駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第8試合・WBA世界ミニマム級タイトルマッチ12回戦/○《王者》新井田豊[横浜光](10R2分01秒負傷判定2−1)エリベルト・ゲホン[比国]《挑戦者・同級2位》●

王者・新井田はこれが3度目の防衛戦。96年11月のデビュー以来、無敗のキャリアを積み重ねて01年1月に日本王座を奪取(1度防衛後返上)。同年8月にはチャナ・ポーパオインの保持していたWBA世界ミニマム級王座を3−0の判定勝利で獲得したものの、2ヵ月後にモチベーションの低下を理由に引退・王座返上という前代未聞の行動に出て論議を醸す。その後引退を撤回し、1年11ヵ月のブランクを経て03年秋に復帰。カムバック緒戦でWBA王者再戴冠を目指すも、ノエル・アランブレットに2−1の僅差判定で敗れて初の敗北&挑戦失敗を喫した。それでも1年後の再戦では減量失敗で王座を剥奪されたアランブレットに中差判定勝ちでリベンジして念願の王座返り咲きを果たし、04年10月、05年4月と2度の防衛戦もそれぞれ判定勝ちでクリアして来た。これまでの戦績は18勝(8KO)1敗3分。
対する挑戦者・ゲホンはここまで21勝(13KO)無敗1分の戦績。99年末のデビューから2年足らずでフィリピン国内王座を獲得(1度防衛後返上)、フィリピン国内のホープや二線級の相手の調整戦を経て、04年1月にはベネズエラに遠征してWBAラテン王座決定戦に4ラウンド負傷判定ながら勝利。それからも勝ち星を重ねて今回の世界王座挑戦を掴んだ。現在はWBA2位の他、WBO4位、IBF8位のランキングを保持している。
1R。ゲホンは長身・リーチ差を活かしたヒットマンスタイル。ジャブで牽制して自分のペースを掴もうと試みる。それに対し新井田は、慎重に被弾を避けつつ時に踏み込んでフック・アッパーを振るう。前半から中盤にかけて試合をコントロールし、やや手数でも勝っていたのはゲホンだが、終盤には新井田がラッシュ気味に仕掛ける印象的な場面もあった。両者明確なヒットも殆ど無く、ジャッジ的には微妙なラウンド。
2R。ゲホンがジャブ中心にストレートも交えて手数で先行したが、新井田も右ストレートでヒットを奪った後、与えたダメージこそ浅いが上下に7〜8発の激しい連打を見せてヤマ場を作る。それでも支配している時間が長いのはゲホンの方で、“平均値”を評価するか“瞬間最大値”を評価するかで、やはり採点するには極めて微妙なラウンド。
3R。ラウンド序盤は、互いが互いの打ち終わりを狙っての相打ちが数度で互角。しかし中盤以降はガードの上からでもジャブをコツコツ当てるゲホンに対して新井田がやや守勢となる。形勢自体は少差だが……
4R。ゲホンが序盤から淡々とジャブで牽制して主導権を窺うと、中盤にはジャブからの右アッパーをボディ、顔面へ有効打。新井田も終盤にアグレッシブな攻撃姿勢をアピールしたが、ゲホンのガードに阻まれて有効打を奪えない。
5R。ラウンド前半、ゲホンはリーチ差を活かすボクシングで新井田を寄せ付けず。だが新井田も巧みな守備の合間にこすっ辛く反撃し、ヒット数では1〜2発ずつで互角。終盤の打ち合いも互角にまとめ、このラウンドも採点が難しくなった。
6R。出入りのやや大きな展開で、新井田が左、ゲホンが右のフックをそれぞれ当てあう展開。共にガード、ステップ・ボディワーク巧みに相手の決め手を許さず、このラウンドも互角。
7R。ゲホンが序盤からジャブに交えたストレートを度々ヒットさせて主導権を握る。新井田は後半に右ストレートを数発ヒットさせて肉薄するも、見栄えの点では今ひとつか。しかしこのラウンドもほぼ互角。
8R。後半戦勝負が作戦だったという新井田、このラウンドからややアグレッシブに仕掛け、左フック・右ストレートを続けてヒット。ゲホンのワン・ツーは堅守で完封し、このラウンドは明確に新井田が獲った。
9R。新井田、序盤に左オーバーハンドフックをクリーンヒットさせると、自分の距離を掴んで主導権。ゲホンの手数をことごとく不発に終わらせた上でジャブ中心にヒットを連発し、優勢を築く。
10R。このラウンドは両者なかなか噛み合わず。手数で勝ったゲホンにやや寄ったペースで淡々と試合が進行していたが、偶然のバッティングでゲホンが瞼の上を切り裂く傷を負ってドクターストップ。残念ながら非常に中途半端なタイミングでの試合終了となった。
公式判定は96-95[タイ]、96-95[韓国](以上新井田支持)、97-93[パナマ](ゲホン支持)の2−1スプリットで、新井田の判定勝ち防衛という結果に。駒木のジャッジは5、6ラウンドをイーブンとして97-95でゲホン優勢。ただ、殆どのラウンドで形勢がほぼ互角、公式のジャッジペーパーの点数振り分けも全くの三者三様という事で、非常に採点の難しい試合であったのは確か。時の運が勝敗を分けたと言って差し支えあるまい。
さて、薄氷を踏む思いでV3を達成した新井田。とりあえずは身長・リーチで大きなハンデを背負ってよく戦ったと言うべきか。エンターテインメント性には著しく欠け、お世辞にも人前で高額のカネを取って見せる試合ではなかったものの、世界王者らしい技術の高さも垣間見せてはくれた。ただ作戦面──いつ試合が終わるか判らないボクシングで8ラウンド以降に勝負──は完全にミスチョイスで、危うく力を余してベルトを手放す所だった。この辺も次戦以降の課題となるだろう。