駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第6試合・WBC世界スーパー・フライ級タイトルマッチ12回戦/○《王者》徳山昌守[金沢](判定3−0)ホセ・ナバーロ[米国]《同級1位》●

ここまでほぼフルラウンドの試合ばかりということで、休憩も無くメインイベントに突入。予備カードは結局実施されずに興行は終わってしまった。デビュー戦を流された当事者2人はちょっと可哀想。
さて、タイトルマッチの主役を務める2人を紹介しよう。まず王者・徳山昌守は、31勝(8KO)3敗1分の戦績。言わずと知れた元はこの王座を8度防衛した名チャンピオンだ。04年、川嶋勝重[大橋]に敗れて一旦王座から陥落するも、05年7月、復帰戦となるラバーマッチhttp://d.hatena.ne.jp/komagi/20050718#p7)を、ほぼ完璧な試合運びで完勝し復位を果たした。10数キロとも言われる過酷な減量から、この階級は今回がラストマッチとなる模様だが、トップコンテンダーを相手に有終の美を飾れるや否や。
対するホセ・ナバーロは23勝(11KO)1敗の戦績。ボクシングエリート一家に生まれ、幼い頃からアマチュアで活躍。プロ転向後も無敗街道を突き進み、WBC米大陸などの主要地域タイトルや、人気・有名選手が巻く事も多い、マイナー団体IBAの世界タイトルも奪取した。05年1月にはトップコンテンダーとして時の王者・川嶋勝重と指名試合を戦うが、微妙なスプリットデジションに惜敗し、初の敗北を喫した。その後、5月、9月と二線・三線級の選手を相手に調整戦を戦い、2つのKO勝ちをスコアして今回の戦いに挑む。
1R。徳山、ナバーロ両者共にジャブを起点としてストレートやフック気味の強打を打ち合う。巧者同士ゆえ、明確なヒットは殆ど見られないが、共にストレートを1発ヒットさせた。終盤、徳山が手数を増し、ジェネラルシップをアピールするも、ほぼ互角のラウンド。
2R。両者抜群のディフェンスセンスが冴える。ヘッドスリップ、ダッキングで互いの高速ジャブをスカし合うという凄い展開。互いに不完全な形でワン・ツーを当てあって、完全に互角の勝負。
3R。ナバーロが軽い左ボディがヒットさせて僅かに先行も、徳山は右ストレートを2発ヒットしてすぐさま挽回。しかし終盤、ナバーロの左が2〜3発軽くヒットし、これがどう評価されたかで微妙。
4R。徳山、中間距離から右ストレートを軽くだが再三ヒットさせて主導権。ナバーロは右ジャブ、左ボディで抵抗するが、徳山も不完全ながら左フックを2発ヒットさせて少差リードをキープ。
5R。自分の距離を掴んだ徳山、右ストレートを軽く当てつつ、巧みなステップワークでナバーロに的を絞らせない。ラウンド終盤には更に右のヒットを追加してダメ押し。
6R。ナバーロは圧力かけつつ手数振るうも、徳山は距離を潰してこれを不発に終わらせる。そしてすれ違い様に左フック、右ストレートを軽く合わせて主導権をアピールする。
7R。左ジャブ、右ストレートを当ててはクリンチとステップワークで相手を翻弄するという、徳山の真骨頂とも言える戦い振りが映える。しかしスタミナ切れもあるのか、細かくナバーロのパンチも掠めるようになり、徳山は目尻から出血。
8R。このラウンド、ナバーロは絶えず圧力をかけて徳山から主導権を奪い獲る。明確なヒットは殆ど無いが、徳山の攻撃も封じ、このラウンドは手数とジェネラルシップでナバーロが上回ったか。
9R。ラウンド中盤までは徳山が得意のパターンで右ストレートを数発ヒットも、それから動きが落ちた所に攻め込まれ、ゴング直前に2発被弾して微妙に。
10R。ナバーロがやや距離を詰めていってアグレッシブに攻撃。ガードの上から手数を浴びせて攻勢アピール。徳山必死のクリンチワークも、このラウンドは圧され気味。
11R。ナバーロが徳山をロープに詰めて手数攻め。徳山もラウンド前半はダッキングとカウンターで応戦して互角以上も、後半にはガス欠で防戦に追い込まれてジャッジの心証を損ねた。
12R。修羅場になって徳山が復調。クリンチワークを駆使しつつ、右ストレートで有効打を積み重ねる。対するナバーロも必死に手数を振るうが、こちらは明確なヒットが無かった。
ヨーロッパ人ジャッジ3人による公式判定は、117-113、116-113、116-113の3−0で徳山を支持。やや徳山に厳しくつけた駒木の採点も116-114で徳山優勢で、これは明確な判定勝利と言って良さそうだ。
試合直後のインタビューで、「実は2週間前にバイク事故に遭って打撲を負い、全く練習が出来なかった」という爆弾発言を言い放った徳山、減量にも相当苦しんだようでサウナまで使っての体重調整を強いられたようだ。決して万全の体調とは言えず、事実8R以降は劣勢となる場面も増えたが、苦しい時も苦しいなりに戦えるよう磨き上げた超高度のインサイドワークが彼を救った。特に最終ラウンドの反転攻勢は、王者が王者たる所以を明確な形で見せ付けられたシーンだった。結果的にこのラウンドの採点は勝敗に結びつかなかったが、世界王者になる選手というのは、ああいう一番苦しいはずのラウンドでポイントを奪えるものなのだろう。
敗れたナバーロは、スコアの上では少差であったが、12R全体の優劣からするともう少し差が開いてもおかしくない内容で、彼自身も試合後に潔く敗北を認めた。「自分よりも巧いボクサーが居る」という事実を思い知らされ、価値観が大きく揺らいだ一夜になったことだろう。それでもショックをおくびにも出さず、即座に王座再挑戦を表明した。この敗戦を経て一皮剥けたエリートの成長に期待したい。
ところで、注目された徳山の進退だが、試合直後には王座返上と引退を示唆したものの、ジムの会長や父親の説得を受けて結論をしばらく保留する事になった。WBC王座も、WBAとの王座統一戦を検討する為にキープするようだ。しかし、小島英次田中聖二を失ったジムのお家事情も理解出来るが、ここまで2戦、「これを勝てば悔いなく引退できる」という気持ちをモチベーションにしなければ戦えなかった徳山を更に戦わせるのは、傍から見ていると残酷な仕打ちにすら思える。最後は本人の決断次第だが、心身を休めた末に彼が下す結論が「引退」なのだとしたら、最大限尊重されるべきである。たとえそれが日本ボクシング界にとって非常に憂慮すべき才能の消滅だとしても。