駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第7試合・フライ級10回戦/○亀田興毅[協栄](8R2分23秒TKO)イルファン・オガー[インドネシア]●

メインイベントは亀田興毅の地元凱旋試合。今回の相手はワンミーチョーク戦以来となる東洋レベルの選手で、しかもLフライ級のインドネシア国内王者。大幅な相手弱化で、目指すはただ一つ、昨年5月以来のKO勝利だ。
その亀田の戦績は14勝(10KO)無敗。フライ級でWBA1位、WBC3位の上位ランカーである。間違いなく日本で最も有名なプロボクサーである彼の経歴は、もはや筆者が改めて詳しく紹介するまでもないだろう。デビュー以来、業界内の政治力と資金力を極限レベルまで駆使し、ただひたすらに名目的地位のみを追い求めた結果、とうとう世界王座まで到達したのが昨年の8月。頂点を極めたと同時に状況は猛烈な逆風に転じ、今では閉塞感すら漂うが、それでもどうにか無敗のレコードをここまで維持している。楽な相手を前に、本人からは「KO出来なければ引退する」との軽口も飛び出したが……
今宵の相手・イルファン・オガーは自称戦績16勝(7KO)2敗4分で、現在OPBFのLフライ級2位のランキングを持つインドネシア国内王者である。同国の記録管理の杜撰さゆえに近況は不明だが、昨秋には強豪ファニト・ルビリアルとのOPBF王座決定戦に7RTKOで敗れたレコードが残されている。本来なら「元世界王者の世界上位ランカー」とのマッチメイクはミスマッチも良い所だが、だからこその“ご指名”と思われる。
1R。亀田はいきなり大阪時代を彷彿とさせる突進を見せるが、オガーは冷静にスルー。亀田は一旦ランダエタ2戦目のスタイルを選択するような素振りを見せたが、オガーが消極的なのを見て挑発パフォーマンスの後に定番のガードを固めた“亀田家スタイル”へ。ロープへ詰めて左ストレート、右フックをガード上から効かせてゆくが、明確なヒットは少ない。オガーはアッパー中心に反撃するが明らかに非力。
2R。亀田は強引に圧力をかけて右ショート、左ストレート、アッパーで強打攻め。ヒットは散発的だがガード上からパワー差で吹き飛ばして優勢。オガーはジャブとアッパーで手数稼ぐが軽い。
3R。亀田はオガーに「打って来い」と挑発するが、オガーは素知らぬ顔で専守防衛の構え。亀田は左アッパーをボディに突き上げていくがオガーはガッチリとガード。ならばとショート猛連打を顔面に集め、ガードを弾き飛ばしてヒット連発。
4R。亀田はこのラウンドも工夫の無いパワープレイに終始。強引な連打でオガーのガードの隙間からヒットを捻じ込んで効かせるが、オガーもボディアッパーからフックを決めて亀田を後退させる場面も。
5R。亀田の強引な攻撃は完全に手詰まり。強打の手数攻勢もヒットに繋がらない。逆にオガーはワン・ツーやアッパー連打で亀田を後退させるシーンを演出するなど、渋太い粘りが光る。
6R。両者頭をくっつけるほどの密着距離で膠着戦。亀田が強打攻めでガードごとオガーをリングの外へ向けて押し倒し、マウントパンチまでお見舞いする暴挙に出たが、宮崎レフェリーは“VS噛ませ試合モード”の漫然なレフェリングでオガーのダウンを宣告。オガーはこの後も、勝ち気に逸りプロレス紛いの噛み付き攻撃まで繰り出す亀田を、まるであざ笑うかのような専守防衛を決め込んでラウンド終了まで粘りこみ、逆にストレートを有効打するシーンまで作ってみせた。
7R。亀田は体力温存か、手数を減らしてカウンター狙い。しかしオガーは警戒して手を出さない。ならばと亀田はロープに詰めて密着しつつまたも手数攻勢に出るが、精度が悪くヒットも少ない。オガーの反撃は少なく、また軽いが命中率は高く、対照的な印象。
8R。亀田は明らかにバテ気味で手数が減り、強振も乱雑さを増す。ボディ狙いはローブロー気味となって太腿に打ち込む始末。そんな中、亀田が相撲の叩き込みのようにフックを巻き込んでオガーを引き摺り倒すと、レフェリーはまたもや漫然とダウンをコール。それでもオガーは抵抗する気十分だったが、ここで宮崎レフェリーの必殺ダルファイト打ち切りが炸裂。不可解なタイミングでTKOが宣告されてしまった。スレたマニア目線からすれば「いつもの宮崎さん」だが、全国にテレビ中継されている試合でこのレフェリングは流石に拙いだろう。
亀田が久々のKO勝利を飾るも、内容は「悲惨」としか言いようの無いものだった。消極的な格下を前に、何の工夫も見られない力押し一辺倒でイヤ倒れを狙ったが、専守防衛に徹した相手の堅守を崩せずじまい。後半戦はスタミナ切れで攻撃も乱雑となり、絶望的なダルファイトに転落した。曲がりにも元世界王者が披露する試合振りとは思えず、2階級制覇の足掛かりを築くどころか課題が山積である事を満天下に知らしめてしまった。