駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第6試合・Sライト級8回戦/○磯道鉄平[ウォズ](判定3−0)ダルシム・ナンガラ[インドネシア]●

セミファイナルは、04年度Sライト級全日本新人王・磯道の引退試合
その磯道は、10勝(7KO)無敗のパーフェクトレコード。グリーンボーイ時代、相手の動きを早々に見切ってアンタッチャブル状態で相手を嬲り殺しにする様は戦慄を覚えたものだった。直前の試合は昨年7/29の高山剛志[ハラダ]戦で、この時は自身の絶不調と相手の好調という中で苦戦を強いられ、非常に際どいマジョリティデジションを拾った不本意な試合だった。ただ、高山はその試合をきっかけに素質を開花させつつあり、決して無意味な苦戦ではなかったと付記せねばならないだろう。
対するダルシムインドネシアSライト級2位。戦績は13勝(8KO)4敗1分と発表されたが、かなり眉唾物ではある。ちなみにこの日が初来日。


公式判定は上中、藤田、大黒の3ジャッジがいずれも80-71のフルマークで磯道を支持。なお、ダルシムは8Rにヘディングによって妥当性とタイミングの両面において疑問の残る減点1。原田レフェリーがやった事なので今更全く驚かないが、餞別にしては随分と大きなお世話であった。ちなみに駒木の採点は「西」79-72、「東」80-72で磯道。
磯道が最後まで自分のファイトスタイルを貫徹し、フルマークで有終の美。噛ませ役らしくない戦意の高いインドネシア人の激しい攻勢を、抜群の距離感と手堅いガードで闘牛士のように捌ききり、攻めてはジャブを起点にして左ストレート、右フック、左右のボディブローと繋げる自在のコンビネーションでヒット数を山と積み上げた。まだ先のある選手なら、中盤以降に淡々とダルファイト気味のラウンドを重ねた事に反省を促すところだが、万一にも“まさか”が許されない引退試合とあってはこれも是非も無しか。
そして磯道はこの勝利で生涯成績を11戦11勝(7KO)無敗として、試合直後のセレモニーでテンカウントゴングを聞いた。特に故障も無いのに無敗のまま有力若手選手が引退するのは極めて異例の事だろう。関係者筋によると、彼は昨年の転職後、生業のためにジムのある京都へはほとんど滞在できない日々が続いており、これもこのタイミングでの引退を決めた大きな理由となっているようだ。また、思い返せば、彼は新人王戦を勝ち抜いている頃から「才能と体力の限界を感じているので引退したい」と度々口にしたり、新人王戦以後も磯道本人が自覚する“身の程”を超えたレベルの強豪とは拳を交えようとしなかったりと、異常なまでの上昇意欲の薄さを漂わせた選手ではあった。そんな人物がゆえに、こういうグローブの吊るし方も納得は出来ないが理解は出来るというものだ。
主な勲章は全日本新人王と日本ランキング8位だけだったが、あらゆる意味で無傷のまま引退できるというのは、プロボクサーにとってはそうそう実現できない理想的な引き際でもある。こうなった以上は万が一にもカムバックなど考えず、今度は生業の方でチャンピオンになってもらいたい。彼の前途に幸福あれ。