駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第4試合・バンタム級6回戦/○林孝亮[緑](判定2−1)橋詰智明[井岡]●

事前の評判では事実上のメインとも称される、地区決勝MVP対決が実現。だがこのカードがノーTV・観衆500人余しか観られないというのは……。ひょっとすると再戦はタイトルマッチかも知れないこの好カードが“幻の試合”として埋もれてしまうのは大変に遺憾である。
中日本(7人参加)代表の林は8勝(5KO)無敗の戦績。トーナメントは1回戦シード、準決勝を不戦勝でスルーしたものの、その代わりにB級選手2人とタイ人1人を相手にハードな調整戦を行い、見事に3連勝。地区決勝も大熱戦の末に判定勝ちで制してMVPを獲得した。
対する西日本MVPの橋詰は6勝(4KO)無敗1分。アマ時代から素質を高く買われていたエリートながら、トーナメントを戦いつつ確実に成長している辺りに奥の深さを感じさせる逸材。しかしここ最近はリング上で見せる悪い意味での“若さ”が気になるところ。
1R。パワーとタフネスで勝る林は、圧力をかけての強打狙い。ワン・ツー、フック連打をブンブンと振り回す。これに対してスピードとテクニックが持ち味の橋詰は、サイドステップ軽やかに林の攻撃を捌きつつ、左ボディ中心にジャブ・ストレートを交えた絶妙のカウンターで再三ヒットを奪う。林の強振は空転が目立つが、それでも強い圧力で橋詰の動きを食い止めて右ストレートを数発ヒットさせて抵抗する。
2R。このラウンドも林はプレッシャーをかけて強打狙い。そして橋詰もこの攻勢を捌きつつ左のジャブ、ボディブローで迎撃してヒット数では圧倒。だが林は執念深く橋詰をコーナーやロープ際に追い詰めてKO級のパンチを狙い撃つ。そしてラウンド終盤、遂にワン・ツーのクリーンヒットで橋詰のヒザをガクンと折らせる大ダメージを与えて一気に劣勢を挽回する。採点上は、この林の特大級のクリーンヒットと、橋詰の軽〜中度のヒットの積み重ねをどう比較するか、ジャッジの主観と見識が問われるラウンドになった。
3R。ショートレンジ乱打戦。技術水準は既に日本ランカー半歩手前のハイレベル。林はボディを強引に効かせるものの、KO狙いの連打はこのラウンドも空転気味。橋詰はアッパーの連打が有効に機能し、僅かながらアドバンテージ獲得か。
4R。林はやはり圧力かけ、空砲乱発も構わずの強打攻勢。橋詰はダメージが蓄積されたかロープ際を伝って専守防衛となり、主導権を手放す。結局、林が橋詰を時折捕捉しては右ストレートを2回、3回と有効打させ、優勢を築く。
5R。このラウンドは足止めての密着距離での乱打戦。共にショートアッパーを絶え間なく突き上げて互角の攻防に。回転力で勝る橋詰が打ち合いを制する割合が多いが、林の強打は一発一発が印象的。
6R。足を止めての乱打戦。このラウンドは林が先手、先手で攻め立ててヒット数で先行。橋詰も林の打ち終わりを狙ったアッパーで反撃して数的にも肉薄するが、ラウンド通じて林が小差優勢を手放さなかった。
公式判定は坂本58-57、石川58-57(以上、林支持)、福地58-57(橋詰支持)の際どいスプリットで林が激闘を制した。駒木の採点は「A」57-57「B」58-58でいずれもイーブン。優劣判断がジャッジの主観のみに委ねられるラウンドもあり、その上、出場選手が地区を代表する好素材とあっては不可抗力的な地元判定となるのも止むなしか。もし採点がドローであっても、中日本地区のジャッジが2人いる限りは林の勝者扱いは揺るがないだろう。
さて、試合内容は前評判通りのハイレベルかつハイテンションな大熱戦。もしこの試合が全日本決勝で実施されたなら、後楽園ホールが興奮のるつぼと化したに違いない。そんなシビアな展開の中、林は自分が橋詰より勝る要素――パワー、パンチ力、スタミナを愚直なまでに前面に押し出して粘り強く戦い、実に際どいスプリットデジションをモノにした。全日本決勝でも、勝利は勿論のこと、三賞・MVPまで期待出来るだろう。
敗れた橋詰はスピード、テクニック、コンビネーションの回転力は林より数段上。1Rの内容からは大差判定勝ちもあるかと思われたが、林の強打攻勢に晒されるうち体力を消耗し、命綱であるステップワークを止められてしまった。西日本開催ならあるいは、と思わせる惜しい内容ではあったが、林と比べて足りない要素が見受けられたのも確か。この敗戦の責はジャッジと敵地に転嫁することなく、謙虚な気持ちで受け止めてもらいたいと思う。