駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第9試合・Sウェルター級10回戦/○野中悠樹[尼崎](判定3−0)タノンサク・パランタイ[タイ国]●

メインは、昨年待望の日本ランキング奪取が成った野中の、タイ人を相手にした10回戦の調整戦。
現在日本Sウェルター級5位の野中は11勝(5KO)5敗2分。昨年は日本ランカー・松元慎介[進光]との引き分けを含む2勝1分負けなしと、順風の競技生活だったが、今年はタイトル挑戦も視野に定めてより一層の飛躍が求められる。
この日の相手タノンサクはタイ国ウェルター級2位の肩書きを持つ選手で、当日発表の戦績は9勝(4KO)11敗1分。過去6回の来日では5敗1分と、“お仕事優先”の姿勢が見え隠れする。
1R。やはりというか“噛ませモード”のタノンサクに、野中は手数少ないながらも圧力をかけ、時折重たいワン・ツーやボディフックを放って点数を稼ぐ。
2R。まったく消極的なタノンサクだが、野中はこの専守防衛振りに手を焼く。ガードの上へワン・ツーを浴びせるものの、逆にタノンサクが申し訳程度に放つカウンターを再三喰うなどし、このラウンドは微妙な情勢に。
3R。このラウンドも野中は完全に攻めあぐむ感じで、タノンサクに易々と捌かれてしまう。実際の地力は五分かタノンサクが少し優勢であるような印象。攻められない野中と攻めないタノンサクの2人によって延々とダルファイトが展開される。なお、このラウンドには宮崎レフェリーがタノンサクにホールディングの減点1を宣告して野中をサポートした。確かにタノンサクのホールドは随分しつこい印象はあったが、実際にホールディングの反則が酷くなったのは減点が宣告されてから後のラウンドだった。まったくもって「レフェリング姿勢に一貫性が感じられない。
4R。タノンサクの放つジャブを、不甲斐無くも野中は次々と貰ってしまう。ラウンド中盤からは野中もストレートで2〜3発反撃するも、今度はタノンサクのクリンチワークに凌がれた。完全な大凡戦。
5R。野中はフェイントをかけての攻撃を試みるもヒットに繋がる回数は少なく、右フックをショートで当てた程度。タノンサクは消極的な中でジャブを当てるが迫力のある攻めが見られるはずもなく、極めて冗長なラウンド。
6R。タノンサクはややアグレッシブに右ジャブを放ち、いくつかヒットを奪ってはクリンチに逃れる姑息な攻撃を見せる。まるで不調時の徳山昌守の試合を見ているよう。野中も数的にはほぼ同数のヒットを返して入るが、KO勝ちがノルマである試合としては全くお話にならない内容。
7R。野中は口を開けっ放しで随分と苦しそう。ラウンド前半こそタノンサクの“大人の事情”につけ込んで手数先行も、後半にはカウンターやジャブ、ワン・ツーを軽くだが貰ってヒット数では劣勢に。
8R。野中、左ボディストレートで先制も、やはり攻めあぐんでは逆襲を喰う展開の繰り返し。ラウンド終盤に右ボディフックを1発お返しして情勢を互角以上に持っていくが……
9R。すっかり手数失くしたタノンサクに、野中はボディ中心の攻撃を仕掛けるが、こちらも手数が伸びない。タノンサクのクリンチワークに翻弄され、見事な外掛けでテイクダウンを奪われるシーンも。ボクシングの体裁すら留めない酷い試合になって来た。
10R。最後まで完全なダルファイト。クリーンなボクシングで倒そうとした野中だが、遂に最終ラウンドまで空転し続けた。タノンサクが守備を固めながら放つ軽い右をこのラウンドも喰い続けて、客にとっては拷問としか言いようのない、実にみっともない10ラウンズが漸く終わった。
公式判定は100-90、100-89、100-89のフルマークで野中だが、これは地元判定というか、もう惰性で採点している感じ。ジャッジ諸氏の勤労意欲をも奪うとは恐るべし。駒木の採点は96-93で野中。
野中は日本ランカーらしく格の差を見せ付けつつクリーンなボクシングでタイ人ランカーを倒そうと最後まで足掻いたものの、結果的にこれは(少なくとも当日のコンディションでは)身の程知らずの愚行であったと断ぜざるを得ない。これでは東洋太平洋&日本統一王者・クレイジー・キム[ヨネクラ]の挑戦など夢のまた夢である。「この日は判定負けをした」ぐらいの認識を持って、次戦での捲土重来を期して欲しい。