駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第10試合・Sフェザー級契約ウェイト(127p)10回戦/○武本在樹[千里馬神戸](6R1分54秒負傷判定3−0)ファン・フェラルド・カブレラ[亜国]●

メインイベントは、武本在樹が世界ランカーに挑むチャレンジマッチ。
武本の戦績は20勝(12KO)6敗1分で、一時はWBAフェザー級15位まで上げたランキングは現在日本8位。今年デビュー10周年を迎え、キャリアはベテランの域に達している。新人王戦は不出場、無敗で臨んだB級トーナメントは、後に日本タイトルマッチでも苦杯を舐めさせられる榎洋之[角海老宝石]に敗れて初戦敗退。A級昇格後もこれからと言う時に連敗を経験するなど、キャリア前半は不運の連続であったが、ノーランカー相手にKO勝ちを積み重ねて技術と自信をつけ、04年にはサオヒン・シリタイコンドーを際どい判定ながら破って世界ランカーに急浮上。翌05年には試合中に眼窩底骨折を負うアクシデントに見舞われて挑戦失敗に終わったが、日本タイトルマッチにも出場した。しかし怪我から復帰した後は凡戦を続けた挙句、前回の試合では児島芳生に敗れてランキングまで放出。今日はこの悪い流れを断ち切るため、一世一代のギャンブルに出た。
対するカブレラは52勝(36KO)13敗1分1無効試合という戦績で、現在は南米フェザー級王者にしてWBA同級4位の上位ランカー。他にアルゼンチン国内王座やWBCインター王座の戴冠経験がある。94年デビューで今年32歳という大ベテランが12年余で積み上げた67戦のキャリアの中にはナジーム・ハメドに挑んだIBF&WBO王座戦(2RTKO負け)や、ファン・マヌエル・マルケスに挑んだNABO北米王座戦(4RTKO負け)など、超A級相手のレコードも存在する。しかし最近は南米王座こそ保持し続けているものの、マイナー世界王座や1階級上の国内王座挑戦に失敗するなど、大試合での敗戦が目立ち始めている。
1R。カブレラは手足のスピードが世界ランカーにしては今一つで、強い圧力と大振りのパワーパンチで攻め立てる馬力型の選手。武本はスピード優位を活かして足を使いつつ素早く立ち回り、右ストレートを2発ヒット。カブレラはラウンド終盤に圧力を強化していくが、明確なヒットを奪えない。
2R。カブレラはアグレッシブに頭から突っ込みながら圧力、手数で攻め立てる。決定打は無いものの、意外と機敏なボディワークで武本の攻撃を捌いて互角以上の形勢をキープする。武本はジャブで突き放したいが、なかなか思うに任せられない。
3R。膠着気味の展開。カブレラが圧力かけるところを武本が迎撃するが、ややパワーに圧され気味。ラウンド終了直前に連打をヒットさせてダメージを与えるが、主導権手放した時間が長すぎて、劣勢挽回も互角まで。
4R。ラウンド序盤、武本はワン・ツーからの右アッパーで先制。だがその後はカブレラの圧力攻めに遭って膠着戦に巻き込まれる。カブレラはパンチの威力物足りなく、武本のフック、アッパーの方がインパクトあり。
5R。膠着気味の展開。武本がジャブ、ストレートで迎撃して一定の戦果を挙げるが、頭から突っ込んでくるカブレラからのバッティングで受傷し、乱ペースに巻き込まれてしまう。カブレラは攻勢のポーズは続けるが決定打無し。
6R。カブレラの頭から突っ込んで来る姿勢に武本は苦しめられる。それでもジャブ、ストレートを不完全ながら放っていった。カブレラの圧力と手数が見栄えし始めたところで、レフェリーが試合を止め、負傷判定に持ち込まれた。
武本が5Rに偶然のバッティングで負った傷が悪化してストップ。公式判定は宮崎58-55、北村59-56、原田58-56の3−0で武本が世界ランク復帰を確定的にする“殊勲”。駒木の採点は「A」57-56「B」60-56で武本優勢。なお、5Rにカブレラはヘディングで減点1のペナルティ。
カブレラは手足のスピードに乏しく、パンチの破壊力も今一つ。見た目以上に素軽いボディワークや圧力にはピーク時の片鱗を感じさせたが、少なくともこの日に限っては名目上の地位や過去の実績にはそぐわない総合力――世界下位ランク、それも“穴”の字が頭に付くようなパフォーマンス水準といわざるを得ない。しかし、自分の試合を全うしクリンチやバッティングに苦しみながらも明確に劣勢のラウンドを作らず奮戦した武本は立派で、諸々若干の恵まれがあったとは言え、これでも堂々たる勝利だと言えるだろう。