駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第5試合・WBA世界Sウェルター級挑戦者決定戦12回戦/●マルコ・アベンダーニョ[ベネズエラ](判定1−2)石田順裕[金沢]○

アベンダーニョは26勝(18KO)5敗1分で、現在WBAのSウェルター級8位。96年デビュー、35歳の大ベテランである。デビュー以来13連勝で国内タイトルと、WBAフェデラテン王座の2本のベルトを獲得。だが00年3月には後の世界王者リカルド・マヨルガに2RTKOされて王座失陥。01年7月にはWBA中米王座の挑戦失敗など長い停滞期に入る。05年には地域タイトル3連戦に挑み、2勝1敗。WBAの中米Sウェルター級、フェデラテンのウェルター級王座を獲得した。その後はノンタイトルながら5連勝。初の世界挑戦へ向けて、敵地での大勝負に挑む。
石田は19勝(7KO)5敗2分。元OPBF、前日本Sウェルター級王者にして現在はSウェルター級でWBA9位、WBC15位の世界ランカー。アマ時代に高校選抜優勝、社会人選手権優勝、国体成年の部準V、全日本選手権3位など100勝以上の豊富なキャリア・タイトル歴を残し、00年にB級デビュー。デビューから半年余りで5戦5勝とハイペースで試合をこなし、03年3月の6戦目で早くもOPBF王座に到達。だが、初防衛を賭けた暫定王者・竹地盛治[中外・故人]との統一戦に敗れて2ヶ月余の短命政権にピリオドを打つと、その後はミドル級の強豪にノンタイトル戦では連戦連勝するもののSウェルター級の東洋・日本王座には都合4連続で挑戦失敗するという不名誉な記録を作ってしまう。それでも05年にビー・タイト大会で優勝して勢いをつけ、06年12月に松元慎介[進光]との日本Sウェルター級王座決定戦に、大苦戦の末に判定勝ちを収めて3年7ヶ月ぶりにベルトを巻いた。07年4月には川崎タツキ[草加有沢]相手に初防衛を果たし、10月にはハビエル・ママニから世界ランクを奪取。今年4月にも再び川崎タツキを退けて、33歳にして充実一途の現状である。ボクシング人生の集大成となる世界タイトルマッチへ向けて、最終関門に挑む。
1R。アベンダーニョはスピード平凡だが左フックを交えた連打が持ち味か。石田はスピード優位を活かし、ジャブで牽制するが、目立ったヒットに欠ける。ほぼ互角だが石田に分の悪い展開。
2R。アベンダーニョは意外とボディワークは素早く、石田のジャブは喰ってもその次を当てさせない。逆に左から右フック、更に次へつなげて攻勢点をアピール。小差のラウンドが続くが……
3R。石田は左ジャブを細かく重ねてアウトボクシングでラウンド前半を支配。しかしアベンダーニョも徐々に圧力を増し、終盤には連打で攻め立てる。石田は終了ゴング直前には捌ききれなくなって被弾、アドバンテージを手放した。
4R。アベンダーニョの攻めの起点となる左、これを石田が度々食ってしまい主導権もアベンダーニョへ。石田も左ジャブからワン・ツーへ繋げていくが、アベンダーニョの攻勢点と力強い強打の方が好印象。KOに繋がりそうな場面は無かったが、アベンダーニョ優勢。
5R。石田はアベンダーニョの左を捌き切れない。懸命に主導権を奪回しようとあれこれと動いてみるが、アベンダーニョの右フック→左の振り下ろしフックがズドンとクリーンヒット。即KO級のノックダウンとなる。石田は立ち上がり、何とか凌ぎ切ったがダメージ色濃い。
6R。クリンチ多く膠着気味。石田は粘り強く立ち回り、クリンチからの離れ際に手数を稼ぐ。ラウンド終盤には左を渋太く当ててポイント確保か。アベンダーニョも左中心に攻めているが、このラウンドは塩漬けにされた感。
7R。石田がこのラウンドもクリンチワークと左を駆使して主導権。しかしラウンド終盤、アベンダーニョも強引に右ボディからアッパー→フックとビッグパンチを連発して大いに見せ場。これで形勢は一気に五分まで揺り戻された。
8R。両者省エネを意識した試合運び。ロングレンジ中心にヒット&アウェイで時折接近するアベンダーニョを石田が迎撃。石田がヒット・手数で小差ながらリードするが、ロープに詰まるような場面でもアッパーを上手く返すアベンダーニョのテクニックも目を引く。
9R。石田がこのラウンドも膠着気味の展開の中で手数を稼ぐが、アベンダーニョの左フックがクリーンヒット。石田も懸命に踏ん張って右で有効打を奪うが、1発の威力の差が大きく違う。
10R。石田がラウンド開始早々ロープへ詰めて猛攻。その後はロングレンジで単発ワン・ツーの打ち合い、捌き合い。決め手欠けるもスリリングな打撃戦が展開された。
11R。クリンチ挟みつつも断続的にショートレンジの打撃戦が。アベンダーニョはラウンド序盤に上下へ重いフックを浴びせて先制するが、終了ゴング前になって石田も連打の中の左フックをクリーンヒットさせてアベンダーニョを棒立ちにさせる。
12R。アベンダーニョは体力切れか、クリンチに逃げつつ手数を稼ぐのみ。石田も迎撃で互角に立ち回るが、こちらも決定打は無く、淡々と時間が過ぎた。
公式判定は原田115-113、宮崎115-114(以上、石田支持)、福地115-113(アベンダーニョ支持)のスプリットデシジョンで石田。駒木の採点は「A]114-113アベンダーニョ優勢「B」115-115イーブン。率直に言って石田の判定勝ちになるだけの説得力には欠ける内容、しかも石田を支持した副審2人が西日本地区のレフェリーという事もあり、地元判定が疑われても仕方ないスコアになってしまった。ただ、06年以前に散見されたような不当判定とは違うとも付記しておく。
石田は前半戦、相手の左に苦しめられ、5Rには完璧なダウンも奪われて大ピンチ。しかし後半戦では相手の体力切れに乗じて細かくポイントを稼いで辛勝に持ち込んだ。だが、今日の内容では世界王座云々とは到底言えない。
アベンダーニョは足のスピードこそ平凡だが、上半身の動きと連打のスピードは、なるほど世界ランカーに相応しい実力の持ち主。体力切れの傾向は運動量が多過ぎるためかも知れない。敵地でなければ「順当な勝利」となっていた内容だが、石田の執念の前に苦汁を舐めた。