駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第8試合・ライト級10回戦/○大沢宏晋[大星](7R1分10秒TKO)小木曽研二[塚原京都]●

メインイベントは、西日本新人王対決ともなる、地元阿倍野の新鋭・大沢の日本ランク初防衛戦。
大沢は10勝(5KO)1敗2分で、日本ライト級12位。04年にデビュー。05年の新人王戦では西日本新人王となるが、西軍代表戦では決定的な被弾の無いままスタミナ切れで力尽きる敗戦を喫する。その後は荒削りな所もあるファイター型から、手足のスピードと手堅い守備を前面に押し出したボクサー型に転向。いずれもノーランカーながら日本人相手に5連勝を挙げ、前回5月の元ランカー・山岡靖昌[広島三栄]に勝利後、空席へ滑り込む形で日本ランカーの仲間入りを果たした。関係者によると、今年度中にOPBFランクインを目指し、来年にはランディ・スイコ[比国]に挑戦する青写真を描いているとか。となれば今日は絶対負けられない試合と言えるだろう。
対する小木曽は7勝(6KO)6敗1分。02年にデビュー。緒戦を四国遠征で敗れるも、翌03年には西日本新人王タイトルを獲得。現日本ランカーの中森宏[平仲BS]に敗れて後楽園は遠かったが、04年では6回戦を連勝してA級に昇格を果たす。8回戦では負けが先攻する苦しい星勘定が続いているが、06年にはビー・タイト大会で優勝まであと一歩と迫る健闘を見せるなど、その存在感をアピールしている。今回は今年4月に高山剛志[ハラダ]に敗れて3ヵ月後という、早いカムバック。試合内定後に相手が日本ランクに登載され、期せずして大きなチャンスが巡って来た形。
1R。小木曽のワン・ツー中心の攻勢を、大沢はステップバックとダッキングでほぼ捌き切り、逆にジャブ、ストレート、左のフックダブルなどで迎撃。軽打中心ながらヒット数では大差をつけた。
2R。小木曽の力強くも一本調子なワン・ツー狙いを、大沢は巧みにブロックとボディワーク併用のディフェンスで外しつつ、ジャブ中心にストレートや左のダブルを次々と当ててリード。小木曽はラウンド終盤右アッパーをクリーンヒットさせて気を吐くが……
3R。小木曽がアグレッシブに攻勢も、大沢の巧みな体捌きの前には相撃ちに持ち込むのが精一杯。打ち負けの場面も目立つ。小木曽はワン・ツーに加えて右フックも見せるが、大沢は左右ストレート、右ショートフックで段違いのヒット数を奪ってみせ、小木曽の左目上をパンチで切り裂く。
4R。このラウンドも守備力で大きく勝る大沢のラウンド。スウェー、ステップワーク、ブロッキングと堅守・好守をアピールしつつ、ジャブ、ストレート、逆ワン・ツーでヒット稼ぎ。
5R。大沢は安全圏をキープしつつ、ジャブを当て続けてビッグパンチのチャンスを窺う。小木曽もラウンド終盤に密着して強打を打ち込むが、逆にラウンド終了直前には大沢が強打の固め撃ちで猛反撃。
6R。小木曽が序盤、圧力をかけてストレートで攻め込むが、大沢はすぐに立ち直ってリードジャブをコツコツと当てつつ右フックをまとめて浴びせて攻勢アピール。小木曽も激しく抵抗するが、及ばない。
7R。大沢の堅実な試合運びがジャブ、ストレートの山を築く。淡々とした内容ながら圧倒的な形勢となったところで宮崎レフェリーが小木曽の傷を理由に試合ストップ。負傷TKOの裁定となった。やや平板な内容で大勢も決していただけに、宮崎氏がいかにも打ち切りそうなタイミングであった。
大沢がジャブ、ストレートで「遊ぶ」という言葉の選択が妥当とも思える楽勝。コツコツとダメージを蓄積させ、ダメージブローの無いまま仕留めてしまう試合振りに、自陣営からは「『生殺しの大沢』や」という声も飛び出した。守備と主導権確保を主眼に据えた試合運びは安定感抜群で、能力面は日本ランカーでも中位クラスのそれだろう。名目上の地位より絶えず地力が先行しているのには好感が持てる。但し、攻略の糸口を掴みビッグパンチを浴びせるまでに時間を要する傾向が強く、ヤマ場の少ないまま試合が推移してしまいがちなのが気になる。この“悪癖”は強豪ランカーや地域王者クラスと対戦した際には命取りになりかねないし、エンタメ要素の観点からも問題がある。勝つことを第一に考えるのは間違っていないが、彼の中で「勝つこと」が知らず知らず「負けないこと」にすり替わりつつあるのではないだろうかと、若干の危惧を覚えている。「負けないこと」を覚えるのはチャンピオンベルトを巻いてからでも遅くはないのだが……。また、今後は会場を沸かせる試合を演出することを「限りなく“第一”に近い“第二”」に置く発想を持ってもらいたいとも思う。多少のリスクを背負った上で(楽勝ではなく)圧勝を狙う事は、それだけ自分に課すハードルが高くなる事を意味する。それはまた「強くなる」という、勝つために一番大切な事に繋がってゆくのである。
小木曽は自分なりの持ち味を活かして、KO狙いに絞って果敢に攻めたが相手のディフェンスを突き崩せず。最後までクリーンヒットが奪えなかった右ストレートは大沢にも脅威を与えていたと聞くが、実際にリング上で起こった出来事を総括すると「歯が立たなかった」と言わざるを得ない。