駒木ハヤトの西日本ボクシングレポートアーカイブ

かつて京阪神地区のボクシング会場に通い詰め、レポートを記した男ありけり。はてなダイアリーから記事をインポートしたものの、ブログ化して格段に読み難くなってしまいました。

第3試合・Sフライ級10回戦/○小松則幸[Gツダ](8R1分46秒KO)ワンミーチョーク・シンワンチャー[タイ国]●

事実上のセミファイナルは、これまた注目のカード。ジム移籍第1戦となる前OPBFフライ級王者の小松が、元同王者で日本でも既に御馴染みのタイ人・ワンミーチョークを迎える。
エディタウンゼントジムから移籍した小松は21勝(9KO)3敗5分の戦績。長期休養が災いしてか、直前のWBC世界ランクでは遂に15位圏内から陥落し、現在は20位。この試合直後の日本ランキングで1位に登載された。過去2度に渡りOPBFフライ級のベルトを巻き、世界挑戦も経験した国内有力選手の1人ではあるが、昨年6月に日本王者・内藤大助[宮田]との王座統一戦に敗れて現在は無冠。再起戦としてはハードなマッチメイクのこの試合を起点にして、目指すは悲願の世界王座奪取である。
日本では、一昨年に調整不足か地域王者らしからぬ試合振りで亀田興毅[協栄]にOPBFベルトと世界ランクを献上した事で不名誉な名を馳せたワンミーチョークは、現在WBC37位の地位。亀田戦後も昨年7月に再来日し、05年度全日本新人王で日本ランカーの奈須勇樹[Gツダ]相手にイリーガル寸前の地元判定で敗れるも、王者時代とは一味違う試合振りを披露して会場に詰め掛けたファン・関係者らを唸らせた。帰国後も翌月にはエドガー・ロドリゴ(王者時代の小松に挑戦経験アリ)相手にOPBF挑戦者決定戦を3RKOで勝利するなど、今やすっかり東洋圏の有力選手としての地位を確立している。
1R。ワンミーチョークは頭を低く下げ、ロングレンジからトリッキーなタイミングで右の多彩なパンチを上下に散らして手数、ヒット数で小差リード。ディフェンスの反応も良く、手足のスピードも鋭い。小松は右ストレート2発ヒットさせるも、様子見中心で結果的に後手の印象。
2R。ワンミーチョークのストレート並に強い右ジャブ、アッパー、フックが鋭く、散発的ながらヒット、有効打に繋がる。小松は、はしっこく動くワンミーに的を絞れず、ラウンド最終盤の数十秒以外は手数をまとめるのにも手間取った。
3R。ワンミーチョークの変則的ペースに小松はなかなか対応出来ない。ラウンド中盤には漸くジャブ、ワン・ツーで手数攻めしたが、終盤には右フックのカウンター合戦でハンドスピード負けしてモロに被弾。痛恨のダウンを喫した。
4R。ワンミーチョークが自分の距離、ペースで右フック単発中心の組み立て。小松はワンミーを捕まえてショートを振るうが手数のみの印象。逆に右フックをカウンターで2発有効打されて印象を損なう。
5R。徐々に動きにキレが無くなって来たワンミーチョークの足を咎め、小松は距離を詰めて主導権奪回を狙う。左カウンターを浴びるなどヒヤリとする場面もあったが、至近距離からショートフック、アッパー中心の連打で手数を稼ぐと、フラッシュ気味ながら左フックでワンミーをロープの外へ乗り出させるダウンを奪ってポイント劣勢を一気に挽回。
6R。距離が詰まって小松の手数と回転力が活きる展開に。ショートからのフック、アッパーが細かくではあるが次々と刺さって優勢。ワンミーは手数少なく、命綱のスピードが鈍ってトリッキーなファイトスタイルが仇になり始めた。ラウンド終盤にはアッパーをクリーンヒットさせて意地を見せるが、形勢逆転には足りない。
7R。ワンミーチョークのスピード減衰は明らかとなり、完全に小松ペース。ラウンド序盤からショート連打で手数、ヒット数を稼ぎ、ワンミーチョークの単発気味の攻撃を捌く。だがワンミーもカウンターを狙った際の一瞬の切れ味は健在で、このラウンドでも右カウンターで会場の小松ファンをヒヤリとさせる。
8R。中間〜近距離でやや散漫な打撃戦でスタート。しかし、かすったかどうかすら微妙な小松のフックと同時に足を滑らせたワンミーチョークにダウンが宣告されてから試合が一気に動く。再開直後に勝負を決めにいった小松のワン・ツーでワンミーが嫌倒れ気味にこのラウンド2度目のダウンを喫すると、余力を残して立ち上がったワンミーに対して宮崎レフェリーは容赦なく10カウントコール。試合の趨勢は既に決していたが、ここまで来たら3ノックダウンまで面倒を見て欲しかった気もする。
小松は試合前半に“本気モード”の相手に大苦戦。ダウンまで喰らうエマージェンシーに陥ったが、やがて相手がスタミナ切れを起こすと難なく主導権を奪って逆転勝ち。KOまでの流れはレフェリーのサポートがあったものの、再起戦とジム移籍初戦を兼ねた試合としては及第点の内容。劣勢からの挽回の早さに防衛経験豊富な元地域王者の面目を見た。
ワンミーチョークは4Rまでは変則的ながら世界下位ランカー級のパフォーマンスで堂々と強豪相手に渡り合ったが、スタミナ切れでスピードが鈍ってからは脆かった。トリッキーな戦術が我が身を傷つける諸刃の剣となった典型例。個人的な印象としては、一昨年の初来日時は初っ端から今日の5R以降のワンミーだったように感じ、やはりあの試合は実力査定の参考外とすべきだという思いを新たにした。