駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第8試合・Sフェザー級契約ウェイト(58.0kg)10回戦/○児島芳生[明石](7R2分08秒負傷判定2−1)武本在樹[千里馬神戸]●

メインイベントは、千里馬神戸ジムの次将格の1人、武本在樹の調整戦。本来なら、この試合は日本タイトル挑戦の前哨戦となる予定だった。しかしランキング編成上の兼ね合いで粟生隆寛[帝拳]にチャンピオンカーニバル出場権を奪われ、目標を見失った形での試合出場となってしまった。
まず興行進行上の都合で格下ながら赤コーナーに陣取った児島は7勝(2KO)7敗2分の戦績。今年は3月に所属ジム主催興行で1勝を挙げたが、7月の東京遠征で敗れて勝率を五分に戻してしまった。今回は初の10回戦で、初のランカー挑戦。実績不足が故に降って沸いたようなビッグチャンスだが、タダで噛ませ役を演じるわけにはいかないだろう。
対する武本は、20勝(12KO)5敗1分の戦績で、日本フェザー級1位、OPBFでも同級5位にランクされている。世界ランク登載、日本タイトル挑戦など濃密なキャリアを誇るが、最近はタイ人、フィリピン人相手に煮え切らない試合が続いている。当面の目標が見えて来ない状況でも、悲願のタイトル再挑戦へ向けて健在振りをアピールしておきたいところだが……
1R。武本は最近の彼にしては珍しくアグレッシブに先手、先手で攻めて右ストレート有効打で先制し、更にショートアッパーで追撃する。児島も体を浴びせて手数攻めし細かくヒットを重ねるが、全体的に精度やメリハリに欠ける印象。武本は被弾の際も渋太く相撃ちに持ち込んで失点を最小限に防ぐ。
2R。クロスレンジでの打撃戦。児島が荒っぽく上下へフック連打、ワン・ツーと手数を浴びせるが、武本は一歩も退かずに立ち向かい、右ストレート、左フック、カウンターで有効打を重ねてこちらが優勢。
3R。児島は愚直ながら実にしつこい圧力攻め。終始攻勢を緩めず、武本をロープに詰めては重い連打を打ち込んでゆく。だが武本も左右の重いカウンターをクリーンヒットさせて効かせるなどして抵抗し、形勢はほぼ互角に拮抗。
4R。児島の圧力攻めと強打攻勢が続く。武本も重い右ストレートやフックをカウンターで決めて小さくないダメージを与えてはいるが、過半数の時間をコーナーに詰められて守勢のイメージが強い。ラウンド後半には打ち合いでも児島の健闘を許し、武本にとって厳しい時間帯が続く。
5R。このラウンドは攻守入れ替えつつ、攻め手が守り手をロープに詰めて攻勢を仕掛ける展開が続く。武本は正攻法の打ち合いでは技術差で優勢も、児島が攻め方に回った時の豊富な手数とボディへの集中攻撃が印象的。
6R。児島の圧力と手数に技術を封殺された武本が、とうとう根負けに近い嫌がり方を見せるようになった。武本は右アッパー2発のクリーンヒットを反撃材料とするも、“クリーンヒット”の観点での優勢は小差から互角止まり。逆に“アグレッシブ”では大差劣勢となってジャッジ的には極めて微妙に。
7R。密着距離での乱打戦。武本も手数を放つが、児島が強い圧力と猛烈な手数でこれを圧殺。更にロープへ詰めての連打攻勢で武本の戦意を奪い、明確な優勢を築く。2分過ぎ、武本が5Rにバッティングで負った傷にドクターストップがかかり、ここで試合終了となった。
公式判定は宮崎68-66、大黒67-66(以上、児島支持)原田67-66(武本支持)の際どいスプリットで児島が大殊勲の勝利。駒木の採点は「A」67-66「B」68-67で児島優勢。
今年の西日本ボクシングシーンでは最大の番狂わせ。児島が愚直な圧力攻めと猛烈な手数攻勢で、格上相手の強打と技術を封殺。一躍、日本ランキング入りを確実にした。現状の地力が果たしてランカーに相応しいかどうかは疑問だが、これは今後の努力精進に委ねよう。とにかく今日は彼の健闘を賞賛すべきである。
さて一敗地にまみれた武本だが、それでも試合前半は技術に裏打ちされた強打で要所を押え、採点でも優勢をキープしていた(はず)。しかし後半に入ると、この試合に賭けるモチベーションの差がそのまま戦意の差となって、なし崩し的にポイントを失ってしまった。思わず「何故こんな所で?」とも言いたくなるが、現在の彼を取り巻く環境と、それが彼のメンタル面に及ぼす影響をよく考えてみると、今日は敗れるべくして敗れた試合という気もしてしまう。