駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第11試合・Sバンタム級10回戦/○大橋弘政[HEIWA](10R0分35秒TKO)坪内達哉[大阪帝拳]●

メインイベントは、日本ランカー入り一歩手前で長く停滞を強いられている大橋が、これが引退試合となる坪内に挑むランキング争奪戦。大橋にしてみれば「ランキングを持ち逃げされるなんて真っ平御免」だろうし、坪内にとっては最後は気持ち良く勝利で有終の美を飾りたいところ。両者の譲れない思いがぶつかった好マッチメイクである。
個人的な話になるが、坪内は筆者が昨年に発売されたムック本「あしたのボクシング2」の若手ホープ推薦記事に寄稿した際、与えられた枠・2選手分のうちの1人だった(もう1人は堀川謙一[SFマキ])。当時ノーランカーだった彼が、成長を見せながら白星を重ね、ランキングを上げてゆく様子を見ることが出来たのは、本当に幸せな事だった。今回は、JBCの引退後就職支援策が結果的に引退を早めるという、何とも皮肉なケース。「残念」という文字通りの思いで一杯だ。せめて彼の最後の試合を見届けたくて、名古屋入りを1日早めた次第である。


大橋は12勝(6KO)8敗3分。00年にデビューするが、グリーンボーイ時代は成績が伸び悩み、03年の新人王戦も中日本予選を勝ち抜けずに敗退している。しかし6回戦を3試合でクリアすると8回戦・10回戦で3連勝、その後も“後の日本ランカー”を次々と撃破するなど地力の高さをアピールするが、肝心のランキング戦では敗れ続けて未だにノーランカー。昨年からはタイ人との1勝のみでランカー級選手に3敗と、ややスランプの気配も。だが、それでも攻めの気持ちを失わず、今回も果敢に日本ランカーへ挑戦する。
坪内は9勝(3KO)1敗で日本Sバンタム級9位。大学時代にアマチュア全日本選手権ベスト8、04年にB級プロデビューしてからも順調に4連勝を飾る。05年秋の5戦目では玉越強平[千里馬神戸]の日本ランクを狙うが、ダウンの応酬という激しい試合の末にスプリットの惜しい判定負けを喫する。だが06年から今年春までは5連勝。日本ランキングには10位登載→ランク外→10位再登載という過程を経て、現在は9位まで順位を上げている。この度大阪府警の採用試験に合格し、間もなく就職するためにこの試合が引退試合となる。
1R。大橋は重いワン・ツー、ボディアッパー中心の攻め。坪内はこれらを鉄壁のガードで弾きつつ、右ストレート、ワン・ツー、右フックなどでヒット数リード。手数がもっと欲しいが……
2R。クロスレンジ打撃戦。大橋がボディ中心にしつこく手数をまとめて攻勢アピールするが、坪内もラウンド後半から粘り強く左右フック、右ストレート有効打して互角以上に。
3R。大橋は密着しながら手数を次々と浴びせ、顔面へ連打を浴びせるシーンも作る。坪内はラウンド後半から距離をとって左右フック、ストレート、アッパーで見せ場。
4R。密着距離で大橋の圧力伴う手数攻勢。坪内はクリンチで休みたいが、それも思うようにならず苦戦。中間距離に出て強打を返すが、ガードと防戦のために手数が少ない。
5R。クロスレンジの手数合戦。大橋が重いボディでガードの上から効かせて優勢。坪内も応戦する場面があるが、今日は相手の土俵で戦わされてしまう。
6R。坪内は頭を低く下げてファイター型志向。左ボディ有効打で先制すると、左を細かく追加して小差ながらリード。大橋も猛烈な手数でタフネスをアピールする。
7R。クロスレンジの手数合戦。大橋が絶え間なく手数を出してガードを突き破る場面も。坪内の抵抗も力強いが、休む時間が長い。
8R。大橋の力強い攻勢が目立つ。坪内は距離を開けた所に追撃され、大ピンチ。反撃も大振りで迫力に欠ける。右フック1発返すも後が続かない。
9R。坪内は渾身の反撃に出るが打ち終わりの際の仕草に体力切れが顕著に表れる。大橋は受けた攻撃に5割の利息をつけて反撃し優勢。坪内の的確な強打に効かされる場面もあるが、攻め手を休めない。
10R。大橋の猛攻が続く。坪内は抵抗するが短時間で力尽き、ロープに詰められて燃え尽きるように動きが止まった。レフェリーストップがかかってTKO。
大橋が力強い強打攻勢で相手のテクニックを封殺し、鉄壁のガードをこじ開けて念願の日本ランキング奪取に成功した。今日はモチベーションの高さを拳に乗せて戦えたのが最大の勝因か。
坪内は試合序盤こそキレあるパンチで見せ場を作ったが、今日は動きがいつになく固く、持ち味であるはずのジャブも出ずに主導権支配に失敗した。後半戦には、珍しく相手のなすがままのペースで乱打戦に突入し、体力を削られてTKOに屈した。前回の試合とはまるで別人のような拙い試合運びで、仕方ないとは言え、気合不足が顕著であった。ある意味、後腐れなく辞められるシチュエーションが整ったとも言えるが……