駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第4試合・WBA世界バンタム級タイトルマッチ12回戦/○《王者》ウラジミール・シドレンコ[ウクライナ](判定3−0)池原信遂[大阪帝拳]《挑戦者・同級4位》●

ダブル世界戦の1試合目はWBA王座戦。王者シドレンコは20勝(7KO)無敗2分の戦績。今回が6度目の防衛戦となる。
マチュア時代はシドニー五輪で銅メダルを獲得するなどの実績を挙げ、290勝20敗という高勝率を残す。01年11月にプロデビューするが、4回戦から地味に調整戦を積み重ね、03年まで13連勝をマーク。
本格的に始動したのは04年、2月にWBAインター王座を獲得、5月に防衛するや10月には4階級制覇の老雄・レオガメスとのインター王座防衛戦兼世界王座挑戦者決定戦を制し、翌年2月にはフリオ・サラテが保持していたWBA王座を奪取し、プロ17連勝で世界王座戴冠を果たす。
その後はヨーロッパ圏での興行で、暫定王者との統一戦を含む5度の防衛に成功。うち2度はリカルド・コルドバとのドロー防衛だが、ここまで依然としてプロキャリア無敗を維持している名実揃った強豪王者である。


挑戦者・池原は98年5月デビュー。後のA級選手を含む骨のある相手に5連続KOした勢いもそのままに勇躍00年の新人王トーナメントに挑むと、更に4連続KOを追加して西軍代表となり、全日本決勝でも判定ながら勝利して10連勝で日本ランクに到達する。
その後は連勝を伸ばすもののタイ人や二線級中心の相手との調整戦が続き、ランクを日本1位に上げながらもやや停滞の色が濃くなって来た03年6月、当時ノーランカーの玉越強平[千里馬神戸]に屈して18戦目にして初黒星を喫する。翌年再起したものの、東南アジア人中心相手に気合の入らない調整戦が続き、内容の伴わない勝利が積み重なる閉塞感漂う時期が長く続いた。
しかし06年、元世界フライ級王者メッグン・シンスラットとのノンタイトル戦を、かつてないアグレッシブな試合振りから3RTKOで制すると一気に浮上。6月には鳥海純[ワタナベ・引退]との日本バンタム級王座決定戦を制して初タイトルを獲得(防衛せず返上)、1戦挟んで07年5月には福島学[JBスポーツ→花形]とのサバイバルマッチを制してWBA王座に最も近い存在となった。
最近は試合間隔が開き気味で、今回も8ヶ月ぶりの試合となるが、一世一代の大チャンスにモチベーションは最高潮。地元・富山からの大応援団の前で奇跡の戴冠は成るか?


1R。アグレッシブに池原が前進。ショルダーブロックなどラフな戦術も駆使しつつ圧力をかけ、手数を絶やさず攻勢。シドレンコはガッチリガードを固め、ジャブをカウンターで当てて右のアッパー、ストレートを狙うが、まだ様子見ムードか。
2R。池原はこのラウンドもアグレッシブに行くが、シドレンコが足を止めて迎撃。ボディアッパー、ジャブ、ストレートで細かくヒットを奪う。池原の手数も止まらないが、シドレンコはラウンド終盤にも右ストレートをクリーンヒットし、確実なポイント確保に成功。
3R。池原はクロスレンジから手数攻めで数的優位を窺うが、シドレンコはガードを固めてヒットを容易に許さない。返す刀で左ショート、右ボディアッパーなどを鋭く当てて優勢確保。
4R。シドレンコのラウンド。池原の手数攻勢を捌いて、隙を見つけて的確に左ショート、右アッパーでコンパクトにダメージブローを重ねてゆく。池原は対抗する手立て無く大苦戦。
5R。シドレンコの静かながら力強い攻勢。ガードとジャブ主体の攻守の上にKO狙いのワン・ツーを放つ。池原もカウンターで抵抗するが、終了ゴング前にコーナーで重い右を浴びてしまう。
6R。クロスレンジ打撃戦。シドレンコの確実な攻勢に対し、池原もアグレッシブな手数攻めで細かいヒットを重ねて粘り強い抵抗。シドレンコは池原の粘りに手を焼くも、打ち合いの度に優勢を広げてゆくのは流石。
7R。シドレンコはやや手数を減らし、クルージングの態勢か。池原は好機とばかりに自分の距離を確保してジャブ中心にヒットを稼いで数的優位を確保。このラウンド、シドレンコの反撃は限定的。
8R。池原が自分の距離を意識しつつ手数攻め。シドレンコの鋭いショートを度々浴びつつも見栄えする外側からのパンチを集めて互角に対抗。優劣はかなり微妙なラウンド。
9R。再びシドレンコがアグレッシブに。池原も懸命に手数で抵抗して互角付近の形勢をキープするが、シドレンコの左ジャブとショートフックが度々ヒットして形勢は王者側に流れてゆく。
10R。打撃戦模様。池原は距離を詰めて打ち合うが、倍返しで有効打を浴びせられて劣勢。シドレンコは左アッパーでグラつかせ、ワン・ツー・スリーも有効打となる。
11R。クロスレンジ打撃戦。シドレンコが的確な左で池原の顔面を跳ね飛ばす。池原の粘りも強固だが、手数がヒットとダメージに繋がらず苦しい。
12R。シドレンコの巧さが光るラウンド。これまでの試合の中で見切った池原の距離を外しては自分のペースに誘い込み、右アッパーをクリーンヒット。他にも左のジャブ、アッパーで効かせて磐石の態勢で試合を終えた。
公式判定はリー[韓国]119-110、カイズ[米国]118-110、メコネン[芬蘭]116-112の3−0でシドレンコ。駒木の採点は117-111、ハーフポイント制では118-112.5でいずれもシドレンコ優勢。
シドレンコは少ない動きの中で鉄壁のガードを固め、無駄の少ない攻撃で着実にポイントを重ねる高燃費・高性能エンジンの持ち主。KO率に見合わぬ鋭い強打も持っており、無敗の戦績が良く似合う難攻不落の王者だ。特にファイター型との相性は抜群に良さそうで、今日の試合を受けたのも勝算高しと見てのものだったのだろう。日本にいる選手で彼を攻略できそうなのは対抗王者の長谷川を除けば、絶好調を前提としてサーシャ・バクティンぐらいしか思い浮かばない。
池原は彼なりに全力を尽くして戦ったが、自分の勝ちパターンに持ち込めず。メッグン戦のように相手を圧倒する勢いで前進したかったが、1Rから見えない圧力に封じられ、2R終盤に右ストレートで効かされた時点で勝負の趨勢は決していたのかも知れない。