駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第6試合・ライト級契約ウェイト(132パウンド)6回戦/○エドウィン・バレロ[帝拳・ベネズエラ](2R1分48秒TKO)ヘナロ・トラサンコス[墨国]●

セミ前に登場は、今やWBAスーパーフェザー級王座次期挑戦者となった、ベネズエラの野生児・エドウィン・バレロ。いくら千里馬神戸主催の神戸興行でも、格的・話題的に考えるとこの試合がセミファイナルになるべきだと思うのだが……。
この試合に1RKO勝利を挙げれば連続1RKO勝利数の世界新記録となるバレロは、ここまで18勝(18KO)無敗の戦績で、なおかつ現在WBAのSフェザー級4位、WBCでも同級9位の世界ランカーでもある。デビュー以来全ての試合を1RKO勝利で片付けて来たという上に“超ド級”の付くハードパンチャーで、しかも先の18戦目はWBAの南米王座と次期世界挑戦権まで懸った試合だったというから凄い。タイ国の全面バックアップによって名目上の記録を作り上げていく日本の自称KOキングとは訳が違う。
この人間凶器の19人目の犠牲者として指名されたトラサンコスは21勝(12KO)7敗1分の戦績。最近は衰えが目立つが、元WBC米大陸王座と南米王座の獲得経歴を持ったベテラン選手であり、記録狙い要員としてはかなり骨のある相手と言えるだろう。
1R。バレロは今日もノーガードのフックをぶん回してゆく。根本的に近代ボクシングの在り方を無視したような豪快なファイトスタイルだが、荒々しさの中に抜群の当てカンが宿った強打が次々とトラサンコスの顔面とボディを跳ね飛ばす。トラサンコスは必死にクリンチで逃れようとするが、ロープ際で左右のフック、そして強烈な左ストレートをクリーンヒットされてダウン寸前の場面も。しかし老獪なベテランは大差劣勢に立たされながらも決して倒れず、しかも苦しくなった残り20秒をスリップダウンとそこからの戦線復帰で浪費する幸運も重なって、遂にバレロに初めてラウンド終了のゴングを聞かせた男となった。
2R。バレロは流石に意気消沈したか、それとも記録が無くなって気負いが無くなったのか、やや迫力が薄れた感じ。左ストレートをボディに、右フックを顔面にと攻め立てるも、これはパワーで無理矢理に効かせようという強引な攻撃。それでも1発1発のパンチはやはり強烈で、何発目かの左ボディを喰らったトラサンコスはヨロヨロと後退して膝を突くダウン。彼にしてみればダウン1回と引き換えに10秒余の休憩を摂りたかったのだと思うが、ここで日本ボクシング界の誇る和製ボブ=デービットソン*1は、必要以上に沈着冷静で、しかも小さなアクションでTKOを宣告してしまう。戦う両選手も、満員に埋まりつつあった会場もポカーンとして唖然とする中、乾いた試合終了のゴングの音が響きわたった。恐らく、バレロのKOシーンでこれほどまでに会場が静まり返ったのは初めての事だろう。「試合を止めるにしても、もうちょっとやり方ってもんがあるだろう」と、会場にいた観客の誰しもが思った間抜けな結末であった。どうせやるなら1Rのスリップダウンをダウンにして10カウント数えたら良かったのだ。それくらいの事、貴方は年柄年中やってるではないか。
さて、記録はストップされるわ、会場をドン引きにされるわで踏んだり蹴ったりのバレロだが、デビュー以来の連続KO記録は続行で19となった。救いなのは当の本人は1RKO記録に全くこだわりが無い所で、これで漸く本格的に世界王座獲得に専念できるぞ、といったところなのかもしれない。

*1:勿論、我らがアタック原田レフェリーの事