駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第7試合・フライ級契約ウェイト(50kg)10回戦/●フランシスコ・ロサス[墨(メキシコ)国](判定0−2)中島健[Gツダ]○

セミファイナルは「世界タイトルマッチ挑戦者決定戦」と(勝手に)銘打たれた、世界ランカー同士の10回戦。
今年3/6のVS戎岡淳一戦(http://d.hatena.ne.jp/komagi/20050306#p8)に続いての日本遠征となるロサスは、21勝(10KO)4敗1分の戦績。前回来日時と戦績が随分と違うが、その時のレコードはboxrecからの流用だったみたいなので、こちらの方がまだ信憑性が高そうだ。元WBC中南米ライトフライ級王者の経歴を持ち、現在もWBC同級8位にランクされている。ただ、そのファイトスタイルはスピードと手数に乏しい強打一発型で、一桁順位の世界ランカーとしては明らかに二線級。僅かな期間における二度の招聘は、日本の関係者が彼を“世界ランカー配給係”と見なしているからに他ならないだろう。
一方の中島は13勝(8KO)2敗の戦績。主に東南アジア人選手を相手に選んで戦績を積み重ねて来た選手で、長らく日本ランクの下位に位置しながらも、昨年末(http://d.hatena.ne.jp/komagi/20041213#p7)までは噛ませクラスの選手に大苦戦を強いられるケースが多かった。しかし今年4/4には1階級下のWBC世界ランカー&インター王者だったアルマン・デラクルスに明白な判定勝を収めて(http://d.hatena.ne.jp/komagi/20050404#p5)一気に飛躍。この試合のマッチメイクが為された後に世界ランクを獲得し、最新のWBCランクでは13位となっている。
余談だが、試合前のコメントで中島は「横浜の誰かさんと違って、こっちはホンモノのボクシングを見せてやります」という旨のビッグマウス。ただ、これには内心「お前が言うな!」と思っていた関係者も多かったのではないか(笑)。*1
1R。中島は序盤から手数を稼ぐ試合運びで攻勢も、ロサスのピーカブースタイルの堅固なガードと老獪なクリンチワークにヒットは軽く3発程度。ロサスはやや守勢で手数が少ないが、ボディに有効打を集めていって互角の形勢に持ち込んだ。
2R。中島はこのラウンドもアグレッシブにワン・ツーを打ち込むも、やはりロサスのガードは堅い。逆にロサスのボディ攻めにクリーンヒットを許し、他の場面でも相変わらずの低いガードを咎められて打ち合いで不利に追い込まれるなど、このラウンドは中島にとってネガティブな要素が目立った。
3R。このラウンドも中島が手数を出す→ロサスが防ぐ…という構図。ロサスはイサック・ブストスを髣髴とさせるスピード感の無い動きと荒っぽい大振りだが、中島の低いガードはこれを跳ね返せず、最後はワン・ツーを浴びせられてキャンバスにひっくり返された。ダメージは浅かったが、これで喫したジャッジ2点のビハインドは厳しい。
4R。中島は覚悟を決めて、互いのガードが無効化される密着してのショート合戦に活路を見出す。手数とスピードに乏しいロサスに対して中島の回転力がいかにも目立つが、そのロサスも強烈なボディブローを浴びせる場面もあって少差。
5R。中島がスピードの差を利したヒット&アウェイ戦法に出た。以前からの課題だった横へ動くステップも随分とスムーズになっていて、手数で圧倒してボディなどにヒットを集めた。ロサスは相変わらずパワーだけのフックを振り回す。軌道の短いストレートの方が当たるように見えるのだが、愚直に腕を振り回す。
6R。このラウンドはロサスがアグレッシブに手数を浴びせて主導権。しかし後半からは中島も盛り返し、細かいヒットを奪う場面もあって互角。
7R。試合も後半に入り、足を使うのも面倒だといわんばかりに頭をくっつけた超ショートレンジのフック合戦へ。ハンドスピード、パンチのキレで上回る中島がヒット数で上回り優勢も、一発一発の威力が重いロサスのパンチを喰い続けたダメージが色濃くなっていく。なお、このラウンドに1Rから再三注意を受けていたロサスがローブローで減点1。この試合を捌いたのは宮崎レフェリー。原田氏ほどの露骨な地元贔屓をする場面はなかったものの、敢えて減点するほどのローブローだったかは微妙な感じだった。
8R。このラウンドも超接近戦で互いに強打を振るい合う。中島がロサスのガードの間隙を縫ってヒット数でリードするも、一発一発の重みの差は大きく、明らかに中島の方が効かされている印象。
9R。バテて動きの鈍った中島に対し、ロサスが打ち合いで優勢。中島も渾身の反撃を振るうも、ロサスのパワーの前に捻じ伏せられた。
10R。完全な泥仕合。クリンチ気味に強引なショートブローを打ち合って完全に戦況は膠着した。ほぼ差の無い形勢だったが、スタミナの差でロサスが僅かに手数勝ちか?
公式判定は安田96-92、上中95-93(以上、中島支持)北村94-94の2−0。しかし、微妙なラウンドを平等に振り分けるとイーブンか中島の2点負けぐらいとなる。この若干偏った採点結果は身内への手心のようなものが窺い知れる“故意によらない地元判定”だったと言わざるを得ない。ちなみに駒木の採点は95-93でロサス優勢。
中島は確かに以前に比べるとひ弱さが抜け、欠点にも幾分改善の跡が窺えた。それはそれでこの本格化を大いに認めなければならないだろう。が、それは“日本ランカーとして相応しくなった”程度の成長であって、これで一桁順位のランクとか世界挑戦とか言われても困惑する他は無い。ここで得た世界ランクは、世界挑戦権としてよりもチャンピオンカーニバルの優先挑戦権として行使するのが順序というものだろう。
一方の敗れたロサス、確かにこの判定結果には同情を禁じえないが、そもそも彼が世界ランカーとして相応しい実力を持っていたのかどうかと言えば、明らかに疑問。今回はファイトマネーに釣られてまんまと虎の子の世界ランクを吐き出した……といったところか。

*1:先述したように、中島は昨年末に亀田の前座で醜態を晒している。また、業界内では、亀田が移籍前にツダジムでスパーした時、中島は亀田に敵わなかったという噂がある