駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第8試合・Sフライ級10回戦/●ユーシ・ウアパンサン[タイ国](判定1−2)小松則幸[Gツダ]○

ユーシは自称戦績17勝(11KO)6敗。タイ国フライ級王者で、OPBF同級12位。これが4度目の来日だが、過去3度の来日は久高寛之[Gツダ]、相澤国之[三迫]、大久保雅史[青木]にいずれも3〜4RでKO負けしている。
小松は22勝(10KO)5敗6分の戦績。現在は日本フライ級5位。
97年にエディタウンゼントジムからデビュー。新人王戦にはエントリーせず地道にキャリアを積み重ね、02年5月までに5つの引分を挟んで13連勝をマーク。同年9月に初挑戦でOPBFフライ級タイトルを獲得すると、以後5度の防衛。丸2年の東洋王者時代は毀誉褒貶激しいものとなる。04年9月、6度目の防衛戦で迎えたトラッシュ中沼[国際]との再戦で判定負けして王座失陥となるが、この試合も東日本所属の副審が最終ラウンドで不可解な「10-8中沼」で中沼を支持、同じく中沼を支持した西日本の副審が試合後にライセンス停止処分を受けるなど、舞台裏が大きく荒れた遺恨試合となってしまった。
05年1月、再起即世界挑戦のチャンスを掴むが、当時の王者ポンサクレックに5RTKOで敗れる。同年6月に再起し、11月にはフェデリコ・カツバイとのOPBF王座決定戦を苦戦の末に制するが、翌06年には当時日本王者だった内藤大助[宮田]との王座統一戦に敗れて再び王座失陥。07年には再起戦を挟んで吉田健司[笹崎]の日本王座に挑戦したものの、吉田のラフプレイに屈して6R負傷判定負けで挑戦失敗と、ここ数年はタイトル戦線からの撤退戦を強いられている。その後も敗戦の1ヵ月後にフィリピン遠征1R負傷ドロー、年が明けて1月の試合では元タイ国王者のOPBFランカーに2度のダウンを喫して敗れるなど近況は芳しくない。今回は進退をも賭けての再起戦となる。
1R。中間距離でフェイント、牽制中心。小松は左フック→右ボディのコンビで先制。ユーシは手数少なく、ロースコアの展開。小松も追加弾無く、逆に左を合わされて少々胆が冷える場面も。
2R。このラウンドも小松が意識的に距離を開けて、手数・ヒット数少ない展開。小松は断続的にロングレンジから懐へ潜って軽打を当て、ラウンド終盤に漸く右で有効打当てグラつかせた。
3R。小松は開始ゴング直後に先制、連打まとめて手数を稼ぐが、その後は距離を開けて慎重な構え。安全運転で淡々とポイントアウト気配が濃厚だったが、ユーシの右が軽くアゴにヒットした瞬間大きくグラついて唐突ピンチ到来。この効き方は……
4R。小松はロングレンジから断続的に手数を出すが、迫力不足で手数が少ない。逆にユーシに右アッパーを当てられ、被弾の際にはあからさまに危うい反応を見せる。
5R。小松は頭低く下げてアゴを守りつつ、クロスレンジから連打で手数を稼ぐ。明確なヒットは少ないが、主導権はガッチリ握った。ユーシは消極的。
6R。小松はこのラウンドもロングレンジから時折踏み込んで手数を稼ぐ。しかし連打はいかにも乱雑で、あくまでポイントアウト狙いの攻撃。それでも優勢を築きつつあった矢先、ユーシがこのラウンド見えた僅か1回の連打から右フックがモロにクリーンヒットして小松ダウン。小松はそれでも怯まずに手数浴びせて抗戦するが、更に左フックを浴びてヒヤリ。
7R。小松は今の自分が出来る事を確かめるように、ヒット&アウェイでの手数攻め。だがラウンド終盤、ユーシの何の変哲も無い右1発でまたもダウン寸前。
8R。ポイント上でも微妙な立場に立たされた小松は、ややアグレッシブさを増して手数も増やす。密着距離からヒット重ねて、攻撃は最大の防御なりを地で行く試合運びで、ここは優勢。
9R。小松が先手で攻勢。手数の少ないユーシの懐に難なく潜り込んではショートフック連打。漸く元タイトルホルダーらしいところを見せる。
10R。小松がマイペースのヒット&アウェイ。またもショートフックをまとめていって数的優勢確保。ユーシはこの状況に至っても攻めが淡白で勝利への意欲が怪しい。
公式判定は大黒96-94、宮崎96-94(小松支持)、野田95-54(ユーシ支持)のスプリットで小松。駒木の採点は「A」95-94「B」96-95で小松優勢。
小松が苦労に苦労を重ねて、スプリットデシジョンで辛勝。グラスジョー的な打たれ脆さは顕著となり、攻撃の際の迫力減退も目立つ。戦意旺盛とは言えぬタイ国王者にこの内容、応援団を中心に会場は大いに盛り上がったものの、この相手に際どい“熱戦”を演出してしまうようでは元5度防衛の東洋王者の肩書きが泣く。8R以降にギリギリ持ち直して何とか次戦以降に望みは繋がったが、依然として厳しい状況に立たされているのは間違いない。試合後、小松本人は得意のマイクパフォーマンスで現役続行を力強く宣言したが、彼の往時を知るファンは、今後彼の試合を見る際にはある種の覚悟を求められる事になりそうだ。