駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第8試合・日本ミドル級タイトルマッチ10回戦/●《王者》江口啓二[姫路木下](判定0−3)鈴木哲也[進光]《挑戦者・同級1位》○

王者・江口は18勝(12KO)2敗のサウスポー。OPBFのミドル級では2位。相撲出身という異色のキャリアを経てプロボクシング入り。デビューした03年に新人王戦で西軍代表まで進出、全日本決勝は際どい判定で清田拓三[フラッシュ赤羽]に敗れるも、再起後はタイ人中心ながら06年3月までで7KO含む8連勝。唯一の判定勝ちも元日本・東洋王者の保住直孝[ヨネクラ]が相手だった。06年12月に板垣俊彦[木更津GB]を破って日本ミドル級タイトルを獲得し、以後防衛4回。前回9月の試合では佐藤幸治[帝拳]の保持するOPBF王座に挑んだが、ダウンを奪った後の逆転KO負け。3ヵ月強のブランクで再起・防衛戦という強行日程となっている。
挑戦者鈴木は20勝(14KO)7敗の戦績で、こちらもサウスポー。現在はミドル級でOPBF3位、日本1位というトップコンテンダー。99年デビュー、3連勝から00年度にSライト級で新人王戦に挑むも2回戦敗退。翌01年にはウェルター級で再挑戦するが、西日本決勝で丸元大成[Gツダ]に敗れる。再起後は6回戦を連勝でA級昇格。03年までは3勝3敗と苦しい星勘定が続くが04年、05年には韓国・タイ人中心ながら5連勝してキャリアを積み、06年には板垣俊彦[木更津GB]が保持していた日本ミドル級王座に挑戦する(判定負け)。再起後はタイ人相手に連勝後、前WBF王者という経歴のアルメニア人に敗れる不覚もあったが、その後はランキングを賭けた若手ホープの試合をクリアして再び充実の時を迎えつつある。08年に入ってからは、4月の福森智史[正拳]戦では、相手のボディブローに苦しみながらも10年弱のキャリアで培ったテクニックで判定勝ちを果たし、9月の戸高“フランケン”大樹[大分]戦では4RTKOで完勝。調整を十分行い、満を持しての日本タイトル再挑戦である。
1R。江口はジリジリと圧力をかけつつ強打狙いだが、動きのキレは普段の八分程度? 一方の鈴木はハンドスピード鋭く右ジャブとカウンターで先手を獲る。江口も左ボディを返して小差に粘るが……
2R。江口がパワーパンチで逆襲開始。小橋建太の豪腕ラリアットのような左フックに右ボディ。鈴木も右で対抗するがパンチ力は歴然。攻勢点もろとも江口が持っていった。
3R。江口のパワー攻勢はこのラウンドも機能。しかし鈴木はガードを固めて右やワン・ツーで鋭く切り返す。鈴木の軽打か、江口のガード上へのパワーパンチか、どちらが評価されるか。
4R。鈴木のスピードが再び優勢となる。江口の攻勢に右カウンター浴びせ、一瞬怯んだ所をワン・ツー→フックの連打で有効打、クリーンヒットと畳み掛けて圧倒。江口もフックで重たい反撃を見舞うが、このラウンドは劣勢。
5R。牽制しながら両者自分のボクシング。江口が圧力、鈴木は足を使ってカウンター。江口がボディを効かせてアッパーで追撃するが、鈴木も渋太く左ストレート。
6R。両者体力温存を意識したか動きが小さい。江口は大振りフックとボディブロー、鈴木は鋭い右中心。江口がやや優位だったが、終了ゴング寸前に鈴木は左ストレート→ラッシュでクリーンヒット奪い肉薄。
7R。断続的に激しい連打の応酬。江口の重いフック連打で鈴木は棒立ちになるが、鈴木も立ち直って猛烈な連打で江口を圧倒する。一進一退、ポイントの振り分けに困るラウンド。
8R。江口が開始ゴング直後にラッシュ。ガード固める鈴木は何とか凌ぐが、体力奪われ消耗の色が隠せない。ラウンド終盤には江口も攻め疲れ、鈴木もワン・ツーのヒット連発で逆襲。
9R。両者体力切れ。力を貯めては2〜3連打を放つ。鈴木は江口のパワフルな強打をガードしつつ、ジャブ、ワン・ツーを懸命に返す。微差激戦。
10R。江口が先制の連打も、打ち合いに出た鈴木がハンドスピード利してヒット重ねる。江口の戦意とパワーは衰えぬが、鈴木が巧い体力配分で
、膠着した所で主導権を奪い、ポイント争いで支配的。
公式判定は原田97-93、中村97-94、坂本96-95の3−0で鈴木が王座奪取に成功。駒木の採点は「A」95-95「B」96-96でイーブン。江口の攻勢点とボディブローとガード上を叩く強打、鈴木の小気味良くヒットを重ねた連打、どちらを評価するかが勝負のポイントとなった試合。公式判定は、要所で見栄え良く江口の顔面をハネ飛ばした鈴木の連打を重要視した形。
鈴木がデビュー10周年を前に2度目のチャレンジで日本王座獲得。一時期は日本ランクをキープしながらもタイトル戦線から距離が開いた事もあったが、地道な努力はウソをつかなかった。ミドル級としては俊敏な身のこなしと試合運びの巧さを基本に、回転の利いた連打、右フックと左ストレートで要所を押さえてポイントを取り切るボクシングが漸く完成の域に達した。パンチ力不足とボディの耐久性という欠点もあるが、それを自覚した上でフォロー出来るだけの余裕が今はある。円熟期にもぎ取ったベルトをどこまで守れるか、今後も注目したい。
江口は試合冒頭から動きにキレがなく、強引なファイタースタイルに固執、結果的に主導権を失ったまま挽回できず、小差ながらポイントを取りこぼして王座からも陥落してしまった。OPBF挑戦失敗の後遺症か明らかに本調子を欠いていたが、得てして安定王者が敗れる時はこのような形なのだろう。現役続行を早々に表明した彼に課せられた最初の課題は、その心身ともに疲労した自分を休ませる事だ。