駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第9試合・WBC世界バンタム級タイトルマッチ12回戦/○《王者》長谷川穂積[千里馬神戸](7R2分18秒TKO)ヘラルド・マルチネス[墨国]《挑戦者・同級8位》●

メインイベントは西日本ボクシング界の若きエース・長谷川穂積の初防衛戦。
王者・長谷川は、ここまで18勝(5KO)2敗の戦績。デビュー当初から素質を高く評価されながらも、新人王予選で2年連続敗退するなど不本意なグリーンボーイ時代を過ごす。しかし02年10月、日本ランカーの熟山竜一を相手にダウン2回を奪うフルマークの大差判定勝ちを収めて一躍脚光を浴びると、翌03年5月には“日本人キラー”として名を馳せたOPBF王者ジェス・マーカの8度目の防衛を挫いて王座を奪取。この王座を04年5月までに3度防衛した後、同年10月には鳥海純とのWBAWBCランキング争奪戦にも勝利して世界バンタム級タイトルの上位コンテンダーに浮上。そして05年4月、難攻不落の絶対王者ウィラポン・ナコンルアンプロモーションに少差判定勝ちを収め(→http://d.hatena.ne.jp/komagi/20050416#p1)、見事に念願の世界王座に就いた。
一方、指名挑戦者・モラレスの負傷リタイヤのために急遽チャンスが舞い込んで来たマルチネスは、ここまで27勝(20KO)5敗2分の戦績。詳細なキャリアは9/24付記事(http://d.hatena.ne.jp/komagi/20050924)を参照のこと。
1R。長谷川がタテの動き軽快に、マルチネスの強打をステップワークでかわしながら、左ストレートを起点にした左→右の連打、やや強引だがコンパクトな右フックを次々にヒット。マルチネスは頼みの右強打が全く当たらず。試合開始早々から完全なチャンピオンのペース。
2R。長谷川はこのラウンドも好調。右ジャブで自分の距離をキープしてマルチネスの攻め気を逸らすと、左ストレート・右フックをタイミング良く放ってヒットの山を築く。ラウンド中盤と終了間際の2度、長谷川の強打でフラッシュ気味のダウンと思われるシーンがあったが、いずれもスリップの判定。
3R。依然として完全に長谷川のペース。右クロスカウンターをテンプルに叩き込んで今度は明確なダウンを奪うと、その後も左ストレートを上下に再三浴びせて有効打を奪う。マルチネスも懸命に右を振るうが、ことごとく見切られて空を切るばかり。
4R。このラウンドも長谷川の圧倒的優勢。長谷川は左ストレートをボディに2、3発クリーンヒットさせると、右フック、左ストレートを顔面に浴びせてダメ押し。守ってはステップワーク、ブロッキングマルチネスの右を完封してワンサイドゲーム
5R。マルチネスがアグレッシブにジャブを交えつつ攻勢に。長谷川も左ボディ中心に応戦したが、細かい被弾もあって、このラウンドは互角。
6R。またしても長谷川の左ストレートが上下に冴える。マルチネスの右を警戒して単発気味の攻撃ながら、手数・ヒット数・主導権といずれも長谷川が圧倒。
7R。ラウンド開始早々、長谷川は超高速の左ストレートで、このラウンド1度目のノックダウン。その後も長谷川が圧倒的優勢のまま試合は進行し、ストレートでクリーンヒット2発を追加してマルチネスをコーナーに追い込むと、強引な連打で引き摺り倒して2度目のダウン。ここで追い詰められたマルチネスが決死の覚悟で猛烈なラッシュに出たが、長谷川はこのハイリスクな打撃戦に応じる構え。左のクリーンヒットを浴びて一瞬ヒヤリとさせるが、ショートフックの猛連打で逆に圧倒し、最後は右フックから左フックの連打をクリーンヒットさせると、マルチネスは遅れて来た右フック被弾の痛みに耐えかねてキャンバスに崩れ落ちた。WBCルールはフリーノックダウン制だが、さすがにこれはレフェリーが止めて、TKO裁定となった。
これが初防衛戦とは思えぬ威風堂々たる戦い振りで、長谷川が初防衛をTKOで飾った。マルチネスの右を警戒する事に優先順位を先に置いたためか、やや攻撃が単発気味になってはいたものの、天性の当て勘とタイミングが冴えに冴えてダウンの山を築いた。
以前から長谷川の試合を観ている人なら判るだろうが、今日のファイトスタイルはOPBF王者時代の総集編的なものだった。7R1回目のダウンはマーカに尻餅を着かせたキラーショットに酷似していたし、その後に畳み掛けた怒涛の攻めは2度目の防衛戦、相手の被弾を許さぬ磐石のディフェンシブ・ファイトは3度目の防衛戦で見せたムーヴを髣髴とさせた。他地区の方も、どうして西日本のファンが長谷川を推していたかをご理解頂けたと思う。
確かにウィラポン戦のような凄みのあるファイトに比べると物足りなさを感じてしまうのだが、良い意味でも悪い意味でも相手に合わせてしまうのが長谷川の特徴であり、今日は己の全てを出すまでもなく、並クラスの世界ランカーを一蹴した…と解釈するのが妥当ではないだろうか。
一方、敗れたマルチネスは調整不足を敗因に挙げつつも、「これだけ倒されたのは初めてだ」と諦念にまみれたコメントを残し、横浜から去って行った。先述したように、かつて西岡を苦しめた彼も、今日はせいぜい並クラスの世界ランカー級のパフォーマンス。ダメで元々のチャンスを順当にダメなまま終わらせたというのが妥当な総括となるだろう。