駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第1部第7試合・バンタム級10回戦/○本田秀伸[Gツダ](判定3−0)ウォー・バルティキル[比国]●

メインイベントは“ディフェンス・マスター”との異名で名を馳せた本田秀伸の再起戦。
戦績26勝(14KO)4敗の本田は94年デビュー。96年末には日本Lフライ級王座を獲得し、以後ノンタイトル戦を挟みながら6度の防衛に成功。王座返上後は階級を上げてポンサクレック・ウォンジョンカムWBC世界フライ級、そしてアレクサンドル・ムニョスの持つWBA世界Sフライ級タイトルに挑戦したが、これらのチャレンジは共に判定負けに散る。
そして3度目の世界挑戦を期して再起を図るが、この時の相手が当時4戦4勝(3KO)無敗の戦績でノーランカーだった名城信男[六島]だった。今や伝説と化したこの試合で、本田はファイティング原田ばりの名城の猛攻に晒されて判定負け。この敗戦で世界再挑戦の目処を見失った本田は引退を余儀無くされ、一度はテンカウント・ゴングまで聞いている。だが、現役への未練を捨てられなかった本田は06年になって復帰を決意。夏にウィラポン・ナコンルアンプロモーションを相手に敵地で再起の予定だったが、この話も頓挫し、今回漸く復帰が叶うところとなった。
この本田の相手を務めるのは比国バンタム級6位のバルティキル。boxrec掲載分では3勝13敗のレコードとなっているが、この日のアナウンスでは13勝(3ko)13敗とのこと。フィリピンは比較的成績管理がしっかりしているので、恐らくは海外の記録マニアでも把握出来ない草試合を10試合ほどこなしているという事なのだろう。
1R。バルティキルは消極的な“噛ませモード”。散発的に強打は放つが、本田の守備は相変わらず手堅い。その本田、やはり専守防衛気味の所があって手数は少ないが、それでもストレートを1〜2発ヒットさせて小差のリードは確保する。
2R。本田はコンディションの仕上がり具合を確かめるように慎重な試合振り。右アッパーや左ストレートでヒット数リードしてゆくが、慎重さが災いしてか、ラウンド後半からはバルティキルのストレート攻勢を浴び、捌ききれずに何発か貰ってしまう。本田の優勢は揺るがないが、“ディフェンス・マスター”らしからぬ姿が見え隠れする。
3R。バルティキルが圧力を増してやや攻勢に出る。本田は迎撃する形で的確なヒットを奪うが、バルティキルも右ストレートを決めて“アグレッシブ”の要素では優位明らか。このラウンドは形勢微妙。
4R。ラウンド前半は淡々とした内容の中、バルティキルが若干有利の形勢。だが後半からは本田も手数を一気に増やし、連打を畳み掛けてヒット数を一気に逆転させる。
5R。本田がややアグレッシブに圧力を掛け、ラウンド序盤でヒット数の“貯金”を作る。だが中盤には平坦な展開の中でバルティキルの攻撃を捌ききれないシーンもあり、やはり本田の実戦勘の鈍磨が浮き彫りとなる。終盤、本田はバルティキルをロープに詰めて手数攻勢に出てポイントアウトは確実とするが、KOを狙うような雰囲気は皆無。
6R。山場の無いラウンド。本田が技巧で主導権を握ってはいるが、決定打に欠ける。また、このラウンドもバルティキルの決して鋭いとは言えないパンチが軽くではあるがヒットする場面が。
7R。本田はラウンド序盤、アグレッシブに出ていってコーナーで連打攻勢。タイ人ならイヤ倒れする場面だが、比国人は力強く抵抗し、戦線はまたも膠着。ラウンド中盤になると、本田は手数が減り、バルティキルのジャブを避けきれず貰ってしまうなど、緊張感の無いダルファイトに転落してしまう。
8R。ラウンド序盤、バルティキルは本田をロープに詰めてジャブ、ストレートを打ち込んで一時優勢に立つが、中盤以降は本田のパンチも細かく当たるようになって微差〜互角の形勢。試合内容は完全にダルファイト。
9R。中間距離で本田がペースを握って攻め込むが、KOを敢えて狙わないポイントアウト狙いの攻撃に終始。ジャブ、ストレート、アッパーでヒット数は稼いだが、実力では遥かに勝っている方がこの戦意の低さはどうした事か。バルティキルはラウンド前半こそ反撃しようとする姿勢があったが、じきに守勢気味となった。
10R。本田が自在に4種のパンチを駆使してヒットの山を築くが、このラウンドもKOを狙おうとする気配が全く窺えない。バルティキルも「非暴力・不服従」といった感じのファイトで、試合を盛り上げようとする気持ちは皆無。観客席からは溜息、携帯カメラのシャッター音、集中力の切れた子供が騒ぐ声。そして試合終了のゴングが鳴った。
公式判定は原田100-91、北村100-92、宮崎99-91で本田。駒木の採点は「A」98-92「B」100-93で本田。
判定は大差になったが、メインイベントに相応しいとは決して言えない大凡戦。後半の数ラウンドは全くの蛇足で、こんな事になるのなら、この試合はセミ前辺りに6回戦で実施するべきだった。かつての実績がどうあれ、現在進行形で自分に自信が持てぬ選手をメインイベントに据えるべきではない。
この日の本田は攻守共に動きも鈍く、戦意の高くない格下相手に圧倒出来ずじまいだった。もし予備知識無しでこの試合を観た人がいたならば、今の彼は“ディフェンスマスター”どころか、平凡なA級ノーランカーの1人にしか見えないだろう。試合後のインタビューでは力強く世界再挑戦をアピールしたが、今日の本田のデキからすればタチの悪い冗談にしか聞こえない。
前回のGツダ興行では、ガチで強い比国人軍団が猛威を振るったが、今日の“負け役”を務めたバルティキルはホンマモンならぬバッタモン。流石に敗退行為は拒否したが、その分だけ観客は凡戦を長時間見せられる羽目になった。まったくもって“とんだ一杯喰わせ者”であった。