駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第1試合・スーパーバンタム級契約ウェイト(54kg)4回戦/○上村徹[神拳阪神](判定3−0)村上裕[正拳]●

上村はこの日がデビュー戦。そして村上は9戦して未勝利、引き分けも無しの9敗という戦績。デビュー当初は脱臼癖に悩まされ、試合中に両肩が抜けたというエピソードからついた渾名は“ロケットパンチ”。手術をしてまでこの体質を克服したが、勝ち運に恵まれず、この日はとうとう進退を賭けた試合という事になってしまった。
1R。試合開始早々アグレッシブに攻勢を仕掛ける村上だが、手と足のスピードが明らかに不足している。必死に右ストレートを当てて行くが大振りが目立ち、守備面でもブロッキングが緩慢。ここまで長い年月を鍛錬に費やしてなおこのパフォーマンスというあたり、“才能のスポーツ”ボクシングの残酷さが滲み出る。上村も技術・ハンドスピード共に平凡ながら、敵失の恩恵もあって右アッパー、ストレートを次々とヒット、有効打して優勢。
2R。村上は必死に追い足を使い、右をオーバーハンド気味に振るう乱暴な強打を放つと、攻める方に気持ちが向かい過ぎる上村は次々とこれを被弾。上村は右ストレート中心で反撃するがヒット数で劣勢となった。
3R。上村が圧力かけてワン・ツー気味の左右連打でヒット数先行も、ラウンド後半には完全にバテバテ。ここで反撃に移りたい村上だが、こちらは守る方に気持ちが行過ぎて、律儀にガードを固めるばかりで守勢に立たされる。右オーバーハンドで有効打を奪うが、形勢挽回には至らず。
4R。両者スタミナ切れで、右→左→右→左と技術の感じられない乱暴な連打を振り回すのみ。“心技体”のうち、“心”は感じさせるが、残りの2つはプロの水準に至らない残念な試合振り。後半、村上は“金沢×オリバレス状態”の超豪快なアッパーを振るって客席を沸かせるが、これも文字通りの空転となって、間もなくして彼の現役生活の終わりを告げるゴングが鳴らされた。
公式判定は上中40-36、宮崎39-37、大黒39-37の3−0で上村。駒木の採点は「西」38-38イーブン「東」39-38上村優勢。
この試合をもって引退する選手もいる試合の総評としては辛らつに過ぎるかも知れないが、有り体に言って内容面では4回戦レベルでも最低水準の低調な一戦。そんな中で、上村が僅かなフィジカル能力の差と相手の空回りに助けられてポイントアウトを果たしたが、スタミナや攻守の技術全般には課題山積。特に神拳阪神勢らしいガードの甘さは今後も弱点となるだろう。
そして村上は10戦して10敗というレコードを残して現役生活を終えた。プロボクサーとしての絶対的な能力不足は観戦記本文の通りだが、それでも彼よりも能力面で見劣る選手が居ないわけでは決してなく、この不名誉な戦績は、先述の脱臼癖やマッチメイクの巡り合わせを含め、相当な不運の積み重ねの結果と言うべきだろう。これだけ黒星を重ねても決して腐らず、試合を重ねるごとにその佇まいがプロアスリートらしく逞しくなっていく様子が大変好ましい選手だった。引退後の人生に幸有らん事を心より祈る。