駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第1部第7試合・Sライト級契約ウェイト(136ポンド)10回戦/○大沢宏晋[大星](判定3−0)高山剛志[ハラダ]●

大沢は12勝(7KO)2敗2分で、現在は日本ライト級10位。04年デビュー、1勝無敗2分の戦績で臨んだ05年の新人王戦でライト級西日本新人王となるが、西軍代表戦では決定的な被弾の無いままスタミナ切れで力尽きる敗戦でリタイヤ。荒削りな所もあるファイター型からスピードと手堅い守備を前面に押し出したボクサー型に転向し、以後6連勝。07年5月には元日本ランカー・山岡靖昌[広島三栄]に勝利し、日本ランク入り。7月には小木曽研二[塚原京都]も降すも、12月にJRソリアーノ[比国]に敗れて東洋ランク入りを逃すと共に日本ランクからも陥落。しかし、今年2月に初の東京遠征で御舩シュート[セレス]に4RTKOで快勝しランキング復帰を果たした。
対する日本ライト級7位の高山は14勝(4KO)6敗。97年にヨネクラジムからデビュー。98年まで3戦1勝2敗で一時引退状態となるも、02年に復帰。翌03年にハラダジムに移籍し、西日本新人王戦で決勝進出(吉澤佑規[ウォズ]に敗れる)。再起後も6〜8回戦で3連勝など本格化の兆しを見せる。その後しばらくはA級で勝ち負けを繰り返したが、05年12月から07年7月まで5連勝。ランキングも日本7位まで上げたが、07年10月に高瀬司[大阪帝拳]に敗れてランク落ち。今回は再起戦ながらランキング再登載を賭けた大事な試合。

参考:2月16日後楽園ホール・Sライト級契約ウェイト(62.0kg)8回戦/○大沢宏晋[大星](4R1分25秒TKO)御舩シュート[セレス]●

御舩は当時11勝(4KO)5敗2分。01年デビューの31歳。ランク入り経験は無いが、A級5年目で5勝(4敗)を挙げている。
1R。大沢はスピード優位活かしてタテのステップを多用。ジャブを中心に軽打稼ぎつつ、バックステップで御舩の圧力かけつつの強振を捌いてゆく。大沢が主導権を確保したかに見えたがパンチはインパクト不足で、逆に御舩の変則なタイミングで打ち出される強打を不完全ながら浴びて印象を損ねた。序盤のスロースタート傾向&攻撃の軽さが今日も出ている。
2R。このラウンドも同様の展開。大沢のスピードはこのラウンドでも優位。御舩の強引なラッシングの前に見栄えを損ねる場面もあったが、ラウンド終盤に差し掛かったところで膠着からの離れ際に右フックをテンプルにクリーンヒットさせ、ノックダウン。御舩は効いた様子も、巧く膠着戦に持ち込んで粘りこんだ。
3R。やや動き鈍った御舩に対し、大沢は足を止めるシーンも増えて先手で強い左ジャブをビシビシ決める。ディフェンスはステップバックからスウェーに切り替えて受身の態勢からも脱し、攻勢点もアピールした。御舩は主導権を握ろうと突進とクリンチで渋太く食い下がるが、いつの間にかロープを背負い気味で守勢。更には強引な姿勢が過ぎてバッティングで減点1のペナルティ。
4R。共に前へ出ようとする気持ち強く、結果、距離が噛み合わない時間帯が続く。だが大沢はまたも膠着からの離れ際、クロスカウンターの右フックでアゴの先端を弾くと、御舩は腰が抜けるような形で足元怪しくなり、たちまちダウン。これはスリップの裁定だったが、ダメージ深刻で、再開後間もなく腰から崩れ落ちて今度はダウン→ほぼノーカウントでTKOの裁定。
(参考レポートここまで)


1R。共にステップバックやサイドステップで相手の放つジャブとストレートを捌く静かな立ち上がり。ステップの大きい大沢は左ジャブ中心に明確なヒットを固めて僅かに優位か。しかし高山もジワリと圧力かけつつ手数出し、時折大沢にロープを背負わせる。
2R。大沢は左ジャブ、右ストレートのオーソドックスな攻めに加えて右アッパーも交えて先手の攻めもヒットが軽いか。高山はガードの上に強打の打撃音を響かせて“アグレッシブ”要素の優位をアピールし、終了ゴング前には右カウンターで有効打。
3R。大沢はステップを使いつつ左右のパンチを細かく出すが、腰の据わらないパンチは軽い。高山は大沢の攻め難い位置をキープしつつ、圧力とカウンターで攻めて主導権支配。熟練のインサイドワークでポイントを確保した。
4R。高山の守備が光る。先手で手数を出しつつ、攻守兼備の無駄の無い動きで主導権をガッチリ。大沢は左ジャブで軽打ながら明確なヒットを奪うが、それ以上に不完全ながらも被弾を重ねており、採点に悩ましい情勢。
5R。高山は体力切れの兆候が出て、ここに来て大沢のジャブが明確に当たり始める。高山はカウンターやジャブの牽制で主導権は手放さぬと渋く立ち回るが、ヒット数で見劣りした。
6R。大沢がスピードで優位に立ち、ヒット数を稼いでゆく。高山は動きが鈍った分だけ被弾も目立つが、ラウンド終盤にはカウンターを鋭く決めて大沢に泡を食わせた。
7R。大沢は単発の左、右、そしてワン・ツーで有効打を奪う。高山はカウンター狙いで待ちのボクシングだが、大沢のジャブを防ぎ切れず被弾ばかりが目立つ。相手の嫌がる動きを徹底する熟練の技巧は垣間見せるが、形勢が厳しくなって来た。
8R。大沢が先手でジャブ中心に単発のヒットを重ねる。高山は相撃ち気味にジャブとフックを返すが数的に劣勢。終了前にゴング前に右ショートを有効打して猛追するが?
9R。依然として大沢のジャブに高山が対応できないでいる。高山は得意のショルダーアタックからの攻めを窺うが、そうはさせじと大沢はクリンチワークで妨害。大沢はラウンド終盤に連打を浴びせてポイントを奪取した。
10R。大沢が綺麗な左、右でヒットを稼ぐ。しかし高山もアッパー、フックで不完全ながらカウンターを決めて食い下がる。だがラウンド終盤、大沢は得意の密着から離れ際の右フック振り下ろしでヒットを量産し、このラウンドもポイント奪取か。
公式判定は野田97-94、坂本97-95、宮崎97-95の3−0で大沢。駒木の採点は「A」98-92「B」98-95で大沢優勢。大沢の軽い明確なヒットと、高山の不完全なヒットながら視聴覚にアピールする強打とで採点の難しいラウンドがあり、これをどう評価するかで大きな誤差が生じそうな試合。筆者は「A」採点では大沢支持に無理矢理振り分けたが、公式ジャッジはイーブン中心に高山支持に振り分け、結果として筆者「B」採点に近い数字となった。
大沢が相手の巧さにレッスンを受けつつも、鋭いジャブと全身のスピードを駆使して次第に有利な状況を作り、ポイントアウトに成功。高山の圧力をいなすクリンチワークなど、試合の駆け引き面でも成長が窺える。しかし単発傾向な点と、足を使いながら繰り出すパンチが軽い点、威力のある右を使う場面をなかなか作れない点など、以前からの課題であるスロースターター傾向に繋がるポイントが未だに解消されていない。日本ランカーとしての能力は十分あるが、更に上を目指すならば修正すべき所は少なくない。
高山は前回敗戦時の絶不調からは脱し、むしろ好調の部類。前半戦はスピードと圧力を兼備した柔らかい動きから繰り出されるジャブ、カウンターで相手を大いに苦しめた。しかし試合後半に入ると体力切れか失速し、鋭いジャブを浴び続けて主導権を失うと、あとはズルズルと劣勢に。得意のショルダーアタックを多用するインサイドワークもクリンチで封じられ、最終的には完敗といった内容。