駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

地上波中継雑感:バンタム級10回戦/○長谷川穂積(判定3−0)鳥海純●

ノンタイトル戦ながら、WBCWBAの1ケタ順位にランクされた両者が相見える“ランキング争奪マッチ”。「選手の実力とランキングがそぐわない」という批判はあれど、日本下位ランカー同士の試合すらロクに組まれない日本ボクシング界の現状からすれば、いかにこの試合が貴重なことか。……まぁこれも、こういうリスクを冒さないと、千里馬神戸ジムの台所事情からして世界挑戦のきっかけも掴めないからなんだろうけど。

──で、試合の方は地上波では5、6、10の3ラウンドしか放映されなかったので総括のしようがないのだけれども、一番印象に残ったのは長谷川がいつになく相手の細かいパンチを喰っていたことか。これは初のサウスポー戦だった事もあるのだろうが、それ以上に今回は、「自分から仕掛けていく攻撃的なボクシングをしよう」と考える余り攻守のバランスが狂ってしまったのではないか…と思ったりした。
いつもは専守防衛気味に相手の攻撃を回避し動きを見切って自分のリズムを構築し、それから隙を見てカウンターを狙っていく…というスタイルなのだけれど、今回は「相手の攻めを待つスタイルで、なかなか自分から試合を作れない」という弱点を解消しようとする余り、少々性急なスタイルチェンジに挑んでしまったような印象があった。まぁそのリスクも承知の上で試みた事なんだろうが。


 ともあれ、長谷川はこの日2つの課題をクリアした。
まず1つは当たり前だが「勝利する事」。1年3ヶ月ぶりの対日本人戦で、しかも初めての対サウスポー戦、そして敵地・東京での試合というネガティブな材料を多く抱えての試合だっただけに、やはり3-0の判定で完勝したという事実は大きい。どうやら3人のジャッジのうち2人は地元判定気味だったみたいなので、余計に強い実感が沸いてしまう。
で、2つ目は「観客を満足させ、“ゼニの取れる”試合を披露する事」。凡戦と好勝負の差が大きい長谷川ゆえ、今回の試合で敗戦の次に怖かったのは「勝ったはいいけど、こんなつまんない試合する選手を世界に挑戦させてもなぁ……」と、初見の関東の人たち、特にテレビ関係者に思われてしまう事だった。それが今回は地上波放送で、(是非はともかくとして)メインの試合を中抜きさせ、一般層にも浸透した知名度を誇る西岡と仲里の試合を押しのけて15分の放送枠を勝ち取るという“快挙”である。これはナニゲに、今後長谷川が活動していく上でとんでもなくデカい事なのではないか。
……ただし、本当はクリアするべきだったものの、保留になってしまった課題が1つある。「世界タイトル挑戦者にふさわしい、“国内最強”の実力をアピールする事」がそれだ。巷の感想を散見してみると、辛口の拳闘通からは「ウィラポンと対抗するにはまだまだ」という声が多く見受けられた。確かにそうだろう。こればっかりは、長谷川本人が来春にも予定されているタイトルマッチ本番までに己の努力で克服してもらう他はない。まぁ今持っている謙虚さを失わず精進してくれれば、確信は持てないまでも希望は抱かせてくれる所までは届いてくれるのではないだろうか。

ちなみに、今回長谷川の謙虚なインタビューに耳を奪われた方の為に補足トリビアをお送りすると、彼は1年前、件の対戦相手を病院送りにしたOPBF防衛戦の直後に「まだまだ。あれくらいの相手、ジャブで遊べるようにならないと世界なんて」という旨の、謙虚さもここまで来ると……というようなコメントを残している。亀田興毅の虚勢ばっかりのビッグマウスより、こういうコメントの方がゾクゾクするような恐ろしさを感じるのは駒木だけだろうか。