで手堅く捌いてカウンターを狙い、右ストレート、アッパー、左ジャブ、フックで断続的に有効打。坂田のヒットは当たりが明確でない。
2R。坂田はこのラウンドもアグレッシブ。久高はボディワーク中心に捌くが、カウンターのアッパーをガードされて戦果挙げられず。坂田のパンチも明確なヒットが少なく微差だが、攻勢点を稼いだ坂田がやや有利か。
3R。坂田の攻勢も、久高は手数あるカウンター戦法で応戦。クリンチ多く揉み合う中、坂田は右ストレートと左ショート、久高もアッパーでそれぞれ有効打を稼ぐ。小差〜互角の展開が続く。
4R。膠着戦に突入。足を止めてショートアッパーを討つシーンが目立つ。坂田が突き放しながらヒットを奪うが、久高の右ストレートとアッパーも活きる。ほぼ互角。
5R。坂田は愚直に圧力と手数。久高はクリンチで止めるしかなく、拳を動かす事が難しい。坂田は有効打こそ少ないが、“クリーンヒット”“アグレッシブ”要素で着実にリードを奪うが、3Rに偶然のバッティングで負った右目上の傷から大流血。
6R。膠着戦が続くが、手数攻めを嫌がって隙を作った久高の顔面へ坂田のアッパー→ストレートが度々炸裂する。久高は気持ちで負けそうになりながらも右ストレート狙いで必死に食い下がる。
7R。久高は足を使って捌く展開に。左カウンターで一矢を報いるが、坂田は圧力かけ続けて左→右の強打でお返し。“アグレッシブ”要素で大差をつけて坂田が有利。
8R。久高はジャブ中心の牽制で距離を開けて右カウンターを狙うが、坂田の強い圧力に負けて劣勢。坂田は左ショートを有効打させつつ攻勢を絶やさない。
9R。同様の展開が続く。久高は左ジャブは出るが肝心の右を封じられて苦しい展開。坂田は圧力と手数で攻勢点と主導権支配をガッチリキープ。
10R。久高は引いても駄目なら押せとばかりに圧力を強め、そこから離れ際を狙う作戦に切り替える。強引な試合運びでラウンド前半から手数・ヒット数で小差リード。坂田は動きこそ変わらないが、久高の変化に対応し損ねた。
11R。坂田が先手。久高はまた圧力をかけるが、真向勝負なら坂田の土俵。左右のショートを上下に決めて断然優勢。ラスト30秒、坂田の傷にドクターチェックが入り、その間に息を入れた久高が猛攻に出るが、これも実らず。
12R。流石の坂田もやや体力切れか圧力鈍り、久高が圧し気味な態勢からショート連打、右カウンターストレートで有効打。しかし坂田もラウンド中盤にヤマ場を作って挽回し、大熱戦のラウンドになった。
公式判定は島川[東日本]118-111、プラヤドサブ[タイ国]117-111、原田[西日本]116-112の3−0で坂田。駒木の採点は116-112で坂田優勢。
優劣判断の難しいラウンドが少なくない試合だったが、坂田が体力の差で中盤戦を制して明確なポイント差を築き、終わってみれば中差の判定勝ち。豊富な経験と弛まぬ鍛錬を背景に、自信を持って戦えるこの選手の強みが出た試合。今日は序盤戦から動きも良く、スロースタート傾向も殆ど顔を覗かせなかった。いよいよ安定政権の域へ達したか。
久高は序盤を接戦に持ち込むも、ジリ貧を嫌ってアウトボクシング・カウンター狙いに切り替えたが、これが裏目。体力自慢のファイタータイプに退き気味で戦っては“アグレッシブ”要素の劣勢ばかりが目立ってしまう。久高本人はポイント争いで優勢と自己判断していたようだが、これで作戦の再変更が遅れたのが最大の敗因だろう。