駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第5試合・日本バンタム級王座決定戦10回戦/○《WBCバンタム級6位》池原信遂[大阪帝拳](判定3−0)鳥海純[ワタナベ]《日本同級3位》●

メインイベントは日本バンタム級王座決定戦。元フライ級世界王者をKOして世界ランカーの仲間入りを果たした池原と、元OPBF王者の鳥海による東西対決だ。
池原は24勝(18KO)1敗の戦績。かつては無敗でSバンタム級の日本1位まで登りつめたが、当時ノーランカーの玉越強平[千里馬神戸]に敗れて挫折を味わい、その後は随分と長い間雌伏を強いられていた。しかし今年1月、元WBCフライ級王者のメッグン・シンスラットを倒してバンタム級で世界ランク入りし、“日本人最上位ランキング保持者”としてこの試合の出場権を獲得した。なお、現在はWBAでも7位の世界ランクを保持している。
対する鳥海は24勝(10KO)5敗1分の戦績。アマチュアで59戦の質量共に豊富なキャリアを積んだ後、プロへ転向。98年に1度日本Sバンタム級王座に挑戦・失敗した後は、世界ランクを獲得しながらもタイトル戦線からは距離を置き、04年秋の世界挑戦権を賭けた長谷川穂積[千里馬神戸]との一戦にも敗れて、長らく“無冠の強豪”の地位に甘んじていた。05年2月に長谷川が返上して空位となったOPBFバンタム級王座を獲得して漸く無冠を返上するも、初防衛戦で不覚の判定負けを喫して失冠。世界ランクもWBC17位に後退して、現在は日本ランクにも3位で掲載されている。言うまでも無く、このタイトルマッチは再浮上を懸けた大事な一戦となるだろう。
1R。中間距離でのジャブの差し合いで幕を開けた戦いは、ほぼ互角の形勢からラウンド後半に鳥海が左右のフック、アッパー中心の細かい連打で手数・ヒット数ともにややリード。池原もキレのあるジャブで反撃するも、やや単発気味で迫力不足。
2R。池原は圧力を増して鳥海をロープに詰めて連打、連打。技巧上位の鳥海はこれらの攻撃をほぼ封殺するが、全て避けきるには至らず細かく右ストレートを被弾。だがラウンド終盤には鳥海も池原をロープに詰めて右ボディで攻め立て、更に打ち合いを右カウンターで制して追い上げる。
3R。接近しての打撃戦。池原が回転力にモノを言わせて左アッパー→右ストレートのコンビネーションで有効打を奪うと、鳥海もボディから左ストレートで反撃。一時情勢は混沌としたが、ラウンド終盤に池原が手数攻めで少差リードを確保したか。
4R。ラウンド序盤、池原が右ストレートを3発ヒットさせてリード奪うが、鳥海は渋太く左を細かく当てていって肉薄。ただジェネラルシップは圧力で勝る池原にアドバンテージか。
5R。鳥海は池原の手数を捌きつつ、左をカウンター気味に浴びせて先行。だが終盤には池原が細かい連打で打ち合いを制し、ヒット数で少差逆転まで持って行く。
6R。鳥海は密着しながらインサイドワークを駆使して左のショートやボディブローを狙うが、池原の速い連打と威力ある右ストレートに対応できない。打ち合いでは一方的に圧されて、なし崩しに劣勢に陥った。
7R。鳥海はこのラウンドもボディと左ストレートでの連打狙い。だが身体能力で勝る池原はプレッシャーをかけてアッパーから右ストレートで有効打、クリーンヒットを量産する。後退を強いられる鳥海も右カウンターから連打で抵抗し、ギリギリのところで踏みとどまる。
8R。やや近めの中間距離での打撃戦。池原のアッパー、ワン・ツーが有効に働くが、技術で勝る鳥海もジャブからワン・ツー、ボディなどで対抗し、このラウンドは互角かそれ以上に戦った。
9R。このラウンドも打撃戦に終始。池原の圧力、パワーの優位が目立ち、左アッパー、右ストレートが次々と有効打になる。鳥海も連打を絶やさず必死に踏みとどまるが、迫力で及ばない。
10R。打撃戦はやや膠着気味に。どちらかが打ち合いを仕掛ける度に池原の優勢が顕著となり、鳥海がクリンチに逃れるシーンが目立つ。池原はラウンド後半に右フックなどで追い撃ちをかけて優勢をガッチリとキープした。
公式判定は原田[西日本]97-93、浦谷[東日本]97-94、登本[中日本]96-94の3−0で池原。駒木の採点は「西」99-91「東」99-93で池原優勢。巷の観戦記を散見すると97-93池原という意見が多く、他地区の2ジャッジは中立性と身内贔屓の狭間で迷った結果、「交通費も負担するから他地区のジャッジを」という鳥海側にやや配慮した採点結果となってしまったようだ。いくら整った制度でも、結局はその運営次第でどうにでもなるという典型例だろう。
鳥海優勢の下馬評を覆し、池原のパワーと回転力が鳥海の技巧を圧倒した。点差以上の完勝と言って良いだろう。メッガン戦とこの試合を観る限りでは、どうも池原はこのバンタム級がベストウェイトであるようだ。1つ上の階級では目立たなかった左アッパーと右ストレートも、パワー溢れる頼もしいキラーショットに映る。世界云々を語るのは、未だ鬼に爆苦笑されるぐらいの遠い話だが、日本王者としては長期政権を築いてもおかしくない地力はありそうだ。
鳥海はインサイドワークで食い下がるも、結局2R以降は一度も確固たる優勢を築けずに完敗。コンディション的に言っても、今日は「長谷川を苦しめた男」というよりも「クマントーンに足下を掬われた男」の方に近かったかも知れない。もう32歳と年齢的に先も短く、今後は後退の許されない厳しい道が待っている。