駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第7試合・Sバンタム級10回戦/●中野圭介[明石](判定1−2)熟山竜一[JM加古川]○

メインイベントは、明石ジムの新エース候補・中野圭介が、“悲運の闘将”熟山竜一に挑戦する形の日本ランキング争奪戦。しかし熟山陣営の、敢えて自分たちの得にならない好カードをマッチメイクし続ける姿勢には頭が下がる思いだ。自分の息子3人に食わせてもらってる今や全国的知名人になったあの親父に爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。
中野は8勝(4KO)1敗2分の戦績。03年度Sフライ級の西日本新人王で、唯一の敗戦は敵地で臨んだ中日本代表との地区対抗戦で判定負けしたもの。A級に昇進してここまで2戦2勝、中でも04年度Sフライ級全日本新人王の堀田英也[塚原京都]に完勝した7月の試合が出色。トリッキーなアウトボクシングに加え、動きを止めての高速コンビネーションが持ち味。
対する熟山は19勝(8KO)7敗3分の戦績。2月に日本ランクに復帰したばかりである(バンタム級9位)。これまでの日本・OPBFタイトルに挑戦すること5度、3度の判定負けと2度の引き分けに泣かされて来た無冠の強豪だ。父親でもある所属ジム会長から過酷なマッチメイクを課せられ続ける事でも知られており、02年にはあの長谷川穂積[千里馬神戸]の出世階段の第一歩となる踏み台役を演じさせられてもいる。04年にはA級ボクサー賞金トーナメントに出場し、1回戦と決勝の間にもう1試合挟んだ上で優勝するという、昭和40年代を思わせる“偉業”も成し遂げている。そして今回も、勢いに乗る新進A級選手を相手に、わざわざ敵地へ乗り込んで挑戦を受けるという奇特な真似をしてくれた。いつか良い目に逢って貰いたいと多くのファンに思わせる、西日本では稀有な存在の選手である。
1R。中間距離で様子を窺いあう静かな立ち上がり。中野が動きの大きいウィービングで熟山のジャブをかわしつつ、ガードの上ながら手数を出していく。熟山はボディブローで1発ヒットを奪うが、空砲が多く手数負けの格好。ジャッジ的にはかなり微妙なラウンド。
2R。熟山は中野のトリッキーな攻撃を確実にガードしつつ、時折ボディブローを見舞う。顔面へも右ストレートでヒットを奪った。やや手数が少ないが、ジェネラルシップも手にして少差リードか。
3R。中野の変則的な動きに、熟山はタイミングを合わせ難そうにしている。時折プッシング気味ながら連打で中野を吹っ飛ばし、攻勢をアピールはするが、明確なヒットに乏しい。一方の中野はガードの上へながら手数を集めたが、これを採点の中でどう評価するかは極めて微妙な所。
4R。熟山は慎重過ぎと言っても良いほどの戦い振りで、文字通りの静かな戦い。中野はトリッキーなファイトスタイルを見せ、手数を稼いでゆく。しかし終了ゴング間際、熟山がストレートの打ち合いで有効打を放ち、攻勢をアピールする。
5R。熟山、やや手数を増やしてワン・ツー、ボディフックなどで不完全ながらヒットを奪ってゆく。中野はラウンド後半に、熟山をコーナーに詰めて速射砲を放つシーンもあったが、熟山がそれに対してすぐさま反撃するなど、明確に優勢を築くシーンが作れない。
6R。熟山、アグレッシブに左ジャブ、ボディフックを放って手数勝ち。中野はコーナーに詰めて連打を放つチャンスを作りたいが、熟山のガードとステップワークは確実で堅固。右アッパーで1発有効打を決めたのが精一杯。
7R。熟山の手堅いファイトが主導権をキープ。ステップ踏みながら放つジャブ、ボディフックを中心に、中野の攻めッ気を削ぐような連打も打って鮮やかなポイントアウト。中野は打開策が欲しいが……。
8R。熟山は中野の動きを見切ってしまったか、ジャブと細かい連打で手数を稼ぎ、左ボディでヒット数を確保する。中野は手数劣勢の上、ガードでヒットもままならず苦戦。
9R。熟山、KO狙いか形勢判断のミスか、突然打撃戦を挑むも、これは中野のペース。手数とボディへのヒットで先行する熟山に対し、中野はようやく持ち味の腰を据えての連打を決めて有効打を相次いで奪う。
10R。中野が積極的に打って出る。左のダブルを上下に決めるコンビネーションを度々決めてリズムを掴むと、連打で有効打、クリーンヒットを連発。熟山も必死に抵抗するがこのラウンドばかりは劣勢で、効かされて思わず後退するシーンもあった。形勢がすっかり逆転した状態で試合終了のゴング。
公式判定は、野田95-94、上中96-94(以上熟山支持)、原田96-94(中野支持)の2−1。駒木の採点は97-93で熟山優勢。前半はいずれも少差のラウンド、中野のアグレッシブか熟山のディフェンスとジェネラルシップかで判断が割れるところだったが、最終的には地力上位の熟山の勝利に収まって妥当な決着と言えるだろう。
ちなみに退場の際に記者席上に置いてあったペーパーを垣間見ると、野田ジャッジの採点は最終ラウンドに中野10-熟山8をつけていた様子。確かに熟山劣勢のラウンドであったが、果たして10-8をつけるに値するものであったかは極めて微妙と言わざるを得ない。さて、これは勝敗決した上での地元サービスだったのか、それとも……?
さて、試合全体を俯瞰すれば、熟山がキャリア相応の技術・体力を見せ付けて「流石はベテラン日本ランカー」という内容を見せてくれた。9、10Rを除いては中野の持ち味を殺す作戦を選択したため、見た目にはパッとしない印象を抱かせてしまったかも知れないが、安定度抜群の試合内容は厳しいマッチメイクの中を潜り抜けてきた男こそのいぶし銀であった。しかし、この選手をフルマークで圧倒した長谷川穂積というのはどれほど凄い人なのか。
一方、惜しくも日本ランク奪取ならなかった中野だが、ツボにハマった時の瞬発力は日本ランカーと互角以上という事を証明できたという点で、一定の収穫は得られた試合になった。今後の課題は、その自分のツボにハメるだけのインサイドワークを洗練させていくことになるだろう。