駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第8試合・Sフェザー級8回戦/○木原和正[尼崎](判定3−0)村澤光[尼崎]●

木原は8勝(4KO)1敗で、日本Sフェザー級12位。05年末デビュー。2戦目が06年10月とブランクを作るが、2戦2勝で迎えた07年の新人王戦では5連勝でSフェザー級西軍代表となり、東日本代表の棄権により不戦勝ながら全日本タイトルと日本ランクを獲得。今年3月のA級緒戦では山下将臣[高砂]に大差判定勝利し、その勢いで山崎晃[六島]とのランカー対決に臨んだが、際どいスプリット判定で惜敗した。
村澤は8勝(2KO)1敗。06年末デビュー、1戦1勝ので07年の新人王戦にエントリーすると、最激戦区のSバンタム級を勝ち抜き西軍代表まで進出した。しかし全日本決勝は古口学[古口]に完敗、今年5月に6回戦で再起戦を行い、これをクリアしてA級昇格。今回は初の8回戦でランカー挑戦、しかし相手は同期の新人王なだけに一歩も退けない所である。
1R。互いの能力を推し量るようなスピード争いからスタート。均衡を破ったのは木原の右ストレートで、バックステップで対応しきれず村澤が被弾。そこから立て続けに木原がヒットを重ねて優勢。村澤も左ストレートやアッパーで反撃するが、得意の打ち合いに持っていけず劣勢。
2R。村澤が左ストレート連打で先制。木原も乱打戦で優位に持っていって挽回するが、村澤は右アッパーと左ストレートに絞った攻めでクリーンヒット浴びせて再び突き放す。それでも木原は怯まず反撃し、まさに一進一退の攻防戦。
3R。後手に回った前のラウンドの反省か、木原が先手で右ストレート起点に連打決め、大差先行。村澤は右アッパー、ジャブを起点に攻めたいが距離が合わず左に繋げる隙が見つからない。
4R。木原のコンパクトな連打構成が冴える。村澤はパーリ、ブロッキングで概ね捌いてはいるが、ここぞという所で痛打を浴びる。村澤も左の強打で木原を吹き飛ばすなど見せ場も作るが、ヒット数の差は歴然。
5R。ショートレンジの大乱打戦が勃発。村澤お得意の展開だが、ここもボディワークと回転力で勝る木原がリード。右ストレートでフラッシュ気味ながらノックダウンで貴重な2ポイント確保。村澤も右フックで木原をグラつかせてみせ、ハイライトシーンを作るが及ばず。クリンチの無い激闘で会場は興奮の坩堝。
6R。木原の回転力が優位。村澤も左ストレート、右アッパーを正攻法から決めてゆくが、木原のヒットを伴う手数攻勢の前に数的劣勢否めず。木原は打たれて嫌がる悪癖が気掛かりだが……
7R。同様の展開が続く。村澤は左ストレートのクリーンヒットなど見せ場を作るが、これも一瞬のリード。木原の右をスピードで捌こうとするが、間に合わず被弾を繰り返す。木原は冷静かつ正確な連打が見事。
8R。打ち合い挑み、逆転KOに望みを賭ける村澤だが、木原が的確な攻守で対応して逆にヒット数で大差有利。村澤の強打を殆ど喰らわず、主導権もガッチリキープ。ランカーの先輩たる貫禄まで見せ付けて堂々と押し切った。
公式判定は原田79-72、坂本79-73、半田78-73の3−0で木原。駒木の採点は「A」「B」いずれも79-72で木原優勢。
木原は体の切れと回転力の差で難敵を圧倒。クリーンヒット浴びるシーンはあったが、最後まで冷静さを失わず、攻防一体の試合振りは日本ランカーたる資格十分のパフォーマンス。今後も楽しみだ。
村澤は左ストレートと右アッパーに絞った攻撃で見せ場を随所に作りながらもノックダウンに繋げられず。気になるのは守備面で、ここに来て体の固さが目立ち始めた。身体能力的に捌けない敵弾までまともに対処しようとしては被弾する、という繰り返しで大差劣勢のラウンドを重ねてしまった。技術的な面で言えば、全く未熟だった新人時代よりも攻守の技術のレパートリーは格段に増えているのだが、内容的には逆効果になっているのは皮肉な話である。自分の適性に合わない技術までも大事に扱おうとし過ぎている印象があるし、相手の攻撃を全て真正面から捌こうとし過ぎている嫌いもある。神がかり的な勝負強さと天才性がクローズアップされて来た選手だが、そろそろ「理想」と「現実」を擦り合わせる時期が来ているのかも知れない。10代の若者に理想を捨てろと強いるのは酷な話だが、プロボクサーの誰しもが(村澤が憧れる)長谷川穂積のように「得ること」だけで頂点を極められるのではないという事を分かってもらいたい。越本隆志のように、片腕の機能を失った所から全てが始まった選手も居る。出来る事と出来ない事の整理と、出来る事を最大限活かした試合運びの習得が今後の課題である。